焦点:米兵器によるロ領攻撃容認、バイデン氏戦争へ一歩「深入り」
ロイター / 2024年6月4日 13時10分
5月31日、バイデン米大統領はウクライナに対して、米国が供与した兵器でロシア領内を攻撃することを一部で認める決断を下した。写真は5月、ロシア軍の攻撃で破壊されたウクライナ・ハリコフ近郊の学校施設で撮影(2024年 ロイター/Valentyn Ogirenko)
Phil Stewart Jonathan Landay Max Hunder
[ワシントン/キーウ 31日 ロイター] - バイデン米大統領はウクライナに対して、米国が供与した兵器でロシア領内を攻撃することを一部で認める決断を下した。これは米国が戦争への関与をより深めるという意味で、小さいが重要な動きだ。複数の専門家は、ロシアのハリコフ地域への攻勢を鈍らせる効果があるとみている。
ロシアが2022年にウクライナへ侵攻して以来、バイデン政権はこれまで自国製武器をウクライナがロシア領攻撃に使用するのは危険が大き過ぎると主張していた。そうした攻撃は、核兵器を保有するロシアと米国の直接戦闘につながると懸念したためだ。
そのため米国は最新鋭戦闘機や長距離の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」といった高性能兵器の供与も禁止してきた。
バイデン政権高官の説明では、今回の決定はハリコフ地域の戦闘に限定され、国境を越えて「ウクライナを攻撃、ないし攻撃を準備する」ロシア軍に対してウクライナが米国供与の兵器を使うのを容認するという。
専門家によると、これでウクライナ軍は、米国から提供されている高機動ロケット砲システム「ハイマース」などをロシア領内に向けて発射できるようになる。
ウクライナ国立戦略研究所のミコラ・ベレスコフ研究員は「前線を安定させ、場合によっては(ロシア軍が)ハリコフ地域に浸透する前に押し返す条件を整えられる」と期待を寄せる。
元英軍情報将校のフィリップ・イングラム氏は、バイデン氏の決定でウクライナ側は東部ドンバス地域で鍵を握る各前線から部隊を撤退させる必要性が低下すると予想。「ロシアは守勢に回ることになり、ハリコフ攻撃に利用してきた戦術の見直しを迫られるだろう」と述べた。
<方針転換までの経緯>
バイデン政権が今回の決定を下すまでには数週間のプロセスが必要だった。
ウクライナは5月13日に米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)、オースティン国防長官、ブラウン統合参謀本部議長らとのビデオ会議で、米国の兵器をハリコフ地域でロシア領内向けに使用したいと要望した、とある米政権高官が明かした。
これを受けてサリバン氏ら3人は、供与兵器の使用制限緩和に向けた提言を策定して5月15日にバイデン氏へ提出すると、バイデン氏が同意したという。
ウクライナのゼレンスキー大統領は5月20日のロイターのインタビューに応じた時点では、ロシア領内への米国兵器使用について「まだ進展は全くない」と発言していた。
フォーリン・ポリシー・リサーチ・インスティテュートのユーラシア・プログラムで上席研究員を務めるロブ・リー氏は、ロシアはこのバイデン政権の供与兵器使用制限を巧みに利用し、安全な自国領からハリコフ地域への攻撃を行っていたと解説する。
ウクライナ第2の都市部ハリコフは、ロシアとの国境から30キロしか離れていない。
リー氏は「ロシアはウクライナとの国境ぎりぎりの自国領に砲兵部隊や防空網、電子戦司令部と管制施設を配置できた。ある程度の『聖域』になっていただろう」と述べた。
とはいえリー氏などの専門家は、米国の方針転換ですぐに前線の状況が一変するわけではないとみている。
同氏は「前線の動きを大きく変えることはない。しかしロシアが越境作戦を続けるのは難しくなる」との見通しを示した。
イングラム氏は、ロシアはハリコフに大きく浸透するための十分な兵力を欠いていると分析。「ロシア軍には北東部からハリコフに対して適切に脅威を与えるだけの戦闘力を生み出す能力がない。それを行うには、東部作戦地域から部隊を根こそぎ引っ張ってくる必要がある」と付け加えた。
<使用許可拡大するか>
ロシアのプーチン大統領はこれまで北大西洋条約機構(NATO)諸国に、ウクライナへ供与した兵器がロシア領に使用されるのを認めないよう警告し、5月28日にはそうした事態は核戦争のリスクがあると改めてけん制した。
しかしウクライナ側は、この先米国兵器をロシア領のどこにでも使用できるようにしてほしいと求める構えだ。5月31日にゼレンスキー氏は英紙ガーディアンのインタビューで早速、ロシア領奥深くの軍事目標に米国兵器を使う承認を得たい考えを明らかにした。
元米国防省高官で現在は戦略国際問題研究所(CSIS)に所属するマーク・カンシャン氏も、バイデン政権の方針転換は最初の一歩に過ぎないと指摘する。
ウクライナは今後次の一歩、すなわちハリコフに対する直接の脅威ではないが、他の地域への脅威になっているロシア領内の幅広い目標への米国兵器使用を求めるだろう、という。
ブリンケン国務長官は5月31日、バイデン政権が別のロシア領への米国兵器使用を容認するかどうかコメントを拒否した。ただ全否定はせずに「これまで通り必要に応じてやってきたことを続ける」と語った。
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