アングル:緊急事態宣言のエムポックス、アフリカにワクチン届かず
ロイター / 2024年9月2日 18時48分
8月30日、世界保健機関(WHO)が8月に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したエムポックス(サル痘)は、アフリカでは目新しい疾病ではない。写真はババリアン・ノルディックのエムポックスのワクチン。パリで2022年7月代表撮影(2024年 ロイター)
Bukola Adebayo Kim Harrisberg
[ラゴス/ヨハネスブルク 30日 トムソンロイター財団] - 世界保健機関(WHO)が8月に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したエムポックス(サル痘)は、アフリカでは目新しい疾病ではない。しかしエムポックスワクチンは、感染リスクがはるかに低い富裕国で接種が広がる一方、アフリカには供給がなく、分配の面で世界的に著しい不均衡が生じている。
専門家によると、アフリカではこうしたワクチン供給を巡る世界的な偏りや医療上の問題、規制の遅れなどで数百万人が危険にさらされている。南アフリカ医療研究会議(SAMARA)のデュドゥジレ・ンドワンドウェ氏は「アフリカでエムポックスワクチンの供給が不足しているのは、供給体制や資金、インフラなどの問題のほか、医療面でもこの疾病が他の優先的な課題と比較してあまり目立たないためだ」と述べた。
エムポックスは昨年1月からアフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール)で流行が始まったが、今年1月に毒性の強い新たな変異型が見つかり、重大な関心を集めるようになった。
2022年の感染拡大に対処するためデンマークのババリアン・ノルディック製と日本のKMバイオロジクス製の2種類のワクチンがアフリカ以外の少なくとも70カ国で利用可能となっており、欧米の一部医療機関では無料で接種が行われている。
しかしアフリカ諸国は、30日の週にナイジェリアが米国から1万回分を受け取るまでは全く供給が受けられなかった。
<高い致死率>
エムポックスはインフルエンザに似た症状などを引き起こし、死に至る場合もある。ワクチン接種の費用は1人あたり約100ドル。
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のジミー・ウィットワース教授によると、新しい変異型「クレード1b」は致死率がかなり高い。感染は性行為を介して広がっているとみられ、今回の流行では人から人へ感染している。「重大な感染症であり、優先順位を引き上げるべきだ」と言う。
コンゴ民主共和国では昨年1月以降、子どもを中心に2万7000件余りの感染と1100人の死亡が報告され、感染が隣接する12カ国に拡大した。
しかしアフリカ諸国の多くは対応に苦慮している。ワクチン1回分に必要な100ドルは、限られた予算ではしかやマラリア、コレラなどの疾病を抑え込まなければならない各国政府にとって大きな負担だとウィットワース氏は指摘。コンゴ民主共和国では、以前はエムポックスの方がはしかよりも危険との考え方が、一般市民の間でも専門家の間でも普通だったという。
規制面にも問題がある。アフリカではエムポックスの感染が国境を越えて広がっているにもかかわらず、各国当局は6月にワクチンを承認しただけで、まだ配布開始の日程が決まっていない。
<遅延の理由>
2022年にエムポックスが100カ国で流行した際には2種類のワクチン配布などの取り組みが効果を上げた。しかし今回の流行でアフリカ諸国はこれまで十分な支援を受けられず、ようやく対策強化の取り組みが本格化したばかりだ。
アフリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、エムポックス対策としてアフリカ連合(AU)から934万ユーロの緊急支援を受けており、1000万回分のワクチンが必要。ババリアン・ノルディックは2025年末までに1000万回分のワクチン製造が可能だとしており、今年200万回分を提供した。
WHOは低所得国の予防接種率向上などを目的とする官民連携パートナーシップのGaviやユニセフ(UNICEF)などの機関に対してアフリカへの迅速なワクチン供給を促した。米国と日本がワクチン供給を約束し、コンゴ民主共和国は8月26日の週に初めて供給を受ける予定だったが延期された。
ウィットワース氏は、感染が確認されたルワンダ、ブルンジ、ウガンダ、ケニアの規制当局は流行が本格化する前にワクチンを承認すべきだと主張している。
コンゴ民主共和国はエムポックス流行前から医療体制が限界に達していた。はしかやエボラの流行に見舞われたほか、内紛が長期にわたって続き、専門家らは短期的な取り組みでは効果がないと訴えている。
国際非政府組織(NGO)セーブ・ザ・チルドレンのカタリナ・シュレーダー氏によると、将来の流行を防ぐには社会福祉と医療インフラへの長期的な投資が不可欠で、遠隔地の医療センターの多くで基本的な検査キットや熟練スタッフが不足している。市民はエムポックスの危険性を分かっているが、日々の生活で手一杯で、4週間の隔離を守る余裕がほとんどないのが実情だという。
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