焦点:トランプ氏が頼った簡易検査の罠 ホワイトハウスさらに感染者も
ロイター / 2020年10月5日 19時18分
新型コロナウイルスのパンデミックが始まった早いころから、トランプ米大統領はトースターぐらいの大きさで、ウイルス検査結果が十数分ほどで分かる簡易検査装置に強い信頼を寄せていた。写真中央は2日、メリーランド州ベセスダでヘリコプターを降りるトランプ大統領(2020年 ロイター/Joshua Roberts)
[3日 ロイター] - 新型コロナウイルスのパンデミックが始まった早いころから、トランプ米大統領はトースターぐらいの大きさで、ウイルス検査結果が十数分ほどで分かる簡易検査装置に強い信頼を寄せていた。米医薬品大手アボット・ラボラトリーズ開発の「ID NOW」だ。
3月下旬のホワイトハウスのローズガーデンでのイベントでは、同検査装置が承認されたことを称賛。新型コロナを寄せ付けないためとして、ホワイトハウスでの広範な使用も容認していた。マスク着用や社会的距離といった、政権として打ち出したはずの推奨を頻繁に無視することについては、自分の周囲はだれもがこの装置で検査されているからだと説明してきた。
しかし、同氏の戦略は新型コロナに通用しなかった。大統領は10月2日に自身とメラニア夫人の陽性反応を公表。他の政権高官の健康への懸念も高まり、11月3日の大統領選挙までの数週間を混乱に突き落とした。
<検査はウイルスの障壁にならない>
バンダービルト大学医学部のウィリアム・シャフナ-教授(感染症)は「残念ながらホワイトハウスとそのスタッフが限界のある簡易検査に頼ったことが、彼らにウイルスを抑制しているとの誤った安全認識を与えた」と話す。「検査は人とウイルスの障壁になってくれるわけではない。だれもがマスクと社会的距離が必要だし、だれもがあのような選挙集会に行ってはいけない」
簡易検査は隔離措置とともに用いる設計ではない。簡易検査が陰性になっても、それは検査時の状態をざっくり把握したにすぎない。検査直後の感染を防ぐものではない。さらに新型コロナの場合、体内のウイルスが検出可能な量に増える前の数日間でも他人にうつす可能性がある。
サウスカロライナ医科大学のクルティカ・クッパリ准教授(感染症)によると、簡易検査がコロナの無症状の段階の感染者に対し、どう効果があるかもきちんとは分かっていない。「トランプ氏の行動はリスクだらけだったから、今回のようなことになるのは実際のところ、時間の問題だった。マスクさえしていれば、たとえ感染者の周囲にいたとしてもトランプ氏は感染を避けられたのではないか」と言う。
<手軽な方法、正確さには疑義>
開発したアボットの広報担当者は、米国で緊急使用が3月に承認され国内で1100万人以上が利用したこの簡易装置について、信頼できる結果を出していると述べた。
新型コロナのウイルス検査の主流はPCR検査で、これは専門施設で解析、判定するが、結果判明には数時間から数日かかることがある。これに対し、ID NOWはその場で13分以内に結果が分かるとされ、装置の持ち運びもできる、という2大長所がある。患者の鼻腔内をぬぐって採取したサンプルを温めてウイルスの遺伝子物質を増やす方式だ。
ホワイトハウスはここ最近のトランプ氏らの簡易検査の詳細を公表していない。スタッフや来訪者への日常的な簡易検査が正確な結果を出さなかったという証拠もないし、トランプ氏とヒックス氏がよそでなくホワイトハウスで感染したという証拠もない。
しかしID NOWに対しては、研究者の一部から正確性への疑念が出ていた。
ニューヨーク大学が5月に発表した研究では、この装置が感染者の3分の1から場合によっては半分近くを見落とす恐れがあるとされた。同月にコロンビア大学アーバイン・メディカル・センターの研究者も、検査の的中率が73.9%にとどまったとしていた。
米食品医薬品局(FDA)も5月、ID NOWの不正確さの可能性を巡る懸念を認めていた。9月30日時点でFDAに関連の有害事象302件が報告されており、多くの偽陰性が含まれていたことも発表した。9月に改定されたFDAの緊急使用許可承認では、結果を確認する追加検査実施が妥当かもしれないと警告した。
アボットはニューヨーク大学の研究については今月2日、調査に欠陥があり、問題点が多数あるとする声明を発表。ID NOWの結果はPCR検査と類似しており、患者の感染サイクルによっては最も感度の高い検査でも偽陰性の判定はあり得ると反論。同社広報担当者は、感染直後にウイルスを検知できる検査手段はないとも述べた。
トランプ氏についてはホワイトハウス専属医のショーン・コンリー医師が2日、PCR検査で感染を確認したと公表している。
<かえってウイルス拡散も>
トランプ氏はID NOWでの自分や側近らへの日常的な検査で意を強くし、マスク着用を義務づけない大規模な選挙集会や献金者とのイベント開催を続けた。1日にはニュージャージー州に飛んで資金集めのゴルフイベントに参加、演説もしていた。ホワイトハウスのマケナニー報道官は2日、「社会的距離を取っていたし、屋外イベントだったし、ホワイトハウスの運営によって大統領の参加は安全であるように見えた」と語った。
トランプ氏や側近らはいつもマスクをしていなかった。先月の議会証言でマスク着用の重要性を訴えた米疾病対策センター(CDC)のレッドフィールド所長をトランプ氏は公然と否定していた。9月29日の第1回大統領選候補討論会では、民主党候補バイデン前副大統領がしょっちゅうマスクをしているとけなしていた。「私は彼みたいにはマスクをしない。彼は見るといつも、マスクしている」と発言していた。
専門家によると、ホワイトハウスが新型コロナを防ぐために検査ばかり重視していたツケは、大統領やメラニア夫人を超えてかなり広範に広がる可能性がある。サウスカロライナ医科大のクッパリ氏は、ホワイトハウス関連で「陽性判明はもっと増えると思う」と話し、「そうならないことを祈っているが」と付け加えた。
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