焦点:リコール選で苦戦の米加州知事、支持層の投票率アップに躍起
ロイター / 2021年9月3日 16時37分
8月29日、 米カルフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(写真)とその支持勢力は、9月14日に行われる同氏のリコール(解職請求)の賛否を問う住民投票に向けて有権者への働き掛けを強めている 。サンディエゴで2月代表撮影(2021年 ロイター)
[米カリフォルニア州サクラメント 29日 ロイター] - 米カルフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(民主党)とその支持勢力は、9月14日に行われる同氏のリコール(解職請求)の賛否を問う住民投票に向けて有権者への働き掛けを強めている。世論調査でニューサム氏の苦戦が明らかになったためで、自宅訪問やテキストメッセージの送信、非白人層への訴えかけなどを大々的に展開し、民主党支持の有権者の投票率アップに躍起だ。
ヒスパニック系の市民団体「ボート・ラティーノ」はロイターの取材に、約100万ドルの資金を投じてヒスパニック系の若者60万人にニューサム氏への投票を呼びかける計画を明らかにした。それほどまでしてでも、黒人やヒスパニック系有権者の熱意を呼び起こす必要があるということだ。
カリフォルニア州は民主党員の数が共和党員の数を2対1以上の割合で上回り、昨年の大統領選ではバイデン氏が30%ポイント近い差をつけて圧勝した。
カリフォルニア大学バークリー校インスティテュート・フォー・ガバメンタル・スタディーズの7月27日の世論調査では、同州の登録有権者の半数、民主党員の91%が、1期目であるニューサム氏の続投を望んでいた。
しかしニューサム氏には次々と課題が押し寄せて共和党が勢いづく一方、同氏の勝利を確信する民主党の間で慢心が広がり、リコール選は予想以上の接戦となっている。
ニューサム氏は新型コロナウイルスの流行期に公衆衛生上の制限措置、マスク着用の義務化、学校閉鎖などに抗議する人たちの攻撃対象となってきた。また、ホームレスや殺人の増加、極度の水不足、壊滅的な山火事などの問題にも苦しんでいる。
民主党のストラテジスト、スティーブン・マヴィリオ氏は、ニューサム氏のリコールが成立すれば、既に2022年の中間選挙で過半数の議席を失いかねない状況に陥っている民主党もさすがに目を覚ますのではないかと言う。
03年のリコール投票でアーノルド・シュワルツェネッガー氏に知事の座を奪われた民主党のグレイ・デイビス氏の報道官を務めていたマヴィリオ氏は、民主党はニューサム氏が同じ轍を踏まないために、リコール選に本気で取り組む必要があると指摘。「民主党員がソファから立ち上がり、投票用紙に書き込むようになるには、一発平手打ちを食らう必要がある」と述べた。
<鍵握る有権者>
ニューサム氏のリコールを進めているのは、同氏の移民政策や犯罪取り締まり策に怒りを感じている「パトリオット・コアリション」という団体だ。ニューサム氏の対パンデミック政策への不満が高まり、裁判所がリコール投票に必要な署名を集めるための期間を延長したことで、リコール運動は勢いづいた。
有権者はニューサム氏を罷免すべきか、誰が同氏の後任になるべきかの2点を聞かれる。リコールが成立すれば、州全体では支持が比較的少ない共和党候補がニューサム氏の後を継ぐのはほぼ確実。知事に選ばれるには最大数の票を獲得するだけでよく、民主党は知名度の低い候補が1人いるだけだ。
最近の世論調査では、保守系のトークショー司会者であるラリー・エルダー氏がトップを走り、実業家のジョン・コックス氏、前サンディエゴ市長のケビン・ファルコナー氏が続いている。
選挙資金記録によると、ニューサム氏は5100万ドル余りの軍資金を抱えてリコール選の最終局面に臨むが、対立陣営の資金は約600万ドル。
ニューサム氏の選対チームは投票率が投票の行方を左右することを強く意識しており、リコールが成立すれば中絶の権利や移民問題など民主党が優先的に取り組んでいる課題が悲惨な結果を迎えるとのメッセージを毎日発信している。
ニューサム氏のアドバイザーであるネイサン・クリック氏は「今回のリコール選に無党派層はいない。『浮動票』といっても全員が民主党であり、選ぶのは投票するか棄権するかだ」と述べた。
カリフォルニア大学バークレー校が先月実施した世論調査によると、登録有権者のうちリコールに賛成しているのはわずか36%で、反対が51%に達していた。
しかし調査結果を詳細に調べると、投票に行くつもりの民主党員は非常に少なく、投票しそうな有権者の中でリコール賛成は47%、反対は50%と、情勢は極めて拮抗していた。
調査を行ったインスティテュート・フォー・ガバメンタル・スタディーズの共同ディレクター、エリック・シクラー氏は「投票に行く可能性の高い有権者と登録有権者との間で結果に驚くべき差があることが分かった」と述べた。
カリフォルニア州は登録をしているすべての州市民に郵便投票用紙を送付。先週発表されたデータによると、民主党員は共和党員に比べて2対1の割合で投票用紙の返送が多く、有権者が事の重要性を理解し始めているのではないか、と民主党は期待を高めた。
ただ、ポリティカル・データのアナリスト、ポール・ミッチェル氏は、今回の調査結果はリコールに対する民主党員の関心の高まりというよりも、郵便投票に対する共和党員の疑心を反映しているのではないかと分析した。
サンフランシスコのコントラコスタ郡の共和党委員長、マット・シュープ氏は先週、投票用紙の返送を促すテキストメッセージ3万5千通を党員に送ったという。
ミッチェル氏の分析によると、これまでの投票のほとんどを白人有権者が占めており、ニューサム氏が続投を望むなら非白人コミュニティーの有権者を説得し、投票に向かわせる必要もある。
アフリカ系、黒人女性、中国系、移民支援などのグループは投票を呼び掛けるキャンペーンを計画している。
18歳から34歳までの有権者を対象とする「ボート・ラティーノ」は投票を促すテキストメッセージやデジタル広告を配信している。今後は、共和党が知事の座を握れば、選挙権、移民、気候などの課題に影響が出かねないと警告する、より緊急性を高めたメッセージを送る予定だという。
(Sharon Bernstein)
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