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焦点:政権浮揚かけた減税、立ちはだかる生活防衛意識 消費効果読めず

ロイター / 2024年6月6日 13時41分

「夏は暑ければ暑いほど消費が伸びる。今年は猛暑予想。旅行やレジャーなどの娯楽系、エアコン、ビール、アイスクリームなどの商品も期待できる」ーー33年ぶり高水準となった春闘の賃上げと6月から始まる定額減税の効果を巡り、ある政府関係者はこう話す。写真は2020年8月、都内で撮影(2024年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Kentaro Sugiyama

[東京 6日 ロイター] - 「夏は暑ければ暑いほど消費が伸びる。今年は猛暑予想。旅行やレジャーなどの娯楽系、エアコン、ビール、アイスクリームなどの商品も期待できる」ーー33年ぶり高水準となった春闘の賃上げと6月から始まる定額減税の効果を巡り、ある政府関係者はこう話す。

首相周辺の一人も、消費行動の変化は6月から始まり7月以降により強く出ると当て込む。実質賃金のプラス転化が今年10─12月期になると予想する民間エコノミストも多い中、定額減税がつなぎ役として「これほど良いタイミングになるとは思わなかった」と意義を強調する。

政治資金問題などで支持率の低迷が続く岸田文雄内閣。政府内では、政権浮揚に向けた突破口として個人消費の盛り返しと経済の好循環への期待感が膨らむ。

一方、生活者からは円安による物価高や将来不安といった厳しい現実を前に、防衛的な消費行動をとらざるを得ないとの声が聞かれ、エコノミストの間でも政府の目論見通り進むか慎重な見方がある。これらの帰趨は金融政策の正常化を模索する日銀の追加利上げのタイミングにも影響を与える可能性もある。

<最後のチャンス>

政府は定額減税の狙いとして、家計の可処分所得を下支えし、物価上昇を上回る所得の増加を確実に実現していくことを挙げる。所得税を1人あたり年3万円、住民税を同1万円減額。減額する金額は扶養家族の数に応じて増え、減税の対象とならない低所得世帯には現金を別途給付する。

春闘の結果の反映が徐々に進み、多くの民間企業が夏のボーナスを支給するタイミングで減税が実施されることから、まとまった大きさの可処分所得の増加が見込まれる。首相官邸のホームページでは、配偶者が専業主婦で大学生と高校生の子どもがいる会社員の場合、合計16万円の定額減税が受けられるとアピールする。

一方、今年は毎月の電気料金に上乗せされる「再生可能エネルギー発電促進賦課金」の単価引き上げと電気・ガス代の負担軽減策打ち切りが年間3万2000円程度の家計負担増となる。加えて、円安による輸入物価上昇で食料品や生活関連用品などが値上がりする可能性もある。

冒頭の政府関係者は「減税でエネルギーの負担増加分は十分カバーされる」と指摘。効果についても、消費に向かうのは2─3割程度とされる民間の予測について、「減税分の2─3割ということはない」との見方を示す。

首相周辺の別の関係者は「再びデフレに戻ったら、もう現在のステージには戻れない。デフレ完全脱却に向け、今回とにかく政府はできることは何でもやる」と強調すると同時に、日本経済のステージ転換には国民全体の意識が前向きになることが重要だと訴える。

<「あぶく銭」効果は薄いか>

政府の思惑とは裏腹に、多くの生活者にとって定額減税は消費の下支えになり得るものの、回復の足取りを強める「起爆剤」とまではいかない、との指摘がある。

小6、小4を育てている千葉県柏市の非常勤講師、滝沢和香奈さん(40代)も生活防衛に走る一人だ。「あらゆる物価や光熱費の細かな上昇がじわじわとボディーブローのように家計に響いている」。

滝沢さんは生活を見直さなくてはならないと考え、先日保険を見直し、数件を解約した。「今後の子育てや、自分達の老後にいくらかかるかが見えず、生活に余裕を感じないので定額減税されても支出が増えることはない」と言い切る。

茨城県つくば市の会社員で3児の母の矢治美由紀さん(40代)は「一番の心配事は教育費。多子家庭の大学無償化も導入されるが、将来の教育費負担が今後も減っていくという期待が持てれば、今、子どもたちと旅行に行ったり、私自身の買い物や趣味などでもお金を使ったりできるのに」と話す。

大和証券のチーフエコノミスト、末広徹氏は「思いがけず得たお金、いわゆる『あぶく銭』は貯蓄に回らずに消費されやすいとされるが、多くの人々は将来にわたって使えるお金、『恒常所得』で消費するかどうかを決める」と指摘。減税によって単発での受け取りは増えるものの、将来不安を乗り越えて消費に回ることはあまり期待できない、とみている。

<消費者マインド悪化を注視>

日銀内部では、消費関連指標は弱く、基調的な物価上昇率を一段と押し上げるほどの経済の強さはないとの声が出ている。ただ、定額減税の実施や賃上げの波及により、消費の大崩れには至らず、底堅さを維持するとの見方が根強い。

内閣府の5月消費動向調査によると、消費者態度指数(2人以上の世帯、季節調整値)は前月から2.1ポイント低下し36.2となり、2カ月連続で悪化。内閣府は消費者マインドの基調判断を、前月の「改善している」から「改善に足踏みがみられる」に下方修正した。

日銀ではこうした消費者マインドの悪化が先行きの消費悪化につながらないか、注視する必要があるとの声が聞かれる。

みずほリサーチ&テクノロジーズの首席エコノミスト、河田晧史氏は「定額減税による目に見える効果が統計上に出てくるかと言えばそうではない」としつつ、自動車生産の停止という特殊要因がはく落した4─6月期は5四半期ぶりに個人消費がプラスになるとみており、日銀は世の中の「空気」を読みながら9月か10月にも追加利上げを判断する可能性があると予想している。

金融市場では、日銀の利上げ経路についてコンセンサスは得られていない。ロイターがエコノミストを対象に実施した調査(期間は5月16―22日)では、政策金利の引き上げについて、10月会合と予想する声が約4割、7月会合が約3割と見方が割れている。

(杉山健太郎 取材協力:和田崇彦 編集:橋本浩)

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