アングル:中国「白い紙」抗議活動から1年、希望と無力感の狭間で
ロイター / 2023年12月3日 7時57分
11月28日、新型コロナ禍に伴う厳格な行動規制に反対する「白い紙」抗議が中国全土に広がってから1年。イーチェン・フアンさんは、中国では珍しい大規模な抗議行動が、いずれ国家による検閲のせいで市民に忘れ去られてしまうかもしれないと危惧している。写真は2022年11月、香港の抗議活動現場で、地面に置かれた白い紙(2023年 ロイター/Tyrone Siu)
Laurie Chen Jessie Pang
[北京/香港 28日 ロイター] - 新型コロナ禍に伴う厳格な行動規制に反対する「白い紙」抗議が中国全土に広がってから1年。イーチェン・フアンさんは、中国では珍しい大規模な抗議行動が、いずれ国家による検閲のせいで市民に忘れ去られてしまうかもしれないと危惧している。
昨年11月25日に発生した市民による不服従の波は、市民社会に対する抑圧を強めてきた習近平政権の10年で、他に例を見ないものだった。
警察により迅速に鎮圧されたとはいえ、ゼロコロナ政策に対する抗議は、コロナ禍のもとで3年続いた世界有数の厳格な行動規制の終焉(しゅうえん)を早めることになった。
上海での抗議に参加し、危ういところで逮捕を免れ、現在はドイツに亡命しているフアンさんは、「抗議参加者の多くは、生まれて初めて自分も市民社会の一員だという自覚を持った」と語る。「中国の人々にとって、それは初恋のようなものだ」
国内外に居住する6人の抗議参加者はロイターに対し、「白い紙」デモについては希望と複雑な感情が入り交じった思いを抱いている、と語った。デモはコロナ禍に伴う行動制限の解除を促したものの、持続性のある政治的変化は達成できなかった、と彼らは言う。
昨年広い範囲で警察による取締りが行われたため、多くの人は国家による懲罰を恐れ、匿名を条件として取材に応じた。ロイターでは昨年逮捕された抗議参加者の総数を確認することができなかったが、その後、逮捕者の一部は釈放されている。
「白い紙」抗議から1周年を迎えた先週末、北京でも上海でもデモはまったく観られなかった。また、抗議が行われた場所では警察が厳重な警戒体制をとっていた。ニューヨークやロンドン、ワシントンといった大規模な中国人コミュニティーがある都市では、記念のイベントが開催された。
フアンさんによれば、上海在住の友人の多くは、1周年を機に抗議が行われた主要地点を歩いたが、それ以外にはほとんど何もやらなかったという。「6月4日のように、禁じられた記憶にされている」とフアンさんは言う。6月4日は、1989年に天安門広場での学生の抗議行動に対する弾圧が行われた日で、厳しい検閲の対象になっている。
昨年北京で行われた抗議行動では、一部の参加者から、報道の自由や民主主義、人権の尊重を求める声も上がった。
ロイターが取材した抗議参加者や識者らの中には、昨年の事件は、自分たちにどれほどの政治的影響力があるかについて、市民が認識を新たにする契機になったと指摘する向きもある。
イタリアで活動する中国人アーティストでブロガーの通称「李先生」は、ツイッターのアカウントを使って、抗議に関する情報を拡散させた。ロイターの取材に対し、「(抗議行動によって)中国の人々の市民としての意識は新たなステージに上がった。自分の権利を守るには立ち上がる必要があると気づく人が増えた」と語った。
また昨年の抗議を前例として、今年は小規模な反体制的行動が見られた。上海ではハロウィーンを祝うイベントで政治的なメッセージを込めた仮装が登場し、習主席に冷遇された李克強元首相の死を悼む動きも広がった。
広州で暮らす30歳の抗議参加者は、「監視の目が厳しい社会だから、あの抗議が中国国内の人々にこれほど広い共感をもたらしているとはまったく思っていなかった」と話す。
「でも、ようやく自分が1人ではないのだと分かった」と彼女は言う。「中国の今後の政治状況について、悲観的な見方が少し薄れた。それでもかなり悲観的だけれど」
中国で暮らす他の抗議参加者は、もっと複雑な思いを抱いている。抗議1周年だからといって大っぴらに何かすることもなければ、友達と議論することもないという。警察の目も怖いし、全般的にコロナ禍についての記憶をよみがえらせるのは気が進まないという。
そのうちの1人、北京のテクノロジー企業で働く28歳の抗議参加者は、自分も友人も過去に治安当局の仕事に携わったことはないが、この週末には何の活動にも参加しないように警察から警告を受けたという。
こうした警告や中国での生活の現実を見ると、社会の幅広い変化に対する希望は薄れてしまうかもしれない、と彼女は言う。
「初めて抗議行動に参加した若者の中には、政治的に目覚めた人もいるかもしれない。でもそういう意識は、じきに経済や不動産市場のの不況、高い失業率といった日常的な心配事に塗りつぶされてしまうのではないか」
(翻訳:エァクレーレン)
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