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アングル:「借金して投資」、韓国の若者世代の切実な事情

ロイター / 2021年9月1日 10時9分

8月25日、韓国で先月、新たな融資規制が発表されると、食品チェーンの仕入れマネジャーをしているジョー・パクさん(34)は、急いで借り入れを増やそうと走り回った。写真は7月、ソウルの街を歩く女性たち(2021年 ロイター/ Heo Ran)

[ソウル 25日 ロイター] - 韓国で先月、新たな融資規制が発表されると、食品チェーンの仕入れマネジャーをしているジョー・パクさん(34)は、急いで借り入れを増やそうと走り回った。

融資ブローカーに断られたパクさんが探し求めたのは、ずっとコストが高いクレジットカード融資など幾つかの代替的な金融手段だ。この先食費や貯蓄に回すお金が減るのを知りながら。

パクさんのように、投資のために必死に金策に動く韓国の若者が主導する形で、国内では借金ブームが発生し、韓国銀行(中央銀行)にとって懸念すべき潮流の1つになっている。

「当局が今融資の上限を下げるのは極めて不公平だ。私の信用スコアは完璧で、金利が上がってもより多くの利息を払える。なぜ融資をカットするのか。ここは社会主義国か」と憤るパクさんは、5年前に働き始めてから一度も返済が遅れたことはないと強調し、現実に納得がいかない様子だ。

一方政策当局にとってとりわけ心配なのは、最近導入した一連の規制措置がこうした借り入れの抑制に今のところほとんど効果を及ぼしていない点にある。

銀行が住宅購入、株式投資、生活費などの目的で家計に融資した金額は4-6月に前年同期から168兆6000億ウォン(約15兆8500億円)も増え、1805兆9000億ウォンと韓国の国内総生産(GDP)にほぼ匹敵する規模に達した。これは中銀が2003年にデータ集計を開始して以来、最高の水準だった。

7月に新たな銀行融資規制が打ち出された後でも、同月だけで家計向け融資の増加幅は9兆7000億ウォンと、6月の6兆3000億ウォンを上回った。

パクさんをはじめとするミレニアル世代は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の住宅価格引き下げ政策が何度も失敗したのを目の当たりにしてきた。従って多くの者にとって、両親が属するベビーブーム世代より豊かになるには、借金して投資する以外の選択肢がない。

結局、株式取引のために当座貸し越し口座から1億2000万ウォンを引き出したパクさんだが、世界で最も過熱している部類に入る韓国の不動産市場に手が届かなくなったことへの不満は、絶望へと変わりつつある。

<規制強化の波紋>

韓国では数週間前に貸出金利が上向き始め、利上げ見込みにもかかわらず、借金増加ペースが鈍る気配は見えなかったとアナリストは話す。

しばらく前から、韓国の若者の間で金融リスクが蓄積されてきた。

昨年、40歳未満の人が購入した集合住宅は27万2638戸で、前年比77%近く増加。40代の64%と50代の63%よりも高い伸びを示した。30代は収入に対する借金の比率が世代別で一番大きく、債務総額は年間収入の約270%となっているため、重大なリスクにさらされていることが中銀のデータから分かる。

融資ブローカーに聞いたところ、より多くの顧客が金利の高い貸し手に流れている。これは最終的に家計の状況を悪化させ、韓国GDPの半分前後を占める個人消費に打撃を与えるだろう。

大信証券のエコノミスト、コン・ドンラク氏は「銀行が融資を切るとともに、資金を必要とする人々は他の方法を模索する。まず両親に頼り、次いで規制を回避しようと金利の高い貸し手に向かって、最後はより大きなリスクを抱えてしまう」と指摘した。

税制変更や融資規制など数々の対策を打ち出しても不動産投機を抑え込むことができなかった政府は先月、とうとう国民にどうか積極的に借金をするのをやめてほしいと懇願までしている。

そうした中で7月に韓国金融委員会(FSC)は、個人が利用できる銀行融資の上限を収入の40%までに限る規制強化策を実施。債務問題が金融安定を脅かすようなら、さらに規制を厳しくすると表明した。

これに呼応して国内の銀行は融資制限に乗り出している。労働者や農家がよく利用する農協銀行は先週、住宅ローンと敷金向け融資を停止。ウリィ銀行も、9月末まで住宅ローンの新規承認を凍結した。ネット専業のカカオバンクも、融資制限を検討中という。

ただこれらの締め付けにより借り手は、規制対象から外れた高金利の金融業者へと走っている。

スタンダード・チャータード銀行韓国法人の融資担当者は「最高の信用スコアを持つ多くの取引相手はカードローンに移行している。なぜなら私が彼らの融資申請を却下せざるを得なかったからだ」と述べた。

中銀の李柱烈(イ・ジュヨル)総裁は7月、政策委員のほとんどが金融の不均衡問題を優先的に取り組むことに同意しており、政策調整は住宅市場の投機抑制に役立つと発言。またFSCの委員長に決まった高承範(コ・スンボム)氏は先週、家計債務の管理が自身にとって最優先課題だとし、対応を約束した。

もっともパクさんからすれば、融資規制強化は購買力を低下させるという皮肉な構図を生み出す。「家賃も株も何もかも値上がりしている半面、給料は増えない以上、もっと多くの借金をしたい。なぜ政府はこの事実が分からないかが理解できない」という。

(Cynthia Kim記者、Joori Roh記者)

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