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地球のコアには大量の水素が取り込まれている? 長年の謎に迫る研究成果

sorae.jp 2021年5月13日 20時38分

【▲ 誕生当時の地球には現在の海水の数十倍もの水がもたらされていたかもしれない(Credit: NASA)】

東京大学大学院(研究当時)の田川翔氏らの研究グループは、地球のコア(核)に大量の水素が取り込まれていることを示唆する研究成果を発表しました、研究グループによると、誕生したばかりの地球には現在の海水と比べて数十倍もの水がもたらされた可能性があるようです。

■海水の約30~70倍に相当する水素が地球のコアに取り込まれたか

地球はコア(液体の外核と固体の内核に分かれる)をマントルと地殻が取り囲む構造をしています。コアは金属、地殻とマントルは岩石でできていますが、研究グループによると、液体の外核の密度は純粋な鉄の密度と比べて約8パーセント小さいことが知られているといいます。「密度欠損」と呼ばれるこの事実は、鉄やニッケルよりも軽いケイ素、酸素、水素といった元素(軽元素)がコアに大量に含まれていることを意味しますが、研究が70年近く続けられてきたにもかかわらず、軽元素の正体は突き止められていなかったといいます。

こうしたコアに含まれる軽元素は、地球が誕生したばかりの頃に取り込まれたようです。当時の地球はマグマオーシャンに覆われていて、原始地球に衝突した天体の核の断片である金属が、地球のコアに向かってそのなかを沈み込んでいたとみられています。このとき、金属が周囲のマグマと化学反応を起こすことで、水素などの軽元素を取り込みながら沈んでいったことが考えられるといいます。

【▲ 現在の地球の断面(左)と、原始地球に衝突した天体に由来する金属が沈み込む様子(右)を描いた図。マグマオーシャンを沈んでいく金属は周囲のマグマと反応して水素が分配されたと考えられている(Credit: 東京大学)】

そこで研究グループは今回、金属とマグマが化学反応を終えた時点で水素がどのように分配されるのかを明らかにし、水素が地球のコアにどれくらい取り込まれたのかを探るべく、30万~60万気圧・2800度~4300度という超高圧高温状態において、マグマと金属鉄の間でどのように水素が分配されるのかを調べる実験を行いました。

兵庫県にある理化学研究所の大型放射光施設「SPring-8」を用いた試料のX線回折測定やシミュレーションによる分析などの結果、地球のコアに含まれる軽元素は主に水素であることが明らかになったといいます。また、地球の形成時に継続的に水がもたらされていたと仮定した場合、現在の海水と比べておよそ30~70倍に相当する量の水が、地球のコアに水素として取り込まれた可能性が示されています。

■表層が地球に似た惑星は宇宙に多く存在するかも?

惑星の形成に関する最近の理論によると、形成時の地球には現在の海水と比べて何十倍~何百倍もの水が小惑星によってもたらされた可能性が高いと考えられています。そのいっぽうで、生命の誕生につながる化学進化にとっては、海と陸がどちらも存在する多様な環境が重要だったとも考えられています。

今回の研究は、原始地球の水の大半がコアに取り込まれた結果、地表が深い海に覆われることなく、生命の誕生にとって有利な条件が整った可能性を示すものとなりました。研究グループによると、こうした水の「調整メカニズム」は質量が地球の1割以上の岩石惑星であれば働くことが考えられるといい、この宇宙には地球のような表層の環境を持つ惑星が数多く存在するかもしれないと言及されています。

ただし、研究グループによると、今回のシミュレーションでは常に同じサイズの微惑星が地球に集積していく、シンプルなモデルが用いられているといいます。研究グループでは今後、最先端の惑星形成モデルに今回判明した水素の分配を取り入れることで、地球誕生の謎を明らかにしていきたいと考えています。また、地球のコアに含まれる軽元素の全容解明にも大きく近づいたことから、コアに存在することが有力視されている他の軽元素(硫黄、ケイ素、酸素、炭素)の存在量を明らかにすることで地球のコアの実態に迫り、70年に渡る軽元素の問題に終止符を打ちたいとしています。

 

関連:天の川銀河で地球のような水の惑星は珍しくない? 最新研究により判明

Image Credit: 東京大学
Source: 東京大学
文/松村武宏

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