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焦点:米国で森林火災深刻化、消防当局を悩ませる人員不足

ロイター / 2022年5月4日 7時58分

 4月25日、干ばつの被害に悩む米国西部に、再び森林・原野火災の季節が迫っている。写真はカリフォルニア州サンタローザで消火活動に当たる消防隊員。2020年9月撮影(2022年 ロイター/Stephen Lam)

[ワシントン/ロサンゼルス 25日 トムソン・ロイター財団] - 干ばつの被害に悩む米国西部に、再び森林・原野火災の季節が迫っている。今月、米農務省林野部の幹部であるジェイリス・ホールリベラ氏は、連邦レベルの消防隊員の数は十分であり、いつでも出動できる体制にあると述べて連邦議員らを安心させた。

同氏が議会で「必要な人員は揃う」と証言した数日後、政府は2022年1-3月について、西部各地では観測史上最も降水量が少なかったとして、5月以降、森林火災のリスクが「相当に大きい」と発表した。

だが、気候変動によって深刻化する森林火災の最前線で戦う連邦所属の消防隊員らは、トムソン・ロイター財団の取材に対し、消防隊では今年ひどい人手不足に悩んでおり、近日中には十分な増援が得られないのではないかと恐れている、と話している。

連邦所属の消防隊員は、非公開のチャットやソーシャルメディア上で、欠員の多い消防署や老朽化した施設、整備の不十分な機材についての情報を交換している。

ホールリベラ氏が連邦議会を安心させたのとは裏腹に、トムソン・ロイター財団が入手した2022年3月付の農務省林野部による内部報告では、課題として「人材の採用と離職抑制」を挙げている。

コロラド州の連邦消防隊員ブライアン・ゴールドさんによれば、隊員の士気と人員補充の課題は、多年にわたる予算不足と給与の公正さに関する懸念、施設・機材の老朽化に由来するものであり、「連邦レベルの森林火災体制の存亡に関わる脅威」だという。

ゴールドさんは、消防隊員の仕事は好きだし、近い将来この仕事を辞めるつもりはないとしつつ、そういった人は少数派だと話す。

多くの連邦消防隊員は、給与や福利厚生の点で有利な州・地方自治体の仕事や、民間セクターへの転職に惹かれているという。

安全への懸念に留まらず、消防隊員の新規採用・離職抑制に失敗すれば、「消防体制がみるみる崩れていく」ことになりかねないとゴールドさんは危惧している。

バイデン政権は、こうした懸念に対処し人員を補充するために日夜取り組んでいると主張している。だが、東部のノースカロライナ州でさえ森林火災のシーズンが長引いている状況のもとで、あまりにも消防隊員が不足しているという現場の声は広がっている。

「もはや、森林火災の『季節』とは呼べない。通年の現象だ」と語るのは、啓発団体「グラスルーツ・ワイルドランド・ファイアファイターズ」のケリー・マーチン代表。「だからこそ積極的に人を雇い、年間を通じて配備する必要がある」

<低賃金、宿舎は不足>

農務省林野部の報道官によれば、同部と内務省では、2021年の時点で約1万5000人だった常勤・非常勤の連邦消防隊員を今年は1万6700人に増員し、対応を強化する計画だという。

林野部で州有林・民有林担当副主任を務めるホールリベラ氏は、常勤の消防隊員に区分されていない有資格の職員・委託事業者も、必要に応じて消防サービスに投入することができると話している。

「昨年、最も出動が多かった時期には、2万9000人以上の消防隊員が活動していた」とホールリベラ氏。この数字には、支援に駆けつけた上述のような追加スタッフが含まれていると考えられる。

林野部の報道官は、森林火災のシーズンが長期化し困難な状況が生じている中で、消防隊員の採用・維持という課題を真剣に受け止めていると語る。

「だが、宿舎の問題、さらには、火災が多く負担が非常に重くなる年にワーク・ライフ・バランスをどうするかといった問題について、もっとやるべきことがあるとも認識している」

消防隊員の採用・離職防止を困難にしている要因として林野部職員の多くが挙げるのは、賃金の低さと宿舎不足だ。消防隊員の赴任地は人里離れた地域になることもあり、こうした地域では住宅物件が乏しいか、非常に高額になってしまう場合がある。

