焦点:自動車メーカー「綱渡り」の国内生産、新型肺炎で部品調達に苦慮
ロイター / 2020年3月2日 19時30分
3月2日、中国から世界へ感染が広がる新型コロナウイルスによる肺炎は自動車産業のサプライチェーン(部品調達網)に混乱を招いている。写真は2016年4月、広島市のマツダ宇品工場で撮影(2020年 ロイター/Maki Shiraki)
白木真紀
[東京 2日 ロイター] - 中国から世界へ感染が広がる新型コロナウイルスによる肺炎は自動車産業のサプライチェーン(部品調達網)に混乱を招いている。中国から部品が届かず、日本での生産に影響が及んでいる自動車メーカーもあり、ほかの地域での代替生産や完成車の生産調整でしのぐ「綱渡り」を強いられている。中国生産による低コストのメリットを享受してきた自動車メーカーは中国を組み入れたサプライチェーンの取り回しの難しさに直面している。
<メキシコでの代替生産に動くマツダ>
「メキシコで生産して空輸してほしい」――。マツダ<7261.T>にとって苦渋の選択だったと関係者は語る。中国からの部品調達が滞り、日本での車両生産への影響が迫る中、国内工場の稼働を維持するため、一部の部品メーカー(サプライヤー)にメキシコでの代替生産を要請した。
マツダは日本で生産する自動車向け部品の一部を中国から調達していた。だが、新型肺炎の感染拡大を防ぐため、中国当局が現地工場の操業を一定期間停止するよう指示し、その後再開しても当局による移動制限などで工場の従業員が不足。感染拡大防止のためフル稼働もできず、部品によっては2月下旬には不足する事態が想定された。自動車は1台当たり約2万点から3万点の部品で構成され、1つでも部品が欠ければ完成しない。
マツダは日本で生産する小型車「マツダ3」とスポーツ多目的車(SUV)「CX―30」用の中国製外装部品の代わりに、サプライヤーのメキシコ工場でも生産可能な部品を日本に空輸し、中国でのみ生産している部品は新たに日本で生産することにした。
ただ、代替生産は費用がかさむ。メキシコから日本への空輸代やメキシコ工場で働く従業員の残業・休日出勤手当、日本での新たな治具・工具製作費用などサプライヤー1社だけでも総額は数億円に上るという。最終的な費用分担はマツダとサプライヤー間であらためて相談するが、緊急対応で発生した費用の大部分はマツダが負担する方向だ。関係者によると「似たような状況にある中国製部品はほかにもある。複数のサプライヤーでの代替生産の費用負担が積み重なれば、大変な額になりかねない」と話す。
足元では中国の工場は順次、稼働を再開しており、少しずつとはいえ混乱も落ち着きを取り戻してきた。メキシコでの代替生産はひとまず終え、先行き、不足が生じる場合は日本国内で生産する方向だという。
<日産は期待の新車に冷水>
日産自動車<7201.T>は中国製部品の不足で日本での生産停止に追い込まれている。栃木工場(栃木県上三川町)と日産自動車九州の工場(福岡県苅田町)で3月3日に生産を停止する。すでに2月も複数回、日産九州、日産車体の九州工場(同)と湘南工場(神奈川県平塚市)が生産調整や休日出勤取りやめを実施してきた。
3月19日発売の新型軽自動車「ルークス」向け部品の生産でもサプライヤーは苦慮している。低価格が売りの軽自動車では低コストで生産できる中国製部品が多く組み込まれる傾向がある。調達が遅れ気味の中国製部品の工面など「苦労が多く、生産は綱渡りの状態」という。
ルークスは販売不振の日産にとって数少ない人気の車で、車高の高い「スーパーハイトワゴン」と呼ばれるセグメントに属する。同セグメントは昨年の国内車名別販売(登録車含む)でホンダ<7267.T>の「N―BOX(エヌボックス)」をトップに上位3車種を占めるほどの売れ筋。ルークスへの期待も大きく、出足から冷水を浴びせられた格好だ。
日産の星野朝子副社長は2月25日のルークス発表会で販売に自信を見せ、新型肺炎による生産への影響は現時点ではないとしつつ、感染拡大の動向次第では「先の状況は分からない。影響がないよう対策を検討している」と述べた。
ルークスは日産が開発し、三菱自動車<7211.T>が生産を担う。三菱自も同じ日に「eKシリーズ」の新型車として発売する予定で、部品の生産が滞れば三菱自の販売にも影響が及びかねない。
<中国依存度の引き下げも視野>
2月はホンダ「フィット」などの新車が発売されたが、日本自動車販売協会連合会の加藤和夫会長(ホンダ東京西社長)は同月25日の会見で、ホンダも中国からの部品調達が停滞気味で「納期の遅れが出始めている」と明かした。
一般的に自動車産業は販売する現地で車両生産や部品調達をする「地産地消」が進んでおり、「中国・日本以外の工場では生産への影響は出ていない」(日産広報)という。ただ、新型肺炎の感染拡大の終息の見通しが立たない中、メーカーや車種によっては世界各地の生産拠点への間接的な影響も生じかねない。
ある自動車メーカー幹部は「今回の経験を教訓にサプライチェーンにおける中国の位置づけを見直す必要がある」と打ち明ける。感染症の流行や天災といった不測の事態はどの地域でも生じ得る。ただ、とりわけ中国では省ごとに対応が異なることなどで人や物の移動に制約がかかり、物流が混乱したと受け止められたため、「多少なりとも中国への依存度を下げるのが賢明かもしれない」と話している。
*改行を整え再送します。
(編集:平田紀之、青山敦子)
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