アングル:欧州で実店舗がじわり増加、「ショッピングは娯楽の一部」
ロイター / 2024年11月4日 7時52分
オンラインショッピングの台頭により実店舗の閉鎖が相次いだことで、ショッピングモールやいわゆる「ハイストリート」(目抜き通り) の将来性が危惧されてきたが、このところの欧州では実店舗が復活の兆しを見せ、ネット販売を促進する上でも重要な存在になっている。写真は2022年11月、ブラックフライデー期間中に、英ロンドンの繁華街オックスフォード・ストリートで撮影(2024年 ロイター/Henry Nicholls)
Alberto Chiumento Paolo Laudani
[28日 ロイター] - オンラインショッピングの台頭により実店舗の閉鎖が相次いだことで、ショッピングモールやいわゆる「ハイストリート」(目抜き通り) の将来性が危惧されてきたが、このところの欧州では実店舗が復活の兆しを見せ、ネット販売を促進する上でも重要な存在になっている。
欧州の小売各社は、オンライン、実店舗双方の売り上げを刺激するため、実店舗への投資を進めている。背景には、中国発の「SHEIN(シーイン)」など巨大オンライン小売企業との競争激化がある。
さらに欧州の小売各社には、コロナ禍によるロックダウンが終わって人々の来店意欲が回復し、土曜午後のショッピングが再び流行している流れに乗りたいという狙いもある。
「店に足を運んだのは、実物を見て試着し、すぐに入手したかったから」と語るのは、ローマのショッピングセンターで品定め中のフランチェスカ・マリーニさん(28)。オンラインショッピングでは商品到着まで待たされ、ショッピングの楽しみが損なわれると話す。
市場調査会社ユーロモニターのデータによると、2023年の欧州内の実店舗総数は、前の年の492万店から490万店に微減となった。ただし同じデータによると、売場面積は約1%とわずかに増え、2028年には2022年と比較して2.7%増加する見込みだという。
LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)とアディダスの株式を保有するユニオン・インベストメントでポートフォリオマネジャーを務めるトマス・ジョーケル氏によれば、直接触れ合う機会がなければ顧客をつなぎ止めることは困難であることを、小売各社が痛感しているという。
「オンラインショップだけでなく実店舗もあれば、顧客の引き止めが楽になる」とジョーケル氏は言う。「オンラインショップでは写真を見ることはできるが、感触や匂いも分からないし、誰かに相談することもできない。あるブランドに安心感を持ち、夢中になるのはかなり難しくなる」
<購入前に試着、試用したい>
コロナ禍以降、スポーツ用品業界ではランニングシューズやトレーニング用品の需要が増えている。人々がなるべく屋外での活動を楽しもうとしているからだ。
「アディダスやノースフェイスなどの成功を見れば分かるように、コロナ禍の最中からその兆しはあったが、屋外での活動が増える傾向が確実にあると思う」と、ドイツ銀行でアナリストを務めるアダム・コホラン氏は話す。「人々が外に出て何かやる必要があると気づき、そうした行動の一部がすでに定着したのだと思う」
スポーツ用品小売りの仏デカトロンでグローバル最高顧客担当責任者を務めるセリーヌ・デル・ジーンズ氏によれば、同社は今年、系列店を約80店舗増やしたという。世界全体での系列店舗数は合計約1700店に達した。
イタリアで約160店舗を展開する小売企業シサルファは、ナイキのサッカーシューズやアンダーアーマーのランニングシャツなどのスポーツ衣料を販売。今年は自国市場で約10店舗の新規出店・改装を予定している。
同社は先日、ドイツのスポルトシェックを買収し、独国内で展開する店舗数は25店舗増えて75店舗となった。
<オンライン、実店舗を使い分ける購入客>
ドイツ銀行のコホラン氏が示したデータによれば、実店舗から車で20分以内の範囲では、オンラインでの売り上げが10-20%増加しているという。複数の購入手段を利用する顧客が増えているからだ。
コホラン氏は「双方向への好影響を示す決定的な証拠がある。実店舗を開設すれば近隣でのオンライン販売が増えるし、逆に実店舗を閉めた場合は、オンラインであれ別店舗への顧客誘導であれ、閉鎖店舗分の売上を完全に回復することはできないというデータがある」と語る。
登山用品小売のオベラルプで最高営業責任者を務めるステファン・ライナー氏は、「あるエリアの店舗数が多いほど、オンラインのブランドへの注目も高まる」と話す。
デカトロンでは買い物客を呼び込むため、用具の修理やレンタル専用の拠点と、顧客が実際にスポーツを楽しめるスペースを用意している。
デカトロンのデル・ジュネ最高顧客責任者はロイターに対し「実店舗は、ショールームや製品との出会いの場といった新しい機能を提供することで、物理的要素とデジタル要素を統合し、商品を吟味、分析、比較しやすくしている」と語った。
ローマのショッピングモールでは、デカトロンの店舗の入り口付近に卓球台が2台用意されており、無料で遊べるようになっている。
プレーしていた若者の1人はロイターに対し「いいアイデアだと思う。ふだんは買い物しかしない場所で遊べるのだから」と語った。その脇ではピンポン玉が飛び交い、友人たちが今のはインだのアウトだのと言い合っている。
ファッションブランドのザラを傘下に抱えるスペインの小売企業インディテックスは、グループ向け試着室を提供し、友人と一緒に入って服を試着できるようにしている。内部にはタッチパネルが用意され、利用者は別のサイズやスタイルをリクエストできる。
ドイツのネット小売企業ザランドが国内に15カ所の実店舗を展開済みで、さらにもう1店舗が南部フライブルクで建設中だ。
ザランドは水着からヒューゴ・ボスのドレスに至るまで多種多様な商品を販売するが、他の小売企業と同じく、シーインとの競争激化に巻き込まれている。
シンガポールを拠点とするオンライン小売企業シーインは、欧州や英国の都市で、数日間限定で営業する「ポップアップ」店舗戦略を採用している。
小売産業の専門家によれば、利用客は、実店舗で購入することによる店員との交流や利便性、その場ですぐ手に入るという即時性を好んでいるという。
RBCの複数のアナリストは「消費者はショッピングに、娯楽としての側面があることを思い出し、実店舗への回帰を選んでいる」と語る。さらに、ネットで注文して実店舗で受け取る「クリック・アンド・コレクト」の便利さも好まれている。オフィス勤務が再開しつつあり、配達時に家にいられるとは限らないからだ。
ユニオン・インベストメントのジョーケル氏は「人によっては、Tシャツを買ってパーティや学校に行きたいだけという場合もある。それだけのために2週間も待つなんて悠長すぎる」と話した。
(翻訳:エァクレーレン)
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