米国西部のある地区消防当局者は匿名を希望しつつ、「欠員の補充という意味では、森林火災対策グループにとって、恐らくこれまでで最悪の冬だった」と述べ、こうした状況は広く見られると言い添えた。

北カリフォルニアで働く消防車長は、同地域で林野部管理下にある森林のほぼすべてで、今年、消防隊員の定員充足率が65%を切ると予想されていると指摘した。匿名を条件に取材に応じた連邦消防関係者によれば、場所によっては50%を下回るところもあるという。

林野部の地域区分においてカリフォルニアを含む「第5地域」では、職員の採用・離職防止における主要な問題として、給与、貧弱な宿舎事情、雇用における柔軟性の乏しさを挙げている。

2022年3月付の内部報告には、「体制で欠員が生じても迅速に補充されておらず、長期契約の正職員も第5地域の消防体制から離れつつある」とある。

「グラスルーツ・ワイルドランド・ファイヤファイターズ」は、連邦消防隊における劣悪な宿舎や施設、人手不足の例をソーシャルメディア上で収集している。

消防隊員らは、ネズミのはびこる居住区域や老朽化した床、配管の問題など、多くの不満を投稿している。中には、低賃金と宿舎不足のためにホームレス状態に陥ったと書いている人もいる。

林野部の報道官は、こうした問題の解決に取り組んでいると述べている。

<インフラ投資法による給与改善は有効か>

昨年11月にバイデン大統領が署名した1兆ドル規模のインフラ投資法案には、消防隊員の賃上げと、季節契約の消防隊員を通年契約・正規職員に転換していく予算として6億ドルが盛り込まれた。

林野部で見込んでいる1万1300人の消防隊員のうち、約4500人は非正規・季節契約だ。

林野部の報道官は、内務省が5400人の枠を提供することで消防隊員の合計は1万6700人になる見込みだと述べ、林野部として今年初めて、正規職員の採用枠が非正規職員を上回ると予想される、と付け加えた。

またインフラ投資法案のもとで、バイデン政権は「森林火災消防隊員」という職務区分を新設しようという構えだ。

現在、連邦政府職員として森林火災の消火に当たっている職員は、「森林技術者」に分類されている。解釈上、州や自治体に所属する消防隊員に比べ、諸手当の給付を受けることが難しくなる場合がある。

こうした指定を変更することは、「グラスルーツ・ワイルドランド・ファイアファイターズ」などの啓発団体にとって長期的な目標だった。

「法案によって、森林火災対策に取り組むコミュニティーを何よりも悩ませてきた多くの問題が緩和される」と林野部の報道官は述べた。また、同法に基づく連邦消防隊員の賃上げについては年度半ばの実施を目標にしているという。

バイデン政権は、連邦消防隊員の給与を時給15ドル(約1950円)以上+賞与とし、連邦機関の文民職員の最低賃金を時給15ドルとするための措置を進めている。

これとは別に、労働省は今月、連邦消防隊員が傷害給付・疾病給付を申請しやすくするための政策変更を発表した。この動きはすぐさま消防隊員の啓発団体や労組グループから賞賛を浴びた。

だが、多くの消防隊員は、法律上の手直しによる効果については懐疑的だ。

消防隊員の給与・諸手当を改善するための法案は、2021年6月にニューメキシコ州での消火作業中の負傷で死亡した消防隊員ティム・ハートにちなんだ名称を与えられているが、連邦議会での審議は停滞している。

森林火災と戦う女性の消防隊員の1人は、家賃を節約するために、カリフォルニア州内でキャンピングカー暮らしだ。基本給を上げるという案では、経験豊富な消防隊員にとっての魅力的なキャリアパスがないという点をカバーできないだろう、と言う。

匿名を希望しているこの女性隊員は、「火災の中に飛び込んでいく者の賃金を上げるだけでは、人々を集めるには不十分だ」と話している。

だが、昨年カリフォルニア州で8万9000ヘクタール以上を焼失させた「カルドア・ファイア」の消火活動にも参加した消防隊員のネイサン・クルーグマンさんは、気候変動によって森林火災の頻度と深刻さが増す中で、消防隊員の給与改善は不可欠だと語る。

「消防の務めを果たす者がもっと報酬を得るか、それとも誰もこの仕事をやらなくなるか、どちらかだ」

(David Sherfinski記者、Avi Asher -Schapiro記者、翻訳:エァクレーレン)

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