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アングル:日銀「不在」の金融市場、慣れるには時間必要

ロイター / 2021年6月4日 10時46分

金融市場で日銀「不在」の時間が増えてきた。写真は、日銀本店前の案内板。2019年1月23日に撮影。(2021年 ロイター/Issei Kato)

伊賀大記 木原麗花

[東京 4日 ロイター] - 金融市場で日銀「不在」の時間が増えてきた。政策点検から2カ月半。最大の買い主体が静かに市場から距離を取り始める中、円債はこう着、日本株は出遅れ感が強まっている。中銀の関与低下は市場にとって長期的にはプラス要因との声は少なくないが、「ノーマル」な状態に慣れ、相場が活性化するには、しばらく時間がかかりそうだ。

<消えた買い筆頭>

日銀の政策点検が公表された3月19日を起点にすると、日本株は世界の主要株価指数の中で、最もパフォーマンスが悪い。日経平均は2日時点で2.8%下落と、唯一値下がり。その間、米ダウは約6%上昇している。

緊急事態宣言による景気悪化や、ワクチン接種の遅れなどもあるが、需給面では、日銀のETF(上場投資信託)買いが減少したことが大きいとみられている。2016年から昨年まで日本株の買い筆頭は日銀であり、昨年は目標を上回る7兆円を購入している。

政策点検を受けて買い入れ方針が変更された4月以降、日銀がETFを購入したのはTOPIXが前場に2.17%安となった4月21日の701億円だけだ。5月は黒田東彦総裁が就任し13年4月に異次元緩和を始めてから初めて月間購入額がゼロとなった。

日銀は政策点検で、6兆円の年間目標額を削除し、上限の12兆円だけを残した。「株価急落時には相応の規模を買うことをにおわせ、緩和縮小の印象を巧みに消したが、事実上、撤収モードに入っている」と、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト、上野泰也氏は指摘する。

中銀の買いが減れば、株価は適正価格まで下がり、本来の企業価値が見出しやすくなるとの期待もあるが、今のところ海外勢の買いは戻ってきていない。外国人投資家は、日銀決定会合後の3月第4週から5月第4週までで、現物と先物合わせ計1兆2112億円売り越している。

日銀内では、市場に波乱を起こすことなくETF購入を「バックストップ」的な機能に移行できたことに安堵(あんど)の声も聞かれる。日銀の安達誠司審議委員は2日の会見で「市場が荒れているときに思い切って出るのが一番効果的」とし、5月にETFを購入しなかったことは「3月点検を受けた妥当な政策対応」と述べた。

<こう着の円債市場>

円債市場では、2─40年の利付国債の月間発行額10兆5000億円に対する日銀の国債買い入れオペは月間5兆9000億円と、依然として高い比率を保っている。しかし、オペの動きなどを細かくみると、徐々に手を引きながら、市場の機能改善をねらう姿が透けてみえる。

6月のオペ予定では、全年限でオファー額、回数ともに5月と変わらなかったが、通告日は5日と、5月から1日、3月からは2日減っている。日銀は「オペで細かくけん制するようなことはしない」(幹部)意向を示しており、国債市場に関与する日を少なくすることで、市場機能を回復させることが目的とみられている。

しかし、意に反し商いは減少。5月は新発10年債の取引が1本値であった日が11日と半分以上を占め、出来高(日本相互証券)は19年ぶりの少なさとなった。4月に全年限のオファー額が減額されたが、米金利上昇が一服したこともあって、円債金利は低下、ボラティリティーも小さくなっている。

日銀内では、取引量の減少に対する警戒感はあるものの、米金利などが動意づいた場合に「きちんと動くことが大事」(幹部)との声が聞かれている。

ただ、市場では取引活発化への期待は低い。「政策点検の目的は緩和政策の長期化だ。当面利上げも利下げもないと市場はみている。米金利が動いても円債はほとんど動かないだろう」と、野村証券のチーフ金利ストラテジスト、中島武信氏は指摘する。

日米金利がこう着する中、ドル/円も動きが再び鈍化。5月の値幅は1年半ぶりの狭さとなった。

<「存在」示すストック効果>

ただ、日銀の「存在感」が市場から消えたわけではない。日銀の保有資産が積みあがっていることで生じるストック効果が強まっているためだ。

現在、国債残高は約1074兆円(今年3月末、以下同)。日銀はそのうち532兆円を保有している。国債の売りオペは当面想定されないことから、市場に出回る債券は残高の半分程度ということになる。

円債市場には、生保のように商品との見合いで日本国債を一定程度、買わなければならない投資家がいる。市場に出回る「浮動債券」が少なくなれば、彼らの買いインパクトは大きくなり、金利低下効果は強まる。

株式市場でも日銀の存在感は依然大きい。東証1部時価総額の720兆円に対し、日銀のETFの保有残高は51兆円程度と債券に比べれば小さいが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を抜いて国内最大の日本株保有者となった日銀が、当面は「売らない株主」であることは株価の下支え要因だ。

日銀によるETF買いの期待感も残っている。5月11日はTOPIXが前場に1.98%下落し、市場には買い期待が高まったが、どうやら購入はなさそうだ、との見方が広がると失望感が広がり、後場は一段安となった。

「ステルステーパリング」とも言える動きに、市場参加者は複雑な思いだ。明確な説明なきままの「撤収」に不満を覚えながらも、相場に波乱を起こしていないことを評価する声もある。

「日銀のETF購入減は中長期的には正しい方向だが、市場が日銀不在のノーマルな環境に慣れるには時間がかかりそうだ」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ投資ストラテジスト、藤戸則弘氏は指摘している。

(伊賀大記、木原麗花 編集 橋本浩)

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