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“逮捕歴あり”の部下まで押しつけられ…45歳公務員の「悲惨な現実」。すぐ辞める若手の尻拭いをする毎日、残業は月60時間

日刊SPA! 2024年2月27日 8時53分

管理職の名の下、残業代も支払われず限界まで働かされ、使い捨てにされる……。’08年に「名ばかり管理職」という言葉が生まれてから16年、空前の人手不足の今、多くの中年が職場で苛酷な労働に喘いでいる。その悲惨な現状を追い、日本特有の病理を探った!
◆安泰と思われた公務員でも中年は苦境に立たされていた

公務員・主査(45歳)/年収540万円

中年が苦境に追い込まれているのは、民間企業に限った話ではない。東京近郊の市役所で中間管理職の主査を務める原口一晃さん(仮名・45歳)は、若手が異常なほど定着しない職場を自嘲気味に話す。

「もともと役所では、一時期に集中する納税の業務や給付金の交付など、マンパワーに頼る仕事が多い。だから、毎年のように新人を大量採用しているのですが、若手はクレーム対応や窓口業務を嫌ってすぐ辞めてしまう。業務経験が1年を超えただけで一人前と見なされる“2年目以降職員”という冗談のような呼び名があるほど(苦笑)。我々中年職員は自分の業務に加えて、新人の教育と尻拭いまでさせられ、仕事が溜まる一方です」

◆使えない非正規のしわ寄せも中年に!?

中年職員への仕事のしわ寄せに拍車をかけたのが、’20年に導入された地方公務員会計年度任用職員制度だ。非正規雇用が激増し、職員の質はさらに劣化したという。

「経験もスキルも不十分な非正規が増えた結果、業務のミスや遅滞が続発している。幹部は『人手不足だから仕方ない』と新人のミスに目を瞑り、退職者が増えるのを防ごうとするが、新人のフォローをするのはまたもや我々中堅職員。でも、運よく新人が一人前に育っても、その頃にはその何倍もの若手が辞めていく」

さらに、労働環境を悪化させる原因がある。驚くことに、犯歴を持つ職員がいるというのだ。役人は処罰が厳しいはずだが……。

「現実は、何をしてもクビにならないのが公務員。痴漢で2回の逮捕歴がある職員、盗撮で捕まった職員、部下にわいせつ画像を見せるセクハラ上司もいるが、一人もクビになってません。そんな元犯罪者の職員が、私の部署に異動してきたんです。ただでさえ忙しいのに、経験がある中年というだけで厄介者を押しつけられたようなもの……。何をしても解雇されないことを知っているから、はなから仕事をする気なんてない。

それに、子育て世代は残業が少ない部署に配属される一方、子育てが一段落した中年世代は長時間の残業を求められる部署に行かされる。労使協定では月45時間が上限ですが、これはあくまでも原則。実際、私は毎月60時間ほどは残業させられている。毎日胃が痛いし、残業は増えるし、体を壊さないか本当に心配です」

安泰と思われた公務員でも、中年は苦境に立たされている。

◆中年の働き方が報われない理由とは…

なぜ中年の働き方は、これほど報われないのか。労働社会学者の常見陽平氏は、その理由をこう分析する。

「バブル崩壊後、“失われた30年”の長期不況の間、経営者は人材をコストと捉えていた。昇進・昇格・昇給などのロジックが見直され、非正規雇用も拡大した。また、ITの導入など激変する就労環境の整備に、企業は追われ続けてきた。その結果、中年の働き方の改善は後回しにされてしまった。一方、中年の下の世代は仕事がミスマッチなら転職に抵抗もなく、新しい働き方を模索する。これら多くの要素のしわ寄せが、中年にきていることは否めません」

一般社員の約8割が「管理職になりたくない」と回答した調査結果も、報われない職場環境を反映している。

「出世の椅子は数少ない上に、ビジネスが複雑化・高度化して責任は増す一方。さらに、経営幹部と部下の板挟みで心身も疲弊する。年功序列で出世して仕事が減った上司と比べて、給料も目減りした感がある。夢がないから、やりたがらないのは当然です」

耐えるしかないのかと思いきや、常見氏は中年に光が当たりつつあるという。

「過酷な環境を生き抜いてきたキャリアや経験に価値を見いだす企業も増えている。年収や役職に固執しなければ、QOLが向上する職場と出合える転職は多くなりました」

◆ミドル転職が活況!?中年にチャンス到来

では実際に、40~50代の中年の転職事情はどうなっているのか。ミドル世代専門の転職コンサルタントである黒田真行氏はこう説明する。

「労働人口の減少によって、10年前の転職市場で高く立ちはだかった“35歳の壁”は崩れつつある。企業側も40代、50代のミドル層に触手を伸ばし始めており、職場を替えるチャンスは確実に増えています」

ただし、今潤っている業界に飛びつくのは早計だ。

「慢性的な人手不足の中、従業員の扱いが雑な会社の将来性は乏しい。報酬がいいからと職場の風土や環境を軽視する人もいますが、心身を犠牲にすると結局長く働けない。一時的な年収よりも累積年収を重視する視点が大切。いかに精神的に健康に働けるかにも目を向けるべきです」

救われない中年が再起するにはどうすればいいのか。

「仕事の経験を再現性のあるノウハウに落とし込めているか。それを武器に年収交渉ができるかどうかがポイントです。『自分には何もない』とはなから諦めている人がいるが、それは自分を卑下しすぎです。5年以上も同じ職場にいたら、業務改善による効率化やコスト削減、売り上げアップなど、何かしらの成功体験を持っているはず。まずは、これまでのキャリアの棚卸しをお勧めしたいですね」

耐えしのぐか。収入を下げてもQOLを求めるか。報われない中年の選択は?

【労働社会学者 常見陽平氏】
科大学国際教養学部准教授。いしかわUIターン応援団長。『社畜上等!』(晶文社)など、著書多数

【転職コンサルタント 黒田真行氏】
ルーセントドアーズ代表取締役。35歳以上の転職支援サービスや、40歳以上のキャリア相談サービスを提供している
取材・文/週刊SPA!編集部

―[救われない中年社畜 地獄の実態]―

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