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焦点:フェイクニュース駆使するロシア、ウクライナ侵攻で住民にデマ拡散

ロイター / 2024年8月6日 16時54分

4月初め、ウクライナ北東部ハリコフの一部の住民のもとに、政府当局者から一連のテキストメッセージが届いた。ロシア軍がハリコフを包囲する前に街を脱出しろという恐ろしい内容だ。「これはフェイクだ」──ボロディミル・ティモシュコ氏は即座に見抜いた。写真は5月、ロシア軍の空爆を受けたハリコフの現場に立つ住民(2024年 ロイター/Valentyn Ogirenko)

Max Hunder

[ハリコフ(ウクライナ) 31日 ロイター] - 4月初め、ウクライナ北東部ハリコフの一部の住民のもとに、政府当局者から一連のテキストメッセージが届いた。ロシア軍がハリコフを包囲する前に街を脱出しろという恐ろしい内容だ。

ある警告には「敵軍による包囲の懸念があるため、ハリコフ市民に対し、4月22日までに市内を離れるよう勧告する」と書かれ、ウクライナ国家緊急事態管理庁のロゴが入り、分かりやすい案内図で安全な脱出経路が示されていた。

「これはフェイクだ」──ボロディミル・ティモシュコ氏(50)は即座に見抜いた。ティモシュコ氏はハリコフ州の警察署長で、公式の避難計画があれば最初に連絡を受けるはずの1人だった。

ティモシュコ氏はロイターの取材に対し、偽警告メッセージのスクリーンショットを示しながら、「こうした通知が住民のもとに大量に届くようになった」と語る。30キロメートル離れた国境では、ロシア軍が集結しつつあった。

「パニックを引き起こそうという心理作戦だ。こうしたメッセージを受け取ったら、一般市民はどう思うだろうか」

スマートフォンやソーシャルメディアの誕生以来で最大の紛争となったウクライナ侵攻では、デジタル技術の力を背景に、デマやプロパガンダがこれまで以上に強化されている。

ティモシュコ氏自身、4月から5月初めにかけてSMSやメッセージアプリ「テレグラム」経由で似たようなメッセージを10回ほど受信したという。その後、5月10日にはロシアがウクライナ北東部への攻勢を開始し、紛争の新たな局面が始まった。

ウクライナの治安当局者の1人は、機密事項であるという理由で匿名を希望しつつ、ロシアが長距離偵察用ドローン「オルラン10」に装着した機器から大量のテキストメッセージを頻繁に送った、と明らかにした。オルラン10は数十キロの範囲でウクライナ領空に侵入することが可能だ。

この当局者の説明によれば、ドローンに装着されている機器は「レール3」と呼ばれるシステムで、携帯電話の基地局を模倣し、基地局を探している携帯電話が自動的に接続されてしまうという。

ロシア軍がハリコフに進撃する中で、携帯電話へのメッセージ大量送信だけでなくソーシャルメディア上の攻撃も見られたと語るのは、ウクライナ国家安全保障委員会傘下の虚偽情報対策センター(CCD)のアンドリイ・コバレンコ所長。

CCDがまとめたデータによれば、ウクライナ当局が紛争に関する偽情報だと指定したソーシャルメディア投稿は、3月には1日当たり200件だったが、5月のハリコフへの攻勢強化にあわせて同2500件以上へと急増した。

コバレンコ氏は、ウクライナの情報機関は、こうした偽情報作戦実行の主役はロシアの治安当局である連邦保安局(FSB)とロシア軍参謀本部情報総局(GRU)だと分析しているとロイターに語った。

こうしたウクライナ側の主張についてロシア外務省とFSBにコメントを求めたが、回答は得られなかった。またロイターではGRUに連絡を取れなかった。

ロシア政府は、ウクライナと西側諸国はロシアに対する手の込んだ情報戦を展開しており、西側大手メディアや広報・テクノロジー関連資産を駆使して、ロシア及びウクライナ侵攻に関する虚偽の、また偏った情報をばらまいていると非難している。

ウクライナの治安当局者は、ウクライナ側もロシア国民の厭戦感情を高める狙いでオンラインでの作戦を利用したことを認めつつ、こうした働きかけは、紛争に関する正確な情報を広めようとする「戦略的コミュニケーション」だと位置づけている。

<ボットとマイクロターゲティング>

ロイターは、ウクライナ当局者のほか、デマ追跡の専門家やセキュリティーアナリストなど、戦場での作戦と並行して進められている情報と偽情報の戦いに詳しい9人に話を聞いた。

匿名を希望しているウクライナ治安当局者は、2022年のロシアによる全面侵攻の開始以来、複数の情報機関が、ウクライナ国内に設けられた86カ所のロシア系「ボット・ファーム」を閉鎖したと語る。こうした「ファーム」は、ソーシャルメディア上で合計300万ものアカウントを操り、推定1200万人に向けて情報を発信していた。

