アングル:欧州襲う夏の山火事、頼みの消防士は人手も装備も不足
ロイター / 2023年11月5日 8時9分
またしても大きな被害をもたらした山火事の季節が一段落し、欧州の消防士たちが通常任務に戻る一方で、消防士組合の指導者たちは、被害が深刻だった地中海諸国では、人員や装備の増強に向けた投資が緊急に必要だと訴えている。 写真は7月、ギリシャ中部ボロスで消火活動を行う消防士(2023年 ロイター/Alexandros Avramidis)
Joanna Gill
[ブリュッセル 30日 トムソン・ロイター財団」 - またしても大きな被害をもたらした山火事の季節が一段落し、欧州の消防士たちが通常任務に戻る一方で、消防士組合の指導者たちは、被害が深刻だった地中海諸国では、人員や装備の増強に向けた投資が緊急に必要だと訴えている。
消防士組合では、夏季の大規模な山火事によって労働負荷が増大したことで、消防士らは疲弊し、健康が脅かされるだけでなく、士気にも影響が及び、森林火災や洪水その他の災害への対応能力も損なわれている可能性があるとしている。
イタリアの消防士で組合代表を務めているラファエレ・コッツォリーノ氏は、トムソン・ロイター財団に宛てたメールの中で、「急いでリソースに投資しなければ、消防士とその家族の生活は厳しくなるだろう」と語っている。
「何よりも心配なのは、消防士という職業に多く見られる、がんなどの職業病だ」とコッツォリーノ氏。今年に入ってから、そうした懸念を欧州議会に訴え、議員たちに、EU全域で消防士を守るためにもっと努力する必要があると伝えたという。
コッツォリーノ氏によると、イタリアでは消防士を3000人増やす必要があるという。イタリアには現在、プロの消防士が約3万5000人いる。
消防業務を管轄するイタリア市民保護当局にコメントを求めたが、現時点で回答はない。
洪水から山火事に至るまで、気候変動に関連した異常気象の頻度と被害の深刻さは欧州全域で高まっている。だが、消防士の数はリスク増大に見合うほど増えておらず、逆に減少している国すらある。
欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)によれば、EU加盟27カ国にはプロの消防士が2022年の時点で36万人いた。前年に比べて2800人減少したという。
9月に発表された報告書によると、EU全体で、消防業務のための政府支出が歳出全体に占める割合は、2001年に記録が開始されて以来、増加を見せていない。
ギリシャ選出の欧州議会議員コンスタンティノス・アルバニティス氏は9月、欧州議会で「欧州が炎上し、浸水している一方で、プロの消防士の数は減っている」と発言した。
「消防士は災害との戦いにおける英雄なのに、その後は使い捨て同然だ」
<火災と洪水>
ギリシャでは7月と8月、数週間にわたって山火事が続き、米ニューヨーク市よりも広い領域を焼き尽くした。ロードス島でもうもうたる煙から逃げ惑う観光客の様子が伝えられ、夏季の山火事による経済的影響が深刻化する懸念が高まった。
2023年の山火事による被災面積はEU全域で51万5000ヘクタールと試算されている。2022年の被災面積74万8000ヘクタールよりは少ないが、山火事の多くが自然保護区や観光名所に打撃を与えた。
ギリシャ全国消防士連盟のニコラス・ラブラノス事務総長は、「消防業務に携わって26年になるが、今年の山火事では、自然災害の激しさを前にして無力感を抱いた」と語る。
そのわずか数週間後、ギリシャの消防士たちは、記録が開始された1930年以降で最も激しい雨による洪水で立ち往生した人々を救出していた。
ラブラノス氏は、ギリシャの消防部門は近年、職員の「激しい流出」に見舞われていると語り、厳しい労働条件と、年長の職員らが定年退職の時期を迎えつつある点を指摘した。
ギリシャ気候危機・市民防災省にコメントを要請したが、今のところ回答はない。
<ボランティアかプロか>
2022年に大規模な山火事が発生したフランスの農村部では、ボランティアの消防士への依存度が高い。
ボランティアの消防士はプロの消防士と同等の訓練を受け、1時間当たり8─12ユーロ(約1280─1900円)の基本給を支給され、洪水や火災から交通事故処理に至るまで、全ての任務を補佐する。
だが、フランス消防士全国連盟のクリストフ・マルシャル副会長によれば、ひとつには気候変動の影響もあって負荷が増えており、ボランティア消防士も疲弊しつつあるという。
「今後の厳しい状況を考えると、消防士の増員がなければ対処できない」とマルシャル氏は述べ、フランスが消防体制を維持するには、2027年の時点で少なくとも25万人のボランティア消防士が必要になる、と続ける。2022年の水準から5万人の増員に相当する。
欧州公共部門労働組合(EPSU)のヤン・ウィレム・グードリアン事務総長は、たとえ追加のボランティアを採用したとしても、高度なスキルを持つプロの消防士を増員しなければ十分ではないと語る。
「農村地域の消防隊の多くでは、対応能力が減衰している。この課題をボランティアの消防士だけで解決できると考えるのは誤りだ」とグードリアン氏は語った。
フランス内務省にコメントを求めたところ、消防士の採用は地方自治体の責任であるとの回答だった。
<救助隊員の命を守るには>
労組指導者らは、人員増強の他に、業務に関連した病気や事故など、増大するリスクから消防士たちを守るために、装備と訓練への投資を増やすよう要求している。
コッツォリーノ氏は、通常の救急活動用の個人防護具(PPE)が支給されているものの、洪水や山火事といった現場での活動には必ずしも適していないと指摘する。
またラブラノス氏は、老朽化した車両の更新にも政府の財源が必要になると述べ、ギリシャの消防車の中には導入から30年も経過するものがあり、現場車両について推奨される耐用年数15─20年を超えてしまっている、と続けた。
EUは、加盟国の火災対応能力を強化するために、空中消火機の購入計画を発表した。完全所有とするのはEUとして初めてで、消防士組合もこれを歓迎している。
山火事への対応はEU加盟各国の責任となるが、応援が必要な場合には、EUが待機させている空中消火機による支援を求めることができる。
労組指導者らは、こうした協力体制は欠かせないが、それ以外にも必要なことがあるという。
欧州消防士組合連合のキム・ニクラ会長は、十分な要員、練度、装備を備えた多国籍消防隊の設立を呼びかけている。
「暴風雨はこれまでより激しく、洪水はさらに大規模になっているし、火災の消火は10年前に比べて倍も難しい。そこで、消防士が気候変動の影響に対処する上で、真っ当な労働基準を決定することも必要になる」
(翻訳:エァクレーレン)
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