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シャープ買収の次は日産獲得か…台湾・鴻海(ホンハイ)の狙い。日本企業を狙う背景には“iPhone依存体質”への焦りが

日刊SPA! 2025年2月1日 8時53分

 経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回はシャープの買収で知られる鴻海精密工業の歴史について紹介したいと思います。
 鴻海(ホンハイ)精密工業といえば、日本では2016年のシャープ買収により一躍知られるようになりました。当初は台湾の小さなプラスチックメーカーとして創業しましたが、パソコン部品の製造に参入すると、市場の拡大により90年代から一気に成長しました。2000年以降はEMS(電子機器受託製造)企業として任天堂やApple社製品の生産を担うようになります。ここ最近では、日産を狙っているとの憶測も出ていますが、「一流製品を製造するも自社ブランドはない」鴻海の焦りが現れているようです。

◆創業当初は白黒テレビの「つまみ」を製造

 鴻海精密工業は1974年、鴻海プラスチック工業として郭台銘氏が設立しました。当初は小さなプラスチック部品製造の企業であり、白黒テレビのチャンネルを回す「つまみ」を製造していました。その後、テレビや電話、ラジオのプラスチック部品にも手を広げます。

 80年代にテレビ市場が成熟し競合が増えると、鴻海はパソコン部品に注力し始めました。82年に現在の社名に商号変更し、パソコンのコネクタや電線、ケーブルの生産を行うようになります。当時は台湾電子工業やエイサーなど、台湾の電子製品メーカーが主な顧客でした。

 テレビからパソコンへの切り替えは成功といえます。90年代以降、市場が急拡大したことで鴻海の業績も伸びました。台湾域内だけでなく米国も視野に入れ、アップルやコンパック、インテルなどの企業と部品の共同開発を行いました。このころには筐体の他、マザーボードなどの主要部品の製造にも携わるようになりました。

◆EMS企業として成長。いまや32.75兆円の売上高

 2000年以降、EMS企業として部品製造だけでなく、一製品の組立・テストを行うようになりました。EMSは他社が設計した電子機器を製造し、設計からテストまでを担う企業のことです。現在では各社が販売するPCや携帯電話のほか、任天堂とソニーのゲーム機を生産しています。ちなみに任天堂は工場を持たないファブレス企業です。

 本来、生産工程は設計などの上流工程と、販売・アフターサービスなどの下流工程の利益率が高く、組立などの中流工程は利益率が低いとされています。利益率の低い中流工程で鴻海が成功した背景には、早い段階からコストの低い中国国内の生産拠点を拡充したことに加え、スピードを徹底する軍隊式管理が関係しています。金型製造も内製化し、設計から量産までの工程を他社ではできないスピードで製造を完了できるようです。

 EMSとして成長し、鴻海の売上高は拡大し続けました。2008年にiPhoneが発売されると、2010年代はiPhoneの受託生産でさらに成長することになります。スマホ市場の拡大と共に鴻海の売上高も増え、2024年度は32.75兆円となりました。

◆シャープに加えて日産も? なぜ日本企業を狙うのか

 冒頭の通り、日本国内での認知度が上昇したのは2016年のシャープ買収以降です。液晶生産への大規模投資と太陽光パネル事業で失敗したシャープは、2000年代後半から業績が悪化していました。鴻海はそこに目を付けた訳です。一時、液晶でシェアトップを握った日の丸企業の買収に、悲観的な意見もありましたが、鴻海傘下に入ってからは徹底したコスト削減を進め、その後シャープは営業黒字を達成しました。なお、近年ではコロナ禍におけるスマホ需要の低迷で液晶事業が再び低迷し、シャープは規模の縮小を進めています。

 昨年末に日産とホンダの経営統合が発表されましたが、ここにも鴻海が関係しています。日産の厳しい状況を踏まえて”お買い得”と判断した鴻海が資本参加に向けて活動を開始。これを警戒した経産省が日産・ホンダの統合を急かしたとの憶測が出ているのです。冷静に見れば、日産が苦戦する一方でホンダ側は二輪で好調。ホンダのメリットが小さい統合と言えます。

◆“iPhone依存”から脱却したい鴻海

 鴻海が日本企業を狙うのは、iPhone依存からの脱却を目指しているためです。EMS企業として売上高は伸びたものの、売上の半分を占めるのはiPhoneなどのスマホ関連。企業規模が年々拡大する一方で、利益率は低下し続けていました。自社ブランドで有力なPC・スマホなどの最終製品を持っている訳ではありません。鴻海は受託生産以外の道を模索しようと株価の安い日本企業を狙ったのです。

 特に近年はEV関連に注力しました。2019年にEV(電気自動車)事業への参入を表明した後、中国新興EV企業への出資や台湾自動車メーカーとの共同開発を行いました。しかし提携を発表した新興企業が倒産したほか、発売したEVがあまり売れないなど、EV事業も芳しくありません。日産買収に関してはテスラやBYDの好調をよそに、焦る鴻海の姿勢が窺えます。

 日産・ホンダの経営統合方針により、鴻海が日産を買収できる可能性はほぼゼロになりました。自社でEV事業を開拓し“iPhone依存”から脱却できるのか、鴻海は難しい舵取りを迫られています。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_

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