この当局者の説明によれば、こうした施設の部屋には専用のコンピューター機器が積み上げられ、ソーシャルメディア上に1日数百もの偽アカウントを登録し、偽情報を発信していたという。例として、治安当局が昨年ウクライナ中部のビンニツァ市で発見した「ファーム」を挙げた。

前出のコバレンコ氏は、現時点でロシアによるオンラインでの偽情報の発信源として最も大きいのが、ウクライナ国内では「TikTok(ティックトック)」、欧州ではテレグラムだと話す。どちらもウクライナ国内で幅広く利用されている。

コバレンコ氏によれば、今年に入り、ティックトックは、ウクライナがロシア系の偽情報を拡散していると認定した30─90ほどのアカウントを閉鎖したという。だが、いくら退治してもすぐに代わりのアカウントが登場することも多いという。

ティックトックはロイターに対し、虚偽または誤解を招くコンテンツは利用ガイドラインで禁止されており、ロシアから操られていた虚偽宣伝ネットワークをここ数年で13件閉鎖したと説明した。

こうした偽情報拡散ネットワークは、同じ主体が操作する一群のアカウントで、同じストーリーを示し合わせて発信するために利用されている。

テレグラムは、投稿に対して検証済みの情報を付加するツールを開発中だと明らかにした。

ハリコフのイホル・テレコフ市長はロイターの取材に対し、ロシア側はパニックと不信の種をまこうとしていると述べ、「ロシア軍が来たときに市長が迅速に避難できるよう、キーウに向かう幹線道路が再舗装された」と主張するソーシャルメディア投稿の例を紹介した。市長はその内容は真実ではないと言う。

テレコフ市長は5月末に行われたインタビューで、「(ロシアは)住民を脅えさせ、不安を感じて街を離れるように仕向けている」と語った。

その頃、ウクライナ北東部における前線はハリコフ市の境界から約20キロの地点で膠着(こうちゃく)していた。ロシア軍の攻勢は当初は北に向けて支配地域を広げていたが、その後、ウクライナ軍の増強により勢いが鈍った。

ハリコフを拠点とし、ロシア側が流すデマを重点的に調査しているセキュリティーアナリストのマリア・アブディーバ氏はロイターに対し、4月初めにフェイスブックに投稿された案内図を示した。三つ又の矛をあしらったウクライナの国章が付されている。ティモシュコ警察署長が、テレグラムのダイレクトメッセージで別の避難マップが送られてきたのとほぼ同じ時期だ。

数キロ先で滑空爆弾の大きな爆発音が響く中で、アブディーバ氏は平然として案内図の説明をしてくれた。地図と説明文には、虚偽の道路封鎖情報や、市周辺の特定の地域に近くミサイルが着弾するという内容が含まれていた。

ターゲット広告とほぼ同様に、利用者のオンラインデータを分析し、特定の個人や視聴者に合わせたメッセージを送りつける手法が「マイクロターゲティング」だ。コバレンコ氏によれば、そのせいでデマ作戦を追跡し虚偽のストーリーに対抗するというCCDの任務は難しくなっているという。

米サイバーセキュリティー企業マンディアントのチーフアナリスト、ジョン・ハルトクイスト氏は、ウクライナにおけるロシア側のデマ作戦に触れ、「こうした活動は驚くほど非常に戦術的だ」と語る。

「塹壕に潜むウクライナ軍の兵士まで、マイクロターゲティングの対象になっている」

<空爆でテレビ塔は破壊>

ウクライナはデジタルメディアを介した偽情報に対して特に脆弱(ぜいじゃく)になっている。USエイドが2023年に委託した調査によれば、人口の4分の3以上がソーシャルメディア経由でニュースに接しており、他の情報源に対して群を抜いて高い比率だ。

ハリコフへの攻撃に伴い偽情報流布の活動は急増したが、取材に応じた人々によれば、侵攻開始以来、これに似たロシア側の作戦は繰り返されているという。

CCD所長のコバレンコ氏が強調するのは、2023年10月のロシア側の作戦だ。ウクライナは厳しい冬を迎え敗北間近である、という考えを浸透させるのが狙いだった。

偽情報を追跡調査するウクライナ企業オサバルはロイターの取材に対し、この「ブラック・ウィンター」と呼ばれる作戦に関するデータを示した。549アカウントから914件の投稿があり、合計で2500万回近く閲覧された。

とはいえ、コバレンコ氏によれば、ロシアの偽情報作戦がこれだけの規模と頻度で行われているせいで、ウクライナの人々は受信する情報の真偽に対して警戒心を強めており、偽情報の影響力には陰りが見られるという。

ロシアによる最初のハリコフ攻撃は2022年の侵攻開始のときで、今回よりもはるかに市域の近くまで迫った。複数の当局者と専門家によれば、その際にロシアが行った偽情報の発信はパニックとショックを呼び起こし、数十万人が市内から逃れたという。

だが今回は、CCDのデータによればハリコフを標的としたデマメッセージの量は2022年3月の2倍に達したにもかかわらず、ハリコフを離れた住民は少数だった。

ほぼ毎日のようにミサイルや爆弾が市内に着弾し、5月には攻勢が強化されたにもかかわらず