焦点:中国ゼロコロナ転換、揺れた習氏と早期解除目指した李強氏
ロイター / 2023年3月7日 7時57分
昨年11月、中国では新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込める「ゼロコロナ」政策に対し、前例のない抗議活動が広がった。写真は政治局常務委員の李強氏。北京で2022年10月撮影(2023年 ロイター/Tingshu Wang)
[香港/北京/上海 3日 ロイター] - 昨年11月、中国では新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込める「ゼロコロナ」政策に対し、前例のない抗議活動が広がった。中国共産党の序列2位にのし上がっていた政治局常務委員の李強氏は、このタイミングを逃さなかった。
政府高官と医療専門家らはその数週間前から、ひそかにゼロコロナ政策の解除計画を策定していた。2023年3月に通常の状態に回帰すると宣言することを目指し、22年末に向けて徐々に規制を解除していくという内容だった。事情に詳しい関係者4人がロイターに明かした。
しかし、23年3月に首相に就任する李氏は、解除はもっと急を要すると考えていた。
李氏はゼロコロナ政策による経済への影響と抗議活動に対処するため、突如として解除を早める決断を下す。この結果、12月にはロックダウン(都市封鎖)や大規模検査などが突然解除され、中国経済は大混乱の中で再開することになった。
ロイターは、再開の過程に詳しい6人以上の関係筋に取材。再開ペースを巡る習近平国家主席と李氏との意見の相違など、これまで報じられてこなかった詳細が明らかになった。
関係筋2人によると、転機は11月の抗議活動だった。習氏は締め付けを緩め始め、長年の腹心である李氏にゼロコロナ解除を任せた。
指導部が最終的に早急な解除を選んだのは、抗議活動が体制の安定を揺るがすことによる脅威の方が、ウイルスの野放図な拡大よりも、政治的にリスクが高いと判断したからだったと2人の関係筋は述べた。
<複数のロードマップ>
昨年10月半ばに開かれた中国共産党大会で、前代未聞の3期目入りを確保した習氏は、ゼロコロナ政策を自画自賛した。だが、10月が終わらないうちに、幹部らは北京に集まって制限緩和の方法を検討し始めていた。
3人の関係筋によると、2020年初頭から共産党・新型コロナ対策チームの副チーム長を務めてきた王滬寧・政治局常務委員は10月末、トップの医療専門家らや高官らと密室会議を開いた。
2人の関係筋によると、王氏は参加者らに、ゼロコロナ政策を終了させた場合、最悪のケースで何人の死者が出るかと繰り返し質問。制限措置解除ペースの異なる複数のロードマップを策定するよう求めた。王氏はロイターのコメント要請に答えなかった。
国家衛生健康委員会の幹部らは、経済を全面的に再開する際の指針を示し、高齢者のワクチン接種率を引き上げることが鍵を握ると指摘した。
一方、地方レベルの共産党幹部らは、ゼロコロナ政策を実施し続けるのが困難になっていた。
住民10万人を超える北京のある区画の指導者は、ロイターの取材に対し、昨年後半に入るころには検査会社や制限措置を執行する警備会社に支払う資金が底を突いていたと明かした。
「私から見れば、われわれ地方レベルではゼロコロナ政策を解除し始めたというよりも、単純にもうゼロコロナ政策を執行できなくなっていた、という方が実態に近い」と述べた。
<感染者数をごまかす>
幹部らが経済再開の計画を練っていたころ、ウイルスは既に政府の制御能力を超える勢いで広がっていた。
大都市の1つで勤務する中国疾病予防コントロールセンター(CDC)の幹部は、秋に感染者が急増したため、感染データの照合にあたるスタッフから「数字が多過ぎないか」、「市民にはもっと低い数字を発表するべきか」という問い合わせを常に受けていたと明かした。感染が制御されているように見せかけるためだ。
「その当時、私は数字を最大50%削っていた」と幹部は言い、地方当局の資金は尽きており、一部のCDC幹部は昨年給料を引き下げられたと付け加えた。
CDCはコメント要請に答えなかった。
<李氏の昇進>
経済再開が検討された時期は、李氏の昇進時期と重なった。李氏はそれまで上海市共産党委員会書記として、2カ月間にわたる厳しいロックダウンを実施していた。
共産党大会後、李氏は新型コロナ対策チームのトップとして感染対策の指揮を執ったと、2人の関係筋は明かした。11月11日、中国は20項目の制限緩和措置を発表する。
習氏自身、国内外でマスク無しで公の場に現れるなど、感染防止策を緩め始めた。
しかし、緩和措置の実施後に感染者数が増え始めると、習氏の気持ちは揺らぎ、ゼロコロナ政策への回帰を望むようになったと、3人の関係筋は語った。
11月半ば、習氏は訪問先の東南アジアから国内当局者らに、ゼロコロナ政策を決然と実行するよう命令。その後、一部の都市は再び制限を強めた。
習氏の心が揺れたため、指導部では11月半ばから月末にかけて再びコロナ対策についての議論が活発化した。そのころには、経済成長率が約半世紀で最悪の水準に悪化する兆しが強まっていた。
習氏が11月19日に帰国した後の協議で、李氏は再開ペースを緩めるよう迫る習氏に抵抗したと、2日との関係筋2人は話した。ロイターは、これに習氏がどう反応したかを確認できなかった。
その2人の関係筋によると、感染拡大が続く中、李氏は地方の党幹部らに対し、20項目の緩和措置を維持するよう促した。
<転機>
そのころ、中国では数百万人が、カタールで開催されたサッカーのワールドカップを観戦していた。中国国内の状況とは対照的に、マスク無しの観客で埋め尽くされたスタジアムの映像を見て、中国のソーシャルメディアには不満の声があふれた。
経済再開を加速させた最後の一押しとなったのは、11月末に新疆ウイグル自治区で起こった火災だ。コロナ関連の規制で救助が遅れたとしてゼロコロナ政策への抗議活動が広がり、習氏が政権に就いて以来、最大規模の反乱に発展した。
習氏は、パンデミックで不満を募らせた若者の抗議だと指摘した。だが、欧州連合(EU)のミシェル欧州理事会議長らと12月1日に会談した際に、習氏は中国において致死率の高いデルタ株ではなくオミクロン株が主流になっているため、制限解除の道が開けたと述べたという。EU高官らがロイターに明かした。
12月7日、中国はついに新型コロナ対策の大転換を発表し、突如として厳しい制限措置を終了した。当初は大規模検査を維持する計画だったが、李氏が大規模検査も回避する大幅緩和を通すことに成功したと、2人の関係筋は語った。
経済再開の直後からウイルスは猛威を振るい、病院や火葬場、薬局が対処し切れないほどになった。しかし、李氏はひるまず、12月25日の全国電話会議で幹部らに、高齢者や子どもなど主要グループの医療などに速やかに対処するよう促した。
新華社によると、習氏は今年2月16日、幹部らとの会議で新型コロナに対する「決定的な勝利」を宣言。共産党の判断と決断は「完全に正しく」、有効で、国民に歓迎されたと胸を張った。
(Julie Zhu記者、 Yew Lun Tian記者、 Engen Tham記者)
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