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アングル:ルーマニア大統領選、親ロ極右候補躍進でTikTokに疑惑の目

ロイター / 2024年12月4日 17時21分

 12月3日、ルーマニア大統領選の第1回投票で親ロシア極右のカリン・ジョルジェスク候補(写真)が首位となり、憲法裁判所が票の再集計を命じる事態に至った。ブカレストで11月に行われたTV討論会場で撮影。提供写真(2024年 ロイター/Inquam Photos/Octav Ganea)

Joanna Gill

[ブリュッセル 3日 トムソン・ロイター財団] - 11月24日に実施されたルーマニア大統領選の第1回投票で親ロシア極右のカリン・ジョルジェスク候補が首位となり、憲法裁判所が票の再集計を命じる事態に至った。3カ月前まではほとんど無名だったジョルジェスク氏のすい星のような躍進ぶりに、ロシアによる選挙介入やソーシャルメディアによる操作を疑う声が上がっている。

憲法裁判所は12月2日、第1回投票の結果は有効だと認め、今月8日に決選投票を行う日程を確定させた。決選投票はジョルジェスク氏と、第1回で2位だった野党の中道右派「ルーマニア救国同盟」のラスコニ党首で争われる。

ジョルジェスク氏は中国系短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を中心に選挙運動を展開。学界や政界は、ジョルジェスク氏の投稿がいかにして爆発的に拡散したのか調査が必要だと主張。TikTokは調査の結果次第ではルーマニアで閉鎖に追い込まれる可能性に直面している。

TikTokは選挙に不当な影響を及ぼしたとの声に対して「不正確で誤解を招く」と反論。ロシアも選挙への介入をを否定している。

ルーマニアの人気ユーチューバー、シルビウ・イストラテさんはトムソン・ロイター財団に対して「彼(ジョルジェスク氏)はほとんどTikTokで選ばれたと冗談で言われている」と話した。

<TikTokで存在感>

ジョルジェスク氏は自身がどの政党にも所属しておらず、選挙資金はゼロで、選挙運動はボランティアによって運営されたとしている。ただ、TikTokを活用することによってオンラインでかなりの存在感を構築し、30万人近いフォロワーを獲得した。

TikTokはルーマニアで最も人気のあるソーシャルメディアのアプリの1つで、人口約1900万人の同国で約900万人が利用している。

貧困の危機にさらされている人が人口に占める割合が欧州連合(EU)加盟国で最も高いルーマニアで、生活費の高騰問題が焦点となった大統領選に臨む前のジョルジェスク氏の世論調査での支持率は1桁台前半だった。

しかし、ジョルジェスク氏は主要政党に代わる選択肢を提示することに成功した。

イストラテさんは「ジョルジェスク氏への票は既存体制への反発であり、主流派政党に対する復しゅうだった」と語り、選挙結果自体には異を唱えないものの、このような形でジョルジェスク氏が一気に人気を集めたことには違和感もあると付け加えた。

国家視聴評議会のバレンティンアレクサンドル・ジュカン副会長は、TikTokのアルゴリズムが特定の候補者だけに有利な材料を増幅させ、誰が選挙のコンテンツのスポンサーになっているのかに関する透明性に欠けているとの見方を示した。

TikTokの広報担当者は「彼(ジョルジェスク氏)のアカウントが他の候補者と異なる扱いを受けたと主張することは全くの誤りだ」とコメントし、ルーマニア当局が政治的な動画にフラグを付けた場合には「24時間以内に対処した」と訴えた。

それでも一部のアナリストは、エンゲージメントを重視するTikTokのアルゴリズムは透明性が欠如していると指摘する。

欧州大学院のクリスティーナ・バンベルヘン客員教授は「TikTokが十分な監督を受けずにジョルジェスク氏のような特定の候補者(の存在)をアルゴリズムで増幅していることは、選挙のプロセスの公正さと透明性に懸念を抱かせる」と語った。

<本物でない行動>

ベルリンを拠点とする非政府組織(NGO)「デモクラシー・レポーティング・インターナショナル」によると、ジョルジェスク氏の衝撃的な勝利は大統領選前の世論調査データと比較して「本物でない行動」や、偽のボットアカウントがあったことを示した。

一例として11月26日に作成されたジョルジェスク氏を支持するアカウント「@iamcalingeorgescu」は即座に1万5000人のフォロワーを獲得した。

アナリストらは、ソーシャルメディアのマイクロインフルエンサーが投稿を有料広告と明記することなく、間接的にジョルジェスク氏を宣伝したとも指摘する。

TikTokは有料の政治広告を禁止している。しかし、ブカレストを拠点とする団体「エキスパート・フォーラム」の研究者らは、政治的なコンテンツの大半が有料広告と明記されていないことを発見した。同団体は「彼らはエンターテイメントだと言いながら、政治的プロパガンダを平然と行なっている」と指摘している。

イストラテさんは、マイクロインフルエンサーらは候補者の名前は出さなくても「愛国者」や「農家を大切にする人」などと候補者を描写するのに使われた説明文からコピー・アンド・ペーストで引用したようだと指摘した。

その上で「望ましい目的」の達成を支援するためにマイクロインフルエンサーと広告主を結びつけるプラットフォームが利用され、投稿に報酬が支払われた可能性があるとの見方を示した。

ユトレヒト大学でソーシャルメディアのインフルエンサーについて研究しているカタリナ・ゴアンタ准教授は「投稿をインフルエンサー発掘プラットフォームでの仕事として紹介した組織は全く見当たらない」と指摘。トレーサビリティが困難であるだけでなく、選挙介入を否定しやすくなっていると話す。 

<教訓>

ジョルジェスク氏の第一回投票での衝撃的な勝利は、選挙運動を形成する上でデジタルプラットフォームの力が増大していることを示している、とアナリストらは解説する。その上で、大手IT企業に「選挙プロセスのリスク軽減措置」を義務付けたEUの新しいデジタル規則の試金石となるとの見方を示した。

EU欧州委員会は、今年2月に施行されたデジタルサービス法(DSA)のTikTokによる順守状況を調査するよう求められている。違反が疑われる場合、欧州委はTikTokがDSAの義務を順守しているかどうかの調査手続きを開始することができる。

欧州委の報道担当者は電子メールを通じて「私たちは動向を注視している」との声明を出した。

違反が見つかった場合、TikTokは全世界の売上高の最大6%の罰金を科せられる可能性がある。違反が繰り返されれば欧州で閉鎖される可能性がある。

教育格差や制度上の課題を指摘する研究者らは、ルーマニア大統領選は将来の選挙のために学ぶべき教訓をもたらしたと説明する。

欧州大学院のバンベルヘン氏は「この問題はEU全体に拡大する可能性がある」とし、特に選挙で「不透明なアルゴリズムを持つプラットフォームへの依存が高まり、特定の候補者や政党が他より有利になる可能性がある」と言及。

ソーシャルメディアの利用禁止は「解決策にはならない」としながらも、特定のコンテンツに触れることによるアルゴリズムが与える影響について有権者を教育することを推奨した。

また外資ソーシャルメディアが政治的に干渉する恐れがある中で、民主的プロセスを守るために追加規制が必要だと提言。「AI技術の進化に伴い、EU加盟国はこれらの新しいツールがもたらす独自の課題に対処するための予防策の導入が必要となる」と訴えた。

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