アングル:メキシコ初の女性大統領、「象徴」に終わるとの懸念も
ロイター / 2024年6月4日 17時51分
Diana Baptista
[メキシコ市 3日 トムソン・ロイター財団] - クラウディア・シェインバウム氏は、メキシコ大統領に選出された初の女性として歴史に名を刻んだ。だがフェミニスト活動家らは、この勝利が象徴の域を出ない可能性を懸念している。同氏は選挙戦で、家庭内暴力や、人工妊娠中絶へのアクセスを巡る不平等性に取り組むと公約しなかったからだ。
メキシコ市を拠点とするフェミニスト市民団体「シモーヌ・ド・ボーボワール・リーダーシップ・インスティチュート」のディレクター、フリン・サルゲーロ氏は「女性だからといって、女性の権利を推進する存在になるとは限らない」と言う。
気候科学者で前メキシコ市長のシェインバウム氏は、与党・国家再生運動(MORENA)から出馬。もう1人の女性候補者であるソチル・ガルベス上院議員を抑えて勝利したことで、メキシコ政治における女性参加率の高さが印象付けられた。
民主主義を推進する独立組織、列国議会同盟(IPU)のまとめによると、メキシコ議会では女性が議席の半分を占めている。世界で女性比率がこれより高いのは、ルワンダ、キューバ、ニカラグアの3カ国だけだ。
しかし研究者らによれば、メキシコで指導的立場にある女性が、男性よりも女性の権利向上に貢献していることを示す証拠はほとんどない。人口1億2600万人のこの国は、特に農村部で家父長制的な考え方が根強く残っている。
メキシコ国立自治大学の政治学者フラビア・フライデンバーグ氏の調査によると、2014年から19年にかけてメキシコ各地の地方議会で提出された2万4000以上の法案のうち、女性の暮らしを向上させる計画が含まれているものは4000件にとどまった。
「たとえ女性を議員や大統領に据えたとしても、進歩的もしくは実質的な平等という政策課題が守られるわけではない」と同氏は言う。
<男性にとって重要な問題>
それでも2日の選挙結果は、1955年にメキシコで女性に初めて投票権が認められて以来進められてきたフェミニズム運動が成功した証しだ、と女性の権利の専門家らは言う。
もっともシェインバウム氏もガルベス氏も、例えば、麻薬カルテル関連の暴力や気候変動問題に取り組む計画の一部として、ジェンダーを政策課題に挙げていない、とも専門家は指摘する。
「いずれの候補者もトランス女性の権利には言及していない。レズビアンの女性、先住民女性、障害がある女性についてもだ」と、グアナファト大学でジェンダーと民主主義を研究しているエリカ・ロペス・サンチェス教授は言う。
「彼女たちの政策課題は、男性にとって重要な問題に集中している」上に、中絶へのアクセスというデリケートな問題も避けて通ったと同教授は指摘した。
メキシコの最高裁判所は2021年、中絶に関する地方の刑事罰は違憲だと宣言し、その2年後には連邦政府が中絶を犯罪とすることも違憲であるとの判決を下した。
13の州では中絶を巡る刑法が廃止されたが、まだ19の刑法では中絶が合法化されていないか憲法上の権利に加えられていない。
シェインバウム、ガルベス両氏は、中絶に対する姿勢について明言していない。シェインバウム氏は、この問題は既に最高裁で解決済みであり、今はその他の女性の権利に集中すべき時だと述べた。
ロペス・サンチェス氏は「中絶について語れば、保守派の票に背くことになる。メキシコ社会はまだおおむね保守的なので、人気につながらないだろう」と語った。
<ジェンダー関連の暴力>
麻薬カルテルによる暴力の横行と闘うことは、新大統領の最優先課題となる。シェインバウム氏の政治的後ろ盾であるロペスオブラドール現大統領の下、ジェンダーに基づく暴力、特に少女と女性の殺害は連日のようにニュースの見出しになった。
昨年、メキシコで記録された女性の殺人は831件。最新の政府統計によれば、今年に入ってからも246件に達している。
ジェンダー平等センター、EQUISの副ディレクター、マイッサ・ヒューバート氏は「メキシコではジェンダー暴力防止政策が失敗している。全ての責任を、国ではなく女性に課しているからだ」と話す。
シェインバウム氏は、大規模インフラプロジェクトから治安まで、軍の権限を拡大するロペスオブラドール政権の計画を継続する方針だ。ヒューバート氏は、これが女性に悪影響を及ぼすのではないかと懸念している。
「統計によれば、30万人の女性が、地域社会での暴力の加害者として軍人を挙げている。(軍隊が)地域社会に存在することは、女性に大きな影響を与えている」とヒューバート氏は言う。
フェミニスト団体への予算支援が減少していること、特に家庭内暴力の被害者をかくまうシェルターに対する支援が消えたことも、こうした団体から批判を浴びている。
メキシコ市長時代のシェインバウム氏は、フェミニスト団体と緊張関係にあった。彼女の師であるロペスオブラドール大統領は、フェミニスト団体が政府の行動について発言するたびに「反対派」のレッテルを貼った。
フェミニスト団体のサルゲーロ氏は「市民社会団体と政府の間に新たな対話と開放性が生まれ、私たちが興味深いプロジェクトを実施してきたことを認識してもらえることを願っている」と語った。
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