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焦点:農家が資金得られず、インド排出権取引の構造的問題

ロイター / 2025年2月2日 8時2分

 1月30日、インド北部ハリヤナ州のコメ農家、ジテンドラ・シンさんは水田に大量の水を流すのをやめたことで、大気中へのメタン放出を減らし、節約できた温室効果ガス排出量分の対価を得られるはずだった。写真は12月、デリーの市街地で焚火をする人(2025年 ロイター/Priyanshu Singh)

Bhasker Tripathi

[ニューデリー 30日 トムソン・ロイター財団] - インド北部ハリヤナ州のコメ農家、ジテンドラ・シンさんは水田に大量の水を流すのをやめたことで、大気中へのメタン放出を減らし、節約できた温室効果ガス排出量分の対価を得られるはずだった。ところが3年経過した今も、1ルピーさえ受け取っていない。

さまざまな取り組みによって温室効果ガスの排出量削減に成功した企業や人が、その分だけ発行される排出権(炭素クレジット)を、過剰な排出量を相殺(オフセット)したい相手に売却する排出権取引は、再生可能エネルギーや林業、農業などのプロジェクトにまで広がっている。

そこで生み出された排出権の取引規模は2021年に約20億ドルに達した。ただ認証機関が発行したクレジットの大半が実は、純粋な排出量削減にならない「架空クレジット」の公算が大きいとの報告が示されたため、23年には取引額が7億2300万ドルに急減してしまった。

排出量削減プロジェクトの認証機関に向けられる目は厳しさを増し、認証自体の手続きが遅れてシンさんのような人々があおりを受けつつある。

シンさんは感情を押し殺した様子で「いつかその時期がくれば払ってもらえるだろう」と達観している。

<中間搾取>

広大な国土の6割をほとんど小規模な農家による耕地が占めるインドでは、排出権は農家の収入と環境保護双方にとって待望の助け船になってくれる可能性を秘める。

デリーのシンクタンク、科学環境センター(CSE)が23年に公表したリポートによると、インドは世界全体の排出権のおよそ20%を生み出し、6億5000万ドル余りの収入を得ている。

だが排出量削減プロジェクトの実効性の認証を巡る問題に加えて、こうした収入の大半が仲介業者の懐に入り、売り手が獲得できるのはごくわずか、あるいはゼロという問題がある、とCSEは指摘する。

リポートは「取引市場はプロジェクト開発者と、当然介在するコンサルタントや監査関係者らの利益にしかならない仕組みに見える。つまり現実の排出量削減という面では効果がなく、地域社会は実質的に何の見返りも得られない」と分析した。

CSEの炭素市場専門家でリポート執筆者の1人、トリシャント・デブ氏は「注目しなければならない最大の問題は、農家が自分たちの慣行を変えて状況に適応したり、環境への負荷を減らしたりするために十分な資金を得ているのかどうかだ。現時点で農家が得る保障はその気になるには足りない」と訴えた。

インドの有力農業銀行NABARDの元経営幹部、PVSスルヤクマール氏は、自発的に生まれた排出権取引市場の仲介者たちは極めて貪欲で、市場に殺到してお金を抜き取っていくと話す。

一方、インドの排出権関連資産運用企業の幹部は、認証機関は自分たちの信頼性に対する懸念を受け、プロジェクトのルールや基準の見直しにより時間をかけており、農家が登録して国際的な取引市場で排出権を売却するのはコストがかさみ、最長で2年を要する恐れがあると述べた。

<規制・市場の整備>

スルヤクマール氏は、厳格な規制が必要だと強調。「市場を巡るこれほど混沌としたノイズが存在する中で、地域社会の利益を確実に守るには、統一的な基準と厳しい規制が不可欠になる」と説明した。

独立的な国際ガバナンス機関「自発的な炭素市場を保全する協議会(ICVCM)」は、プロジェクト認証のための新たな基準を導入し、懸念払しょくに努めている。

ICVCMは昨年8月、既存の排出権のおよそ3分の1はこの基準を満たしていないと警告した。

インドは、国内で農業分野の排出権の発行、認証、売却が可能となる登録機関ないし取引所を創出する方針を定めた。政府は昨年、気候変動関連目標達成に向け、農業ベースの排出権を着実に生み出せる自国の大きな潜在力を有効活用したいと表明。ロンドンのシンクタンク、国際環境発展研究所がインド政府、ICVCMと協力して、国内市場のしっかりした枠組みづくりに取り組んでいるところだ。

同研究所のリチュ・バラドワジ主任研究員は、排出権の監視や報告、認証を通じて農家のために排出権の正確性とアクセス性、取引しやすい価格水準を確保していくことが狙いだと述べ、認証から最終的な売却までの全ての過程における透明性が市場の信頼を高め、農家が受け取る資金の増加につながると付け加えた。

そのための市場整備で具体的に検討されているのは、スマートフォンを利用した地域社会からのクラウドソーシングによる直接的な監視、報告、認証データ提供や、農家の協同組合結成で交渉力を高めること、販売代金を農家に直接送金できる決済システムの導入などだ。

農家が持続可能な慣行を収益化できれば、インドの排出量を大幅に削減することに寄与すると期待されている。

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