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「解雇規制緩和」が注目される今、50、60代がすべき「リストラされても困らない」対策とは

日刊SPA! 2024年9月28日 8時53分

人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、今回は中高年のリストラ対策を語る。
中高年、シニアとなれば、リストラからの再就職の難易度も上がるし、若手よりもリストラの対象ともされやすくなってしまう。もし、リストラの対象になってしまったら? その場合の対応策とは?

◆日本はリストラされやすくなる?

毎年のようにどこかしらの大企業のリストラのニュースが出ているが、2024年も様々な企業のリストラのニュースがあった。資生堂、オムロン、カシオなどに関するニュースは印象が強い。

海外のテック企業のリストラも昨年に引き続き耳にした。アマゾン、アップル、グーグル、マイクロソフト、メタなど、「GAFAM」と謳われた国際的なテック大手も不採算部門の解雇やレイオフなどを行っている。

折しも自民党総裁選挙では、「解雇規制緩和」が争点の一つとなっている。世界的に見ても解雇のハードルが高い日本の労働関連法を見直し、企業が労働者を解雇しやすくすることで、雇用の流動性を高めようとする動きだ。

これまでにも「解雇規制緩和」が検討されたことはあったが、多くの反発があり、実現しなかった。今回の自民党総裁選で話題に上った「解雇規制緩和」についても、実際に様々な声が上がっている。

では、将来の制度の変化についてはさておき、現状の制度の中でもしも自分自身がリストラの対象になってしまったら、あるいはリストラの候補になりそうになったら、どうすればよいのだろうか。

今回は、ただでさえ転職や再就職が難しくなる中高年がリストラの危機に遭った場合の対策についてまとめる。

◆リストラとはそもそも何?

ここまで「リストラ」と無造作に連呼しているが、もともとの英語の「re-structuring」と日本での「リストラ」は意味が異なることに注意が必要だ。英語では「組織再編」に近い意味となるが、日本では単に「整理解雇」の意味合いが強い。

解雇には、整理解雇、普通解雇、懲戒解雇などがある。労働者に成績不良などがあった場合の普通解雇や懲戒解雇でも、会社が自由に解雇できるわけではないが、業績不振などによる整理解雇も法律で厳しく制限やルールが設けられている。簡単に言うと、解雇の前に様々な可能性を探ったり、努力をしたりできなかったのかが問われる制度になっている。

また、厳密にはリストラのニュースでよく聞く「希望退職制度」と「リストラ」は異なる。しかし、希望退職は業績悪化にともない実施され、退職する定員に達しない場合は整理解雇などへ進むために、「リストラの前段階」と認識されている。

ニュースで聞くものはほとんどが大手企業の希望退職の話であるが、これは解雇のハードルがそれだけ高いことの裏返しだ。

たとえば1カ月以内に30人以上を解雇する場合、企業は大量雇用変動届をハローワークに提出しなければならない。また、その際には再就職援助計画と呼ばれる計画の作成も法律で企業の義務となっている。これは、人材紹介会社にリストラを行う側の企業が料金を支払って解雇される社員の仕事探しを行う、いわゆる再就職支援がポピュラーだ。

この再就職援助は、定年後の再雇用を含めて、企業が45〜70歳の社員を解雇する場合にも義務付けられている。つまり、中高年を解雇する場合でも、大量リストラと同じような支援の必要が企業にはあるのだ。

◆何度もリストラを攻略したシニアの失敗とは

このように、中高年の解雇では再就職援助措置が企業に求められているにもかかわらず、実際にはあまり支援が行われないままクビにされてしまう中高年は多い。あるいは、ちょっとした再就職支援が行われても、なかなか次の仕事が決まらないというケースも多い。実際にどういったシニアが苦戦しているのか、一部をご紹介しよう。

とある製造業の技術者で、リストラの対象に入っているという60代前半の方がいた。その時が人生で初めてのリストラではなく、何度かリストラにあい、その度に次の職場に能力を買われてリストラを攻略してきたという。

しかし、60代のリストラはそれまでとは違い、次の仕事がまったく決まらなかった。そのシニアは「60歳を超えただけでこんな目に遭うなんて」と年齢のせいだと感じているようだった。実際、年齢によってハードルが上がった面もあるだろうが、それよりもそのシニアが持つ技術へのニーズが低下したことが大きい。特に製造業では、製品のニーズが下がるとその製品の専門人材へのニーズも下がることがよくある。

私たちは「多少給料が下がっても、近い他の製品の工場はどうか?」と勧めたが、そのシニアはそれまで自身が歩んできた製品ジャンルから離れることを嫌がり、その後も仕事が決まらなかった。

ほかに、大手企業の営業や間接部門、つまりホワイトカラーの元管理職などでもリストラされて再就職を希望する人は多い。彼らの希望職種は、営業や企画といったリストラ前の職種そのままがほとんどだ。中には「管理職希望」と言い切るシニアもいる。

当たり前であるが、シニアの管理職中途採用はそこまで求人件数が多くない。営業などは以前よりもシニア求人が増えてきているが、まだまだ現役世代の職種の人口に比べると求人が少ない「狭き門」だ。こうしたシニアも当然なかなか決まらない。

◆実際にリストラされたらブランクを開けるな

では、中高年がリストラや希望退職の対象になった、あるいはなりそうな場合に、どうすればよいのか。その対策をお話しする。

まずは、「新たに学ぶ姿勢を持つ」ことが大事になる。

これまで培った経験やスキルは、シニアの最大の武器となるが、それだけでは転職・再就職を成功させられない。持っている経験やスキルの価値が、現在の転職市場ではそれほど高くない場合もあるし、新しい職場で求められるすべてを最初から網羅できている人も多くはない。

次に、「社内や労働市場での自身の価値を正しく理解する」ことだ。

社内の職位や給料がそのまま価値とは言えないのは言わずもがな。もちろん、転職市場でそれまでの会社の立場や給料はスライドできるわけではない。今の職場でも応募先でも、自分は何を求められているのかを理解することで、慰留や採用が近づくだろう。

特にシニアでは、机上の知識よりも実務経験が重視される。老後のキャリアを考える中で十分な実務経験が得られない仕事に就いている人は、副業などで実務経験を積むことも考えたい。指示された仕事をこなすだけでは、価値につながる経験・スキルを得られないことも多いので、その場合も副業や能動的な学びが必要になる。

また、「自社の制度やルールとその実態を理解する」ことも必要になる。

当たり前であるが、自社の制度やルール以上に恵まれた特例などが得られるわけはない。逆に制度やルールがあっても、実態はそれが守られないケースはある。ただ、制度やルールは事前に確認できるし、その実態も他の社員の待遇を見ていれば察しが付く。準備は早く始めるにこしたことはない。

いずれにしても、早め早めに自身の価値を最大化するための準備を進めていきたいところだが、実際にリストラされてしまった場合は、自身の価値を最大評価してくれる次の職場を探すよりも、ブランクを開けないことと重視したほうが、長い目で見た老後のキャリアではプラスになる場合が多いだろう。

【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中

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