焦点:正念場迎えたネタニヤフ氏、「魔術師」の本領発揮なるか
ロイター / 2021年6月1日 18時32分
イスラエル首相としての通算任期が15年を超えて歴代最長で、国家の顔としてすっかり有名になったネタニヤフ氏。支持者から「魔術師」と呼ばれるその同氏が正念場を迎え、まだ「奥の手」を用意しているかどうかが問われる局面が訪れた。写真は30日、エルサレムで代表撮影(2021年 ロイター)
[エルサレム 31日 ロイター] - イスラエル首相としての通算任期が15年を超えて歴代最長で、国家の顔としてすっかり有名になったベンヤミン・ネタニヤフ氏(71)。汚職疑惑で起訴されても、この2年だけで計4回の総選挙を経ても、権力の座にしがみついている。
支持者から「魔術師」と呼ばれるそのネタニヤフ氏が正念場を迎え、まだ「奥の手」を用意しているかどうかが問われる局面が訪れた。野党勢力の連立協議が進み、同氏から政権を奪取する事態が現実味を帯びてきたからだ。
ネタニヤフ氏が率いる「リクード」と同じ右派政党の「ヤミナ」のナフタリ・ベネット党首は、中道野党「イェシュアティド」のヤイール・ラピド党首が目指す連立政権に加わらないと公言していたにもかかわらず、一転して合流方針を表明。ネタニヤフ氏は30日、「世紀の詐欺行為」だと強く非難した。
こうした逆風下でもリクードはまだネタニヤフ氏への忠誠を保っているとはいえ、リクードを離党したギドン・サール元内相が結成した「新たな未来」も野党連立に参加する姿勢だ。
イスラエルの政治評論家は、ここしばらく国内政治の主導権はネタニヤフ氏の手から滑り落ちているとの見方を示した。
首相復帰からこれまで12年間ずっと維持してきたネタニヤフ政権が「強弩の末」の様相を色濃くした原因は、現在続く汚職疑惑の裁判だ。メディア界有力者に便宜を図ったことや収賄の疑いで起訴され、ネタニヤフ氏は不正行為を全面的に否定。具体的な証拠を示さずに、「闇の政府」の陰謀にはめられたと主張している。
もっとも政治評論家は、ネタニヤフ氏はもう終わりだと考えるのはまだ早いと警告する。左派系新聞ハアレツのアラフ・ベン編集長は「イスラエル政治のおけるビビ(ネタニヤフ氏の愛称)の時代に幕が下りたと宣言するのは時期尚早だ」と指摘。最終的に政変が起きるとすれば、ネタニヤフ氏とたもとを分かった同じ右派勢力によって同氏は首相の座を追われるだろうと予想した。
<根強い支持>
歴史学者を父に持つネタニヤフ氏は、高校・大学時代を米国で過ごした。
1984年から88年まではイスラエルの国連大使を務め、民衆を引きつけるフレーズを発する上で常に有効なその張りのあるバリトンを国際社会に鳴り響かせた後、リクードの議員として政界に進出。93年に党首となった。
96年に首相に選出されたネタニヤフ氏は、99年の総選挙でエフード・バラック氏が率いた当時の労働党に敗北し、いったん下野している。
この政権交代で首相府を明け渡す際、ネタニヤフ氏と妻のサラさんは、バラック氏夫妻と握手し、ワイングラスを手にしばし友好的に歓談した。ソーシャルメディアを通じて再三政敵を罵倒している今のネタニヤフ氏ならまずあり得ない光景だろう。
今回、ラピド氏がベネット氏と交代で首相を務める取り決めに基づいて新政権を6月2日の期限までに樹立すれば、ネタニヤフ氏は野党指導者として対決姿勢を取る公算が大きい。早くもネタニヤフ氏は31日のテレビ放送で険しい表情を見せながら「危険な左翼政権が誕生する」と攻撃の矢を放った。
連立協議に参加している野党は左派から中道、右派まで非常に幅広くなっている以上、各勢力の分断が進んで選挙のやり直しが当たり前になった現在のイスラエルでは、とりわけ政治が不安定化するだろう。
ただ「ビビスト」と呼ばれるネタニヤフ氏の忠実な支持者にとって、同氏は今なお断固たる安全保障政策を推進し、バイデン米大統領から中東問題でパレスチナ国家成立につながるような大胆な譲歩を迫られても簡単に屈しない頼もしい指導者だ。
5月になってパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスから集中的なロケット攻撃を受けたイスラエル南部では、それでもネタニヤフ氏支持の気運は変わっていない。両親の家が11日間に2回もロケット攻撃の被害にあったある住民はイスラエルのテレビで、全く皮肉の意味なしに「われわれに強い首相、ビビ・ネタニヤフがいることを神に感謝する」と語った。
(Jeffrey Heller記者)
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