アングル:「朝鮮人戦犯」最後の生存者、居場所なき75年の苦悩
ロイター / 2020年8月4日 14時31分
8月4日、何も知らない人には、95歳の李鶴来さん(写真)は高齢化する日本社会で長生きする老人の1人にしか見えないかもしれない。写真は6月、都内の自宅で、1942年にタイの日本軍捕虜収容所で撮影された写真を手にする李さん(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Ju-min Park
[東京 4日 ロイター] - 何も知らない人には、95歳の李鶴来(イ・ハンネ)さんは高齢化する日本社会で長生きする老人の1人にしか見えないかもしれない。東京の郊外で暮らす李さんは、家族の写真やひ孫たちの描いた絵を飾った居間で陶芸に興じている。
しかし李さんの心は、その後の彼の人生を決定づけた75年前の残酷な出来事にずっととらわれてきた。
1942年、占領下にあった朝鮮半島で日本の軍属になったこと、タイとビルマ(現ミャンマー)を結ぶ泰緬鉄道の建設に関わったこと、戦後に戦争犯罪人になったこと、そして日韓両国から歴史の片隅に追いやられたこと──。
日本政府は1951年に調印されたサンフランシスコ講和条約で主権を回復、その2年後から旧軍兵士に恩給を支払ってきた。戦犯とその遺族も支給対象に含まれる。さらに東京の靖国神社には、戦争を指導したA級戦犯を合祀している。
しかし日本のために戦った朝鮮人は、講和条約で日本国籍を失った。これは恩給を受ける資格を失ったことを意味する。韓国籍となった李さんにとって重要なのは、日本人兵士には与えられた世の中の関心、そして幕引きした感覚を得られなかったことだ。
「私の話を聞いてくれ。なぜ彼らは私たちを違うように扱うのか」。韓国語と日本語が入り混じりながら、かろうじて聞こえるような声で言う。「不公平だし、何の意味もない。この信じられないような状況をどう受け入れればいいのか」
李さんが握りしめる端の折れ曲がった書類や切り抜きは、自身の存在と賠償を訴えるために使ってきたものだ。
李さんは戦犯となった在日朝鮮人148人の最後の生存者だ。23人の刑が執行され、李さん自身も1947年、絞首刑による死刑判決を受けた。のちに上告で20年に減刑、1956年に東京・巣鴨の拘置所を出た。
第2次世界大戦には 約24万人の朝鮮人男性が日本兵として参加した。連合国軍は戦後、戦犯容疑者を一斉に捕らえた。朝鮮人も日本人と同じように扱われたと、歴史家は指摘する。
「戦争犯罪で有罪判決を受けた朝鮮人は、他の朝鮮人からは日本への協力者とみなされた。日本政府からは元日本兵として認められず、戦後はひどい目に遭った」と、オーストラリア国立大学のロバート・クリッブ教授は言う。「自国民にだけ恩給を支給し、日本軍の一部だった朝鮮人に支給しなかったのは」不公平だと、同教授は指摘する。
<「死の鉄道」建設>
1943年、李さんは鉄道建設に動員された連合国軍捕虜500人を監視する仕事に就いた。のちに「死の鉄道」として知られるようになる泰緬鉄道だ。
全長415キロ、建設中に約1万2000人の捕虜が過労や暴力で死亡した。その悲惨な状況は、1957年の映画「戦場にかける橋」で有名になった。
ロイターが確認した裁判記録によると、捕虜たちは「トカゲ」として知られる李さんを最も残忍な看守の1人として覚えていた。
オーストラリア人捕虜だったオーステン・ファイフさんは、李さんから、竹の棒で後頭部を殴るなど何度も暴力を振るわれたと証言。医療品が不足する中、診療所を訪れた捕虜のうち「働けそうな人を殴っていた」との証言記録もある。
記録によると、李さんは法廷で「肩の辺りをわずかに押した」と述べ、残忍な行為は否定している。朝鮮人は最下層の軍人・軍属として、命令に従ったに過ぎないと証言している。
拘置所を出た李さんは、朝鮮人の戦犯らとタクシー会社を始めた。韓国にいる母親が亡くなった際は、裏切り者と言われるのを恐れて葬儀に出席しなかった。
「両親と兄弟以外、誰も私を歓迎してくれなかった」と、李さんは言う。
日本の最高裁は1999年、李さんをはじめとする韓国人戦犯による賠償請求を棄却した。2006年、韓国政府は彼らを日本の帝国主義による犠牲者と認定したが、日本在住者には何の補償もしなかった。韓国で暮らす人は、医療費の補助を受けることができるようになった。
助けなしで歩けなくなった李さんは、車椅子で運動を続けている。6月には国会を訪れ、朝鮮人の戦犯とその家族を補償する法案提出を議員に働きかけた。
「95歳まで生きられたのは幸運だったし、自分のために長生きしたいとは思わない。しかし、死んだ同志のために戦わないわけにはいかない」と、李さんは話す。
(Ju-min Park 編集翻訳:久保信博)
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