焦点:ガザ戦後統治は誰が担うのか、イスラエルを悩ます難問
ロイター / 2024年7月5日 18時31分
イスラエルは米国の同盟諸国に対し、戦闘終結後のパレスチナ自治区ガザについて、現地の有力部族と提携して統治する計画を提示した。だが、疑問は残る。写真はガザ地区南部ハンユニスで2日、荷物を乗せて車で移動する人たち(2024年 ロイター/Mohammed Salem)
Nidal al-Mughrabi Emily Rose Matt Spetalnick
[エルサレム 2日 ロイター] - イスラエルは米国の同盟諸国に対し、戦闘終結後のパレスチナ自治区ガザについて、現地の有力部族と提携して統治する計画を提示した。だが、疑問は残る。ガザでは今もイスラム組織ハマスが断固たる影響力を保っており、敵であるイスラエルと協議する姿を見せたいという者は1人もいない。
イスラエルは、ガザにおける人命の損失を終わらせ、約9カ月にわたる軍事攻撃を縮小するよう米国政府からの圧力を受けているが、戦後にハマスが統治することは望んでいない。
そこでイスラエル当局者は、何とか戦闘終結から先の道筋を描き出そうと頭を悩ませている。
イスラエル政府の有力者による公式の発言によれば、計画の大きな柱は、これまでとは異なる民政体制を形成し、既存の権力構造に関与していない、イスラエルとの協力に前向きな現地のパレスチナ側当事者を巻き込むことだ。
ガザにおいてこうした役割を担う可能性があるとすれば、地元の有力部族の首長に限られるが、いずれも戦後統治への関与に消極的だ。ロイターでは、1つの部族の首長を含め、ガザの主要部族のメンバーから話を聞いた。
ベルギーのブリュッセルを拠点とするシンクタンク「国際危機グループ」でパレスチナ担当上級アナリストを務めるタハニ・ムスタファ氏は、「(イスラエルは)地元の部族や名家との協力を積極的に模索している」という。「だが、彼らは拒否した」
ムスタファ氏はガザ地区の複数の部族や現地当事者との連絡を保っており、彼らが戦後統治への関与を望まないのは、1つにはハマスからの報復を恐れているからだと語る。
報復の恐れは確かにある。イスラエルは戦闘の目標はハマス壊滅にあると公言しているが、ロイターの取材に応じた6人のガザ住民によれば、ハマスは依然としてガザの街で自らの方針を徹底するだけの影響力を維持しているという。
ハマスが運営するガザ当局系メディアのディレクター、イスマイル・アルタワブタ氏は、ガザの有力部族のリーダーがイスラエルに協力すればどうなるかという質問に対し、「命に関わるのではないか」と答えた。
イスラエルのネタニヤフ首相は先週、イスラエルのテレビ局「チャンネル14」によるインタビューの中で、国防省はすでにガザの有力部族への接触を試みたものの、「ハマスにつぶされて」しまったと述べ、ガザの戦後統治の難しさを認めた。
ネタニヤフ首相は国防省が新たなプランを用意しているとしつつ詳細には触れず、イスラエルの占領下にあるヨルダン川西岸地区を統治するパレスチナ自治政府を呼び込むつもりはないと明言するにとどめた。
ロイターは、ガザ地区の有力部族との協力に向けたイスラエル側の働きかけが続いているかどうかを確認できなかった。
イスラエルのガラント国防相は先週、米ワシントンにおける米当局者との会合で戦後計画について協議した。
ガラント国防相は訪米中の記者会見で「ガザの未来に関する唯一の解決策は、地元のパレスチナ人による統治だ。統治するのは、イスラエルでもハマスでもありえない」と述べた。ただし具体的な部族の名は挙げなかった。
ロイターはイスラエル首相府にコメントを求めたが、首相府はこの問題に関するネタニヤフ首相の過去の発言を紹介するにとどめた。国防省はロイターの質問に回答しなかった。
イスラエルによるガザ侵攻の引き金となったのは、昨年10月7日にハマスが仕掛けた越境攻撃だ。イスラエル側の集計によれば民間人を中心に約1200人が死亡し、約250人が人質となった。
パレスチナ保健当局は、イスラエルのガザへの地上侵攻および空爆により3万8000人近い犠牲者が出ており、その大半は民間人だとしている。イスラエル側は、死亡者の多くはパレスチナの戦闘員だと主張している。
<「有力部族」とは>
ガザには、組織だった部族として動ける有力な一族が多数ある。ハマスと正式なつながりを持っていないものも多い。複数の事業を支配することで力を蓄え、数百人、数千人にも及ぶ親族の忠誠を集めている。どの家族にも「ムフタール」と呼ばれる首長がいる。
1948年のイスラエル建国前、パレスチナを支配していた英国の植民地行政官は、統治のためにムフタールらに深く依存していた。こうした名門部族の力は2007年にガザの実権を握ったハマスによりそがれていったが、それでも一定の自立性は保っている。
イスラエルはすでに複数のガザの商人に対し、南部の検問所を経由した商業輸送の調整について協議を呼びかけている。だが住民らはイスラエルとの交渉については口をつぐんでいる。
ガザの部族メンバーの説明によれば、イスラエル側の働きかけは、範囲としては控えめだが、多岐にわたっている。ガザ地区内部の現実的な問題に関する内容であり、同地区北部に重点を置いている。イスラエルが、民政に向けた取り組みの中心になるとしている地域だ。
