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マクドナルドの客単価が“大幅に増加”。「安かろう、悪かろう」のイメージから抜け出せた理由

日刊SPA! 2024年3月23日 8時53分

経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は日本マクドナルドホールディングス株式会社の業績について紹介したいと思います。
ハッピーセットの買い占め騒動や、システム障害など、何かと話題が尽きないマクドナルドですが、売り上げは右肩上がりなのです。総店舗数は変わっておらず、1店舗あたりの売上高が伸びた形です。土台となったのは、以前より進めてきたブランドイメージの改善です。今回はマクドナルドが進めてきた“脱・安売り路線”と近年の業績について見ていきたいと思います。

◆「1店舗当たりの売上」が大幅に増加

その好調ぶりがよく取り上げられる日本マクドナルドですが、コロナ禍で業績は以下のように推移してきました。2019年12月期から2023年12月期までの業績は次の通りです。

【日本マクドナルド株式会社(2019年12月期~2023年12月期)】
売上高:2,818億円→2,883億円→3,177億円→3,523億円→3,820億円
営業利益:280億円→313億円→345億円→338億円→409億円
システムワイドセールス(SWS):5,491億円→5,892億円→6,520億円→7,176億円→7,778億円

マクドナルドは店舗数の7割をFC店が占めるため、本社の売上高は直営店売上とFC店からのロイヤリティで構成されています。そのため、直営店・FC店を合わせた全店売上高はシステムワイドセールス(SWS)で見る必要があります。

2020年度以降の4年間でSWSは2,000億円以上も拡大しました。この間、スクラップ・アンド・ビルドを進めながらも総店舗数は2,910→2,982店舗と大きく変化しておらず、1店舗あたりの売上が伸びたことが分かります。年間SWSを期末時点の総店舗数で割った値は、19年12月期から23年12月期にかけて1.9億円から2.7億円と大幅に増加しました。

◆イートインは減少も、持ち帰り客が増えた

SWSの拡大を支えたのがテイクアウトやドライブスルーを通じた持ち帰り客、そしてデリバリーです。決算資料に表示されたグラフをみると19年12月期の段階でイートイン、テイクアウト、ドライブスルーはそれぞれ売上の約3分の1ずつを占め、デリバリー客はごく僅かでした。

それがコロナ禍ではイートイン客以外が伸び、23年12月にはイートイン客以外でおよそ8割を占めるに至りました。中食需要の増加が主な理由ですが、郊外立地も増収をもたらしています。コロナ禍では都市部に重点を置く飲食チェーンの業績が悪化した一方、すき家や寿司チェーンなど、郊外立地をメインとする企業では業績の改善が見られました。

そして客単価の増加もSWS増収に貢献しています。持ち帰り・デリバリー客はイートイン客よりもファミリー層や複数人の比率が高いため、お店に多くお金を落とす傾向にあります。また、近年段階的に実施している値上げも客単価の増加をもたらしました。23年1月末の時点でビックマックは税込450円でしたが、7月には450~500円となり、全メニューの内3分の1を値上げした今年1月の値上げでは480~530円まで引き上げられました。

※値段を幅で表記しているのは通常店、準都心店、都心店とで価格が異なるため

◆「脱・安売り路線」が成長の土台に

以上のように持ち帰り客とデリバリーの売上増加が全社業績に貢献した形ですが、その土台となったのは以前より進めてきた脱・安売り路線にあると筆者は考えています。

マクドナルドは1987年の流行語にもなった390円の「サンキューセット」で安売り路線を歩むようになり、バブル崩壊後の90年代、00年代は不景気下に合わせて異常なまでの安売りをするようになりました。2002年にはハンバーガーを過去最安値の税込62円で販売しています。当然ながら極端な安売り路線は利益を圧迫しました。

その後も安売り路線は継続した一方、業績を回復させるべく店舗のFC化を進めました。2004年に3割程度しかなかったFC比率は14年度に7割まで拡大しましたが、急速なFC化が店舗におけるサービスの質の低下をもたらしてしまいます。結果的に業績は一時的に改善するも再度悪化し、マクドナルドに関して消費者の間では「安かろう、悪かろう」のイメージが定着するようになりました。

この安売り路線をやめたのが2013年に社長に就任したサラ・カサノバ氏です。一部でお得な商品を残すも段階的に値上げを実施し、利益の改善を図りました。店舗の質改善に関しては全国の店舗を回って顧客や現場の意見を取り入れ、賃上げ等でインセンティブを強化するとともに人材教育を強化しました。

また、ファミリー層や大人が来たくなるよう、古い店舗の改装や店舗改革を進めています。カサノバ氏以降の脱・安売り路線はマクドナルドのブランドイメージを改善し、2015年からコロナ前の19年度にかけて増収増益が続きました。

安さ目的で行く店から、多少割高でも行きたい店に変化できたわけです。仮に以前のイメージのままだったら、中食需要の増加とはいえコロナ禍でここまで躍進できていなかったと思われます。

◆中期経営計画の目標は達成済み

さて、22年度から24年の中期経営計画では24年度の全店売上高(SWS)7,520億円以上、営業利益増加率年平均3~5%などの目標を掲げています。とはいえ、前述の通り23年度のSWSは7,778億円とすでに達成済みで、他の目標についても達成済みとなっています。

なお、建替えや店内改装など、古い店舗の改善は継続するようです。地方でも近年、古い店舗がカフェのような居心地の良い店舗へと生まれ変わっており、店舗の改善を進めれば依然軟調なイートイン客も増える可能性があります。

ちなみに24年度はSWS8,260億円と23年度と比較して5%増を見込んでいます。今期1、2月単独では前年同月比5%以上を達成しているため、このペースをキープできれば目標を達成できるでしょう。

日本マクドナルドの歴史は50年以上もあります。今後どのような戦略をとっていくのか、長期スパンで注目していきたいものです。

<取材・文/山口伸>

【山口伸】
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_

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