アングル：米上院でも「トランプ流」拡大か、共和党トップが秋に退任

　２月２９日、米上院共和党トップのミッチ・マコネル院内総務（写真）が、１１月に院内総務を退き、党指導部から引退すると表明した。米議会で同日撮影（２０２４年　ロイター/Elizabeth Frantz）

David Morgan

[ワシントン ２９日 ロイター] - 米上院共和党トップのミッチ・マコネル院内総務（８２）が、１１月に院内総務を退き、党指導部から引退すると表明した。これに伴って、重大問題を性急に決めず、熟慮を重ねる立法機関として長年評価されてきた上院でも、ついにトランプ前大統領に代表されるような激しいポピュリズム（大衆迎合主義）が横行するのではないかとの懸念が生まれている。

ここ数週間の上院は、より騒々しい下院と似たような雰囲気を帯びてきている。国境管理強化措置とウクライナへの追加支援を盛り込み、マコネル氏が支持していた超党派の法案に対し、共和党の一部強硬派が成立を妨げ続けたからだ。

強硬派は、マコネル氏の退任で、ようやく自分たちが主導権を握る番がやってくると期待している。

上院議員は任期が６年で州単位で選出される一方、下院議員の選挙区は細かく、２年ごとに選挙の洗礼を受ける。最近は事情が変化しつつあるとはいえ、この両者の差こそが上院でポピュリズムの台頭が比較的抑えられてきた理由だ、というのが関係者の見方だ。

共和党のロジャー・マーシャル上院議員は「ポピュリスト系の指導者たちがトップに立とうとしている。より最近選出された議員ほど、ポピュリストの色合いが濃いようだ」と記者団に語った。

下院でも多数派を占める共和党をまとめる仕事は一筋縄ではいかない。昨年は議長だったケビン・マッカーシー氏が解任され、後任となったマイク・ジョンソン氏も承認を得るまでに何度も投票のやり直しを強いられた。

それに比べればマコネル氏の統制力はずっと強かったが、その分強硬派の反発は大きく、一部は院内総務の即時退任を要求している。

同党のジョシュ・ホーリー上院議員などは、新しい指導部はトランプ氏とより良い関係を築くことになると明言。ホーリー氏は記者団に「私の疑問は（マコネル氏退任を）なぜそんなに長く待たねばならないのかということだ。１１月はずっと先で、われわれは今すぐ新しい指導部が必要なのだ」と強調しつつ、それでもずっと居座られるよりはましだと付け加えた。

強硬派からトランプ氏との協力が不十分だったと批判されるマコネル氏だが、民主党にも妥協を排する人物として嫌悪されている。共和党が上院の少数派だった時代でさえ、マコネル氏は民主党が優先したい法案の成立を相次いで阻止して「死に神」と称されたほどだ。

＜外交にも重大な影響＞

上院共和党がポピュリズムに傾けば、特に１１月５日の選挙で同党が大統領と上院多数派を握った場合、米国の外交政策、具体的には北大西洋条約機構（ＮＡＴＯ）との関係やウクライナ支援などに重大な影響が生じかねない。

反トランプ派のミット・ロムニー上院議員は「外交問題では党内で優勢なトランプ支持派とマコネル氏支持派の間に大きな意見の隔たりがある」と指摘した。

超党派で動くのもより難しくなるだろう。

最近では、せっかく上院の与野党指導部が合意したメキシコ国境管理を巡る新たな法案について、共和党強硬派がトランプ氏の反対を背景に阻止したほか、ウクライナやイスラエル、台湾などへの支援も妨害に動いている。

熱心なトランプ氏支持派のＪ・Ｄ・バンス上院議員は、自分たちの方がマコネル氏支持派よりも共和党と党員有権者の考えをより忠実に反映していると主張。「（マコネル氏が）１１月に（上院トップ再任へ）名乗りを上げていれば、指導部選出を巡る激烈な対立が起きただろう。だが、それは避けられそうだ」と語った。

マコネル氏の有力な後任候補は「３人のジョン」、つまり同じ指導部でマコネル氏と緊密に連携してきたジョン・スーン上院議員、ジョン・コーニン上院議員と、より保守色が強いジョン・バラソ上院議員だ。

さらに極右系を含めて、ほかにも候補が出てくるのはほぼ間違いない。

２２年に院内総務の座をマコネル氏と争って敗北したリック・スコット上院議員は「上院運営でもっと適切な方法がある。われわれは財政赤字に対処していないし、国境は完全に解放されている。取り扱うべき問題は山積している」と述べた。

一方、事情に詳しい関係者によると、院内総務に選ばれるためには政治スタンスよりも、党重鎮の利益をきっちり保証するかどうかが鍵を握るという側面もある。