アングル:世界の不動産市場、金融緩和でも急ピッチの回復見込めず
ロイター / 2024年9月6日 7時59分
9月5日、世界の不動産市場は急激な金利上昇で打撃を受けたが、今後、徐々に金融緩和が進んでも、過去の不動産ブームにつながったような大量の資金流入は見込めないとみられている。ニューヨークで8月撮影(2024年 ロイター/Kent J Edwards)
Tom Sims Matt Tracy John O'Donnell Iain Withers
[ニューヨーク/ロンドン 5日 ロイター] - 世界の不動産市場は急激な金利上昇で打撃を受けたが、今後、徐々に金融緩和が進んでも、過去の不動産ブームにつながったような大量の資金流入は見込めないとみられている。
欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(英中央銀行)、スイス、スウェーデンなどの中央銀行はすでに利下げを開始しており、米連邦準備理事会(FRB)も追随するとみられている。
ただ、業界関係者や金融機関によると、債券や普通預金の魅力が増す中、不動産市場からは資金が流出している。
チューリッヒ保険の不動産リサーチ担当グローバルヘッド、アンドリュー・アンジェリ氏は「まだ危機を脱していない」とし、不動産市場が急ピッチで回復する見込みは薄いとの見方を示した。
不動産市場は過去2年間の利上げで大きな打撃を受けた。欧州では不動産大手のシグナが経営破綻。コンサルティング会社ファルケンシュテーグによると、ドイツの不動産関連の企業倒産は今年上半期に1100件を超えた。
英国でも業種別で不動産関連の企業倒産が2年連続で最多だった。今年6月までの1年間の倒産件数は約4300件に達した。
特にオフィス市場は金利上昇と在宅勤務で大打撃を受けた。だが、影響は住宅市場にも波及。ドイツでは不動産価格の下落に伴い大手不動産会社の破綻や投融資の減少が起きており、住宅不足が悪化している。
米不動産会社NAIバーンズ・スカロ(ピッツバーグ)のブライアン・ウォーカー社長は「オフィス市場は底を打ったと言う人もいるだろうが、どうしてそんなことが言えるのか分からない」とし、多くの投資家がオフィスビルを金融機関に明け渡していると指摘した。
ドイツの不動産融資大手、DZ銀行のコルネリウス・リーセ最高経営責任者(CEO)は、利上げの影響が波及するのに3年かかると指摘。「ほぼ3分の2は終わったが、予想外の事態に見舞われ得る局面に入っている」と述べた。
ドイツや中国など多くの国では景気が減速しており、懸念は一段と強まっている。
<不動産融資への懸念>
不動産投資会社JLLの試算によると、商業用不動産市場では、今年から来年にかけて世界全体で合計2兆1000億ドル相当の債務の返済が必要となる。このうち3分の1近くは今年上半期に借り換え契約が締結されたが、来年は最大5700億ドルの返済資金が不足する恐れがある。
米国の投資家の間ではオフィスビルを金融機関に明け渡す動きが広がっている。運用会社ブルックフィールド・アセット・マネジメントは、音楽事務所やスタジオが入居していることで有名なニューヨークのブリル・ビルディングを手放した。
不動産ブームを受けて市場に参入した中小の銀行も脅威にさらされている。
フロリダ・アトランティック大学のレベル・コール教授(ファイナンス)は、米国の62行の中小銀行が巨額の不動産融資債権を抱えていると指摘。一部は破綻の危機があるとの見方を示した。資金調達を大口預金に依存しており、直ちに預金が引き出されるリスクがあるという。
米マーベリック・リアルエステート・パートナーズ(ニューヨーク)の共同創業者デービッド・アビラム氏によると、来年は大量の融資が返済期限を迎えるため、銀行は融資債権の売却を目指しているが、一部では額面の40%でしか買い手が見つからず、売却を棚上げしている銀行もある。
ECBは、ユーロ圏の一部大手行が商業用不動産の評価額をつり上げ、融資状況の悪化を隠蔽(いんぺい)している可能性があると指摘している。
融資債権の売却先送りは事態の悪化につながりかねない。人気のある立地とそうでない立地の差は広がりつつある。
シュローダー・キャピタル(ニューヨーク)のジェフリー・ウィリアムズ氏によると、ロサンゼルスではフォックスの撮影所があるセンチュリーシティーの商業地区が好調だが、ダウンタウンでは多くのビルが経営破綻し、空き室も目立つ。
不動産市場の深刻な悪化に見舞われているスウェーデンでは、それでも利下げへの期待が浮上している。同国の不動産大手SBBのレイフ・シネスCEOは「資本コストが下がり、不動産価格が上昇する可能性があると信じるのであれば、その方がいい。今はムードが一変している」と語った。
この記事に関連するニュース
-
不良債権問題を“先送り”にして“なにも問題はないふり”をする米国経済の〈ゆくえ〉とは【マクロストラテジストが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月21日 8時0分
-
新型コロナ禍の資金繰り支援 1.5兆円が回収困難 会計検査院
毎日新聞 / 2024年12月18日 17時0分
-
タワマン高騰の果て「不動産大暴落」が訪れる条件 需給バランス崩壊で価格は本当に下がるのか
東洋経済オンライン / 2024年12月5日 11時30分
-
近いうちにアメリカが「銀行の経営難」に襲われる!?…米FRBが実施した銀行救済策が「問題の先延ばし」にすぎなかったワケ【マクロストラテジストが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月30日 9時15分
-
中小企業デットファイナンスの新潮流 第35回 当座貸越(2)
マイナビニュース / 2024年11月22日 8時0分
ランキング
-
1車両生産で相互乗り入れ検討 ホンダ、日産にHV供給も
共同通信 / 2024年12月21日 16時3分
-
2「本当に就職に強い大学ランキング」トップ150校 卒業生が1000人以上で実就職率が高い大学
東洋経済オンライン / 2024年12月21日 7時30分
-
3オープンAIの新たな生成AI「人間並み」近づく…安全性を確認するため当面は研究者に限定提供
読売新聞 / 2024年12月21日 18時19分
-
4自動車メーカー「勝ち組と負け組」の明暗分かれた? 知っておくべき「決算書」の見方は? 半期決算で見る「日産とスズキ」の違いとは
くるまのニュース / 2024年12月20日 5時50分
-
5日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書簡 法的措置も
ロイター / 2024年12月21日 17時6分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください