アングル:米で新型コロナの迅速検査キット不足、企業需要高まり費用も増大
ロイター / 2021年10月7日 7時29分
10月5日、米国ではここ数週間、新型コロナウイルスの迅速抗原検査キット不足が深刻化している。企業経営者からの需要が急増しているためで、各州や自治体の検査運営費用も増大しつつある。写真は9月、マンハッタンの移動検査施設で撮影(2021年 ロイター/Shannon Stapleton)
[5日 ロイター] - 米国ではここ数週間、新型コロナウイルスの迅速抗原検査キット不足が深刻化している。企業経営者からの需要が急増しているためで、各州や自治体の検査運営費用も増大しつつある。業界幹部や州の当局者を取材して分かった。
迅速抗原検査キットは数分で結果が分かり、新型コロナウイルスの監視プログラムにとって不可欠な存在。アボット・ラボラトリーズやクイデル・コーポレーション、ルミラ・ダイアグノスティクス(DX)といった同検査キットメーカーは需要に対応するための増産に乗り出している。ただ生産数が大幅に拡大するのは数週間から数カ月先で、当面は入手がより困難になる、と複数の業界幹部はロイターに語った。
クイデルのブライアント最高経営責任者(CEO)は「雇用主からの引き合いは常軌を逸するほどだ。全ての要求にはとても応じられない」と話す。
10以上の州政府も、迅速抗原検査キットの不足問題と格闘中だと訴えた。ミズーリ州の保健当局の広報担当者は、アボットが単価約5ドルで販売している「バイナックスナウ(Binax Now)」の供給が限られているので、より高額の別製品購入を検討せざるを得なくなったと説明。「われわれは他の迅速抗原検査キットを考えており、その大半は少なくともアボットの3倍の値段になっている」と述べた。まだ実際にそうした製品を買う段階には至っていないという。
一方、オクラホマ州のデレマー緊急準備対応サービス局長は、最近数週間の迅速抗原検査キット購入において割高な出費を強いられ始めたと打ち明けた。
各州は、感染力の強いデルタ株によって新規感染者が急増した数カ月前から、十分な数の迅速抗原検査キットを手に入れるのが難しくなっている。さらにホワイトハウスが9月、100人超を雇用している事業所に対してワクチン未接種の従業員に毎週検査を義務付ける方針を発表すると、経営者が迅速抗原検査キットの在庫確保を急ぐ事態になった。
サンフランシスコでプラスチックバッグを製造し、250人が働くエメラルド・パッケージングは、連邦政府による検査実施ルールの順守コストを「重荷」と受け止め、従業員にワクチン接種を促している。ケリーCEOは、このルールが発効すれば従業員にワクチン接種を義務付けるかもしれないと述べ、同社として既に従業員への検査におよそ5万ドルを支出しており、毎週実施なら費用がもっと増えてしまうと懸念を示した。
今月中と見込まれる同ルール発効を前に、クイデルには迅速抗原検査キットの在庫積み増しを目指す経営者からの購入希望が殺到。ただブライアントCEOは、その半分以上を断る必要が出てきているだけでなく、一部外国政府向けの出荷も来年まで延期することを余儀なくされたと語った。クイデルはカナダなど複数の国との間で輸出契約を結んでいる。
<争奪戦と価格つり上げ>
米国の迅速抗原検査キットメーカーは毎月、5000万個強を生産している。それでもエバーコアISIのアナリスト、ビジャイ・クマール氏の試算では、学校や職場で定期的な検査を行うにはまだ足りない。
英大手メーカーの一角を占めるモロジックによると、迅速抗原検査キットは最低2ドルで生産できる。しかし米国では、医療機関や州政府、経営者らの争奪戦が発生しているため、価格がずっと押し上げられている。例えばサウスカロライナ州の広報担当者は、同州では一部製品の単価が130ドルにまで跳ね上がったと語った。
こうした状況は英国や欧州とは対照的。ドイツでは政府が大口購入した結果、各世帯が1ドル未満の費用で迅速抗原検査キットを入手できるし、深刻な品不足も起きていない。
アボットとクイデルは顧客向け販売価格を引き上げるつもりはないと表明しているものの、小売業者や検査サービス企業が仕入れた製品を大幅に高い価格で売っているケースがしばしば見られる。
薬局チェーンのウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンスとCVSヘルスの各店舗では、アボットのバイナックスナウが12ドルで販売されている。スーパーのウォルマートやクローガー、ネット通販のアマゾン・ドット・コムは一時仕入れ原価の5ドルに引き下げたが、その後の販売価格は8ドル近くだ。
連邦政府が主に学校での検査実施向けに用意した100億ドルの補助金を利用してきた各州だが、そうした補助金もミズーリ州など一部の州では使い切りつつある。一方経営者や消費者は、迅速抗原検査キット購入費用を自ら負担しなければならない。
<増産努力>
アボットは増産に向けた取り組みの一環として、今年序盤に閉鎖したイリノイ州の工場を再稼働させ、月末までにバイナックスナウを毎月5000万個生産する態勢を目指す。事情に詳しい関係者がロイターに語った。
クイデルは新工場を建設し、月間生産量を現在の2000万個前後から最大7000万個に拡大する意向だ。もっともブライアント氏によると、新工場の稼働は年末以降になる見通し。ルミラDXも年内に生産量の倍増を計画している。
4日には米規制当局が、ACONラボラトリーズによる迅速抗原検査キットの生産を承認しており、同社は年内に最大で毎月1億個をつくる方針。
しかし、企業経営者向け検査プログラム運営サービスを提供するギンコ・バイオワークス幹部のマシュー・マクナイト氏は「迅速抗原検査キットの分野では供給網のひっ迫が存在するのは間違いない。生産が追いつくまでには数カ月かかるだろう」とくぎを刺した。
(Carl O'Donnell記者)
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