アングル:米の中国車調査、バイデン氏に大統領選への計算も
ロイター / 2024年3月4日 18時22分
バイデン米大統領は「米国の自動車労働者を守る」と宣言し、中国製コネクテッドカーが米国でスパイ活動に使われる恐れについて調査を開始した。写真はミシガン州ベルビルで全米自動車労組(UAW)のメンバーと並ぶバイデン大統領。2023年9月撮影(2024年 ロイター/Evelyn Hockstein)
David Shepardson Jarrett Renshaw Michael Martina
[ワシントン 1日 ロイター] - バイデン米大統領は「米国の自動車労働者を守る」と宣言し、中国製コネクテッドカーが米国でスパイ活動に使われる恐れについて調査を開始した。現時点でそうした脅威は現実味が薄く、バイデン氏の言動の裏には大統領選を控えた政治的な計算がありそうだ。
ホワイトハウスは2月29日、インターネットに常時接続する「コネクテッドカー」が「スパイおよび妨害活動の新たな道」になるという国家安全保障上のリスクを理由に、調査開始を発表した。
米自動車メーカーは現在、中国製の電気自動車(EV)と自国で競争しなければならなくなる可能性について、パニックに近い恐れを抱いている。自動車業界のロビー団体は最近、米メーカー「絶滅」の危機を引き起こしかねないとまで述べた。
中国のEV産業は近年、諸外国を圧倒する勢いで急成長しており、世界中への輸出を視野に入れている。多くの場合、中国製EVの価格は米国製よりはるかに安い。
バイデン氏は「自動車産業の未来が米国の労働者らによって、ここ米国で作られるようにする」と誓った。
政治、政策の専門家らは、中国によるスパイ活動の脅威を認めつつも、バイデン氏の攻撃的な発言には対中強硬姿勢を強調する狙いがあるとみる。
戦略国際問題研究所(ワシントン)の中国専門家、スコット・ケネディー氏は「今回の発表は、この課題の解決策を見つけるという目的もさることながら、中国に対して弱腰だという批判を和らげる狙いがあるようだ」と語った。
在米中国大使館は、バイデン氏が競争を抑えるために「『中国脅威論』を誇張している」と批判した。
ケネディー氏は、調査は妥当だとしながらも「国家安全保障への過剰な懸念」に基づく保護主義に拍車をかける可能性に懸念を示した。
業界関係者の多くは、中国の自動車メーカーに対する貿易障壁の強化を求めており、米欧各国の政府は実際にそれを検討している。米EV大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は1月、障壁を高めなければ中国は競合する世界の自動車メーカーを「壊滅」させると述べた。
現在、米国の道路を走っている中国製自動車はごく少数で、バイデン政権は、それらがスパイ行為に関与している証拠は示さなかった。
民主党のストラテジスト、ジェニファー・ホールズワースは、政権の調査は製造業の雇用を支援するバイデン氏の姿勢と整合的だとし「良い政策はしばしば政治的にも良い」と述べた。
<激戦区ミシガン>
対中貿易を制限する政策は、民主党と共和党の考えが一致する数少ない分野の一つだ。バイデン氏はトランプ前大統領が始めた「対中貿易戦争」を実質的に継続している。
ミシガン州の世論調査員バーニー・ポーン氏はバイデン氏の発言について、米自動車産業の中心地であり、大統領選における激戦州の一つであるミシガン州で支持を高めるのが狙いだと解説。「彼(バイデン氏)は攻勢に本腰を入れ、雇用が中国のような場所に奪われるというトランプ氏の主張を骨抜きにする必要がある」と語る。
トランプ氏は選挙戦でしばしばEVについて、雇用を奪う「詐欺」であり中国への屈服だと揶揄(やゆ)している。
全米自動車労組(UAW)の支持を受けるバイデン氏は、ミシガン州デトロイトの3大自動車メーカーと、その工場労働者の重要性を繰り返し強調している。
ミシガン州選出のゲーリー・ピーターズ上院議員(民主党)は、中国製EVは経済的にも安全保障上も脅威だとし「要するに、中国共産党を後ろ盾とする企業が作る自動車の居場所は、米国には無いということだ」と言い切った。
中国製EVの輸出急増は、業界の不安とバイデン氏への政治的圧力をさらに強めている。世界最大のEVメーカー、中国の比亜迪(BYD)は、メキシコに工場を開設する計画を確認するとともに、最も安価なモデルを中南米で発売した。
BYDは、メキシコを米国市場への輸出拠点とする計画は無いとしている。
一方、バイデン氏はEV政策に関し、相反する目標を両立させるという難題に直面している。つまり、環境保護の目的からEVを急速に普及させる貿易政策を採りながら、世界で最も先進的かつ手頃なEVバッテリーおよび部品を供給する中国からのEVや部品の輸入を事実上禁止しているのだ。
政府はEV購入者に7500ドルの補助金を支給しているが、今年から制度を改革し、中国を含む「懸念される外国企業」のバッテリーや鉱物を使った車を対象外とした。
こうした規制によって米自動車メーカーは安価なEVを製造しにくくなっているため、政権は別途、米自動車メーカーと厳しい排ガス規制について交渉している。
排ガス規制はEVへの移行加速を狙いとしており、政府案では米市場におけるEVのシェアを現在の8%未満から2032年には67%まで高めるとの目標が掲げられている。
<恐怖のシナリオ>
米政府はハイテク搭載の中国車を巡り、スパイの脅威だけでなく、さらに恐ろしいシナリオも指摘して警鐘を鳴らしている。
レモンド商務長官は最近、中国政府が米国を走る何十万台もの中国製コネクテッドカーへの接続を遮断し、大混乱を引き起こそうとするシナリオを口にした。中国車は「北京のだれかによって即座に、そして同時多発的に機能不全にされる可能性がある。考えるのも恐ろしいことだ」と指摘した。
レモンド氏はまた、「海外」の「悪者」によって日常的にプライバシーが侵害される脅威にも触れた。
コネクテッドカーは膨大な量の機密データを収集しており、親が子供を学校に送り届ける場所から、日々の通勤経路、医師からドライバーへの医療に関する電話、銀行からの延滞ローンに関する電話まで、幅広いデータが集められる可能性があるとレモンド氏は語った。
テキストメッセージも位置情報も電子メールも全て脆弱で「個人的なものだと思っていても、海外に送信されかねない情報は信じられないほどの量に上る」とレモンド氏は言う。
元諜報高官のアンナ・プグリシ氏は、特に中国のような「戦略的動機に基づく国家」の企業がこうした自動車に関与することを考えれば、商務省の国家安全保障上の懸念は妥当だと述べた。
一部の中国自動車メーカーは国有で、政府は自動車業界全体に対して広範な権限を持っている。プグリシ氏は「公的部門と民間部門、民間と軍事の境を曖昧にし、国家の戦略的目標のために商業部門を強制利用する国家にどう対処するかが、より大きな問題だ」と語った。
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