アングル:迫る米大統領選、騒乱に身構える有権者 不安極限に
ロイター / 2024年11月5日 15時31分
11月4日、選挙直前になって有権者のストレスは極限に達している。劇的に異なる2人の候補が異なる米国の未来を掲げて対決する中で、選挙結果とそれに伴って起きる可能性がある騒動から身を守ろうとしているのが、今の有権者の姿だ。写真はグラフィックデザイナーを引退したジェニファー・ビュネックさん(68)。ペンシルベニア州ベルビューで2日撮影(2024年 ロイター/Gram Slattery)
Gram Slattery Tim Reid James Oliphant Gabriella Borter
[ベルビュー(米ペンシルベニア州) 4日 ロイター] - 5日に投票日が迫った米大統領選を巡り、東部激戦州のペンシルベニアで暮らす管理職のダニエル・トレニーさん(39)はあまりにも不安が高まったため、今年はクリスマスツリーを早めに設置し、家族の気持ちを和ませようと決めた。
トレニーさんが住むベルビューは、ペンシルベニアの中でも民主党候補のハリス副大統領と共和党候補のトランプ前大統領の両陣営とも特に重視するピッツバーグ郊外の選挙区で、住民たちは皆同じような心理状態だという。
既に期日前投票でハリス氏に入れたトレニーさんは「何とか不安を鎮めようと、気を紛らわせるために何でもそろえている。本当に一体どうなってしまうのだろうか」と語った。
グラフィックデザイナーを引退したジェニファー・ビュネックさん(68)は今回、トランプ氏に投票する考え。選挙前のとげとげしい雰囲気や、絶え間ない世論調査会社からの電話、選挙広告の洪水にはうんざりで、できるならそうした「雑音」を全て消してしまいたいと思っている。
土曜日だった2日は、菓子のレシピ本を読むことに大半の時間を費やして心の平穏を保った。「これまで一度も政治に入り込んだことはなかった。政治で気分が高揚した経験もない」とビュネックさんは話した。
選挙直前になって有権者のストレスは極限に達している。劇的に異なる2人の候補が異なる米国の未来を掲げて対決する中で、選挙結果とそれに伴って起きる可能性がある騒動から身を守ろうとしているのが、今の有権者の姿だ。
ロイターはここ数日、7つの激戦州で50人余りの有権者を取材した。彼らは自分の支持した候補が負けた場合にこの国がどうなるのか、あるいは対立陣営が問題を起こさないか、政治分断がさらに深まるのではないか、といった心配に押しつぶされそうになっている。
有権者の自己防衛手段は宗教、ヨガや水泳、ジムといった体を動かすことなどさまざまだ。ニュースを丹念にチェックする人もいれば、逆にテレビやスマートフォンからの情報を完全に遮断して読書や散歩に没頭する人もいる。
南部ジョージア州マリエッタの住民でハリス氏に投票したリン・ニコルソンさん(72)は「私のスマホがもう投票を終えたと理解できるほど賢ければ良かった。流れてくる政治広告の量は圧倒的だ」と嘆き、そこから逃れようと散歩やガーデニング、写真の撮影などに時間を費やしている。
害虫駆除で生計を立て、トランプ氏支持に傾いている同州カントンのトッド・ハリソンさん(49)は、スポーツのテレビ観戦をやめた。政治広告が溢れかえっているためで「選挙が近づくほど頭がおかしくなってくる」と明かした。
<投票日後の混乱懸念>
多くの有権者は選挙後、特にトランプ氏が敗北した場合に起こり得る事態への懸念を口にする。恐れられているのは、訴訟が乱発されて多くの裁判が開かれたり、デモや暴力が発生したりするケースだ。
トランプ氏は、民主党が勝つ手段は不正しかないと主張。ハリス氏は、トランプ氏が拙速に勝利宣言すれば異議を申し立てる用意があると表明している。
中西部ミシガン州デトロイトのハリス氏支持者、シェリー・ゲイダグノゴさん(57)は、トランプ氏の扇動的な物言いが何を引き起こすのか不安だと吐露した上で「トランプ氏は暴力の火種にあらかじめ点火しようとしているようなもので、恐ろしい」と述べた。
逆に南部ノースカロライナ州ヘンダーソンビルの元教師で商店主、トランプ氏支持のリリアン・ホールさん(68)は、ハリス氏が敗れた際の暴動がこわいと話す。「トランプ氏が勝てば、今まで見たことがないような怒りが噴出すると思う」という。
10月16-21日に行ったロイター/イプソス調査によると、20年の選挙後にトランプ氏が不正を言い立て、支持者らによる連邦議会議事堂の襲撃につながったような不穏な事態が再燃しかねないとの見方が有権者の間で広く共有されていることが分かった。
過激主義者たちが選挙結果に不満を感じれば暴力に訴えるのではないかとの不安を感じている人の割合は全体で74%、民主党員は90%、共和党員は64%、無党派層は77%だった。
今回取材した有権者の中には、応援する候補の選挙運動に加わることで不安を払しょくしようとする数少ない人もいた。
ハリス氏への投票を呼びかける郵便はがきを熱心に投函してきた西部アリゾナ州タスカンの住民、シャーリー・イーストンさん(85)は、22年に連邦最高裁が人工妊娠中絶の合憲判決を覆す判断を示した後、7人の孫娘たちの将来が心配になったと話した。
マーケティング専門家のリサ・フィールズさん(60)は2日、自宅があるニューヨークのマンハッタンからトランプ氏を応援するため重要選挙区とされるフィラデルフィア郊外のデラウェア郡まで戸別訪問に赴いた。
フィールズさんは、トランプ氏が中東に和平をもたらすと期待し、どちらが勝っても米国がより団結することを望む。「より大きな善のために私たちはまとまる必要がある。私は対立候補に投票した人の意見に賛成しないが、彼らも投票する資格があり、それが米国の美点である以上、投票日後には団結を重視する」と語った。
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