アングル:日本のM&A市場活況、低迷する主要国で唯一プラス
ロイター / 2023年10月6日 16時21分
Makiko Yamazaki Kane Wu
[東京/香港 6日 ロイター] - 世界的に企業の合併・買収(M&A)が落ち込む中、日本市場の活況が際立っている。原材料高などで経営コストが上昇するとともに、企業価値の向上を求める株主からの圧力拡大、企業統治の厳格化を求める流れを受け、非上場化や競合他社との合併といった戦略的選択肢を模索する企業が増えていることが背景にある。
ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のデータによると、日本企業が関与するM&A取引総額は、2023年1―9月期で前年同期比14%増の約1110億ドル。世界市場は27%減少したが、日本は主要市場の中で唯一増加した。
今後も子会社や事業の売却のほか、経営陣主導の非上場化がさらに増えるとの見通しから、世界のプライベート・エクイティ大手が注目しており、この勢いは当面続くと予想されている。
ベインキャピタルのアジア地域マネージング・パートナー、デイビッド・グロスロー氏は「日本の株式市場が好調で、創業者や大株主による株式の売却を後押しする要因となっている」と話す。10億ドル規模の非公開化案件も含め、「今後6─12カ月の間に、数十億ドル相当の投資案件がパイプラインにある」と同氏は語る。
<魅力的な資金調達環境>
LSEGのデータによると、1―9月期は東芝やJSRの非公開化を含む国内案件が67%増加し、日本のM&A市場を活気づかせる原動力となった。成長機会を求めて海外企業を買う案件が中心だったこれまでの傾向に変化がみられる。
業界関係者によると、収益性の向上を求める「物言う株主(アクティビスト)」に加え、東京証券取引所が資本効率向上の計画を開示するよう異例の要請をしたことで、上場企業に対する圧力がかつてないほど高まっているという。 コンサルティング会社、ベイン・アンド・カンパニーのパートナー、ジム・ヴェルべーテン氏は「もし自分の会社のPBR(株価純資産倍率)に問題があったら、アクティビストが現れる前に何をすべきかを自発的に考え始める可能性が高い」と話す。
野村証券経営役の角田慎介氏は、コスト高による利益率圧迫など経営環境が厳しくなり、競合他社との合併などの思い切った選択肢を企業が検討するようになっていると指摘する。「賃金上昇や原材料・燃料価格の高騰に直面し、これまで先延ばしにしてきた不振国内事業の再編に手を付け始めている」と同氏は話す。
さらに円安や低金利も日本で案件を進めるのに大きな追い風となっていると、ベインキャピタルのグロスロー氏は指摘する。
投資銀行やファンド関係者らによると、KKR傘下の自動車部品会社、マレリ・ホールディングス(さいたま市)が昨年、巨額の債権放棄を要求して以来、国内銀行からの融資条件が厳しくなった。長らく続いてきた超低金利が終わりに近づいるとの見方も強まっている。それでも他の市場に比べれば、日本は依然として魅力的な条件で融資を得られるという。
<変わる日本市場>
日本のM&A市場に、長期的な変化の兆しも見え始めた。同意なき買収に対する抵抗感と、合併後の人員削減の難しさという、長年にわたって日本のM&Aを妨げてきた2つの障壁が薄れつつあり、さらなる活性化につながる可能性があると、業界関係者らはみている。
経済産業省は8月、同意なき買収に対する偏見を取り除き、望ましい企業買収を促進することを目的とした「企業買収における行動指針」を公表。この指針の原案を元に、電動モーター世界最大手のニデックがいち早く工作機械のTAKISAWAに対して同意なき買収提案をした。
CLSAの日本ストラテジスト、ニコラス・スミス氏は、顧客向けのリポートの中で、労働市場の逼迫がM&Aを活性化させる要因になると指摘。かつては、統合後に重複する従業員数を削減することが日本では難しく、M&Aによる効果を享受しにくかったが、「労働力不足が深刻化する中、企業が労働力の貯蔵庫としてとらえられつつあり、M&Aが急増すると予想される」としている。
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