ガザの部族首長の1人は匿名を条件にロイターの取材に応じ、自分ではなく他のムフタールに対して、過去2─3週間にイスラエル当局者から接触があった、と述べた。イスラエル側からの電話を受けた人物からそのことを聞かされたので、電話について知ったと話した。
この部族首長によれば、イスラエル当局者はガザ地区北部における支援物資供給に関して「複数の声望ある有力者」からの手助けを望んでいる。だが、イスラエルのガザ侵攻により部族メンバーが殺害され、家財が破壊されていることへの怒りがあるため、「ムフタールたちはこうした駆け引きには乗らないだろう」という。
この首長が率いる部族は農業やガザの輸入事業の主力となっているが、ハマスと正式なつながりはない。
イスラエルとガザの有力者の接触は他にもある。この2週間、イスラエル国防省の当局者が、ガザの食品関連企業の有力オーナー2人に連絡してきた。この件について情報提供を受けたパレスチナ人が明らかにした。
この人物によれば、イスラエル側が協議を望んだ内容は不明であり、ガザ北部出身の企業オーナー2人はイスラエル側との接触を拒んだという。
また別の部族の幹部は、イスラエル当局者から自分の部族への連絡はないが、あったとしても冷淡な対応を取るだろうと話している。「われわれに協力する意志はない。イスラエルはこういう駆け引きをやめるべきだ」。この人物もハマスとの正式なつながりはない。
<別の選択肢>
イスラエルのハネグビ国家安全保障顧問は先週、政府は軍に対し「イスラエルと共存する意志があり、イスラエル国民の殺害に命を懸けることのない地元リーダー」を探す権限を与えたと述べた。
ハネグビ氏はある会議の場で通訳を介して発言し、この協力者探しはガザ北部で開始されており、まもなく現実的な成果が明らかになるだろうと語った。
戦後ガザ統治に向けたイスラエルの計画において、民政の確立と並ぶ柱は、秩序維持を目的とした外部の治安部隊の導入、復興に向けた国際支援の確保、長期的な和平合意の模索である。
イスラエルはアラブ諸国の支援を必要とすることになるが、各国とも、イスラエルがパレスチナ国家樹立に向けた明確なスケジュールに合意しない限り関与しないと話している。だがネタニヤフ首相は、そうした合意を強要されるつもりはないと述べている。
戦闘が始まって以来、米政府は、かつてガザ地区を統治していたパレスチナ自治政府を改革・強化し、ガザ統治に備えさせるべきだと主張してきた。
ネタニヤフ首相はパレスチナ自治政府を信用していないと話しており、自治政府側は、ネタニヤフ氏がガザとヨルダン川西岸の分断状態を継続したいと考えているとしている。パレスチナ政策調査研究センター(PCPSR)の6月12日の調査によれば、自治政府に対するガザ住民の支持は弱い。
もっとも、米当局者2人はロイターに対し、ネタニヤフ氏には、ガザの治安維持を自治政府側に委ねる以外に選択肢はほとんどないかもしれないと語っている。
「もめることになるだろうが、短中期的にそれ以外の選択肢はない」と米当局者の1人は話す。
イスラエルは戦後のガザ地区における統治・治安維持についてまだ具体的な計画を策定していない、と米当局者らは言う。いずれも、機密に関わる問題ゆえに匿名を希望している。
2人とも、イスラエル当局は幅広いアイデアを検討していると言うが、詳細については明らかにしなかった。
米国務省にもコメントを要請したが、現時点で回答はない。
<影響力を残すハマス>
PCPSRの調査によれば、ガザ地区住民の中には戦争を誘発したのはハマスだと非難する声もあるが、イスラエルの攻撃に怒って尖鋭化し、イスラエルの破壊を公言するハマスに接近している住民もいる。
ハマスは、戦闘終結後に自らがガザ地区を統治する可能性は低いことを認めつつ、影響力は残せると期待している。
あるガザ地区住民は、ハマス指揮下の警察官らが6月にガザ市の街路を巡回し、商人らに値上げを抑えるよう警告しているのを目撃したと語る。この住民は報復を恐れて匿名を希望しつつ、彼らは通常の制服ではなく私服姿で、自転車で移動していたと話している。
ロイターの取材に応じたガザ市の住民4人によれば、ハマスの戦闘員は支援物資の管理に介入しており、今年初めにはガザ市で輸送を引き継ごうとした部族関係者数人を殺害したという。
この殺害についてハマスにコメントを求めたが、回答は得られなかった。
ハマスは4月、パレスチナ自治政府に忠実な治安維持組織のメンバー数人を拘束したと発表した。自治政府に近い3人の人物によれば、拘束されたメンバーらはガザ地区北部に運ばれる支援物資を警護していたという。
元イスラエル軍情報部大佐で、現在はイスラエルの研究機関であるモシェ・ダヤン・センターのパレスチナ研究フォーラムを率いるマイケル・ミルシュタイン氏は、「ガザに空白地帯はなく、ハマスは依然として突出した勢力だ」との見方を示した。
(翻訳:エァクレーレン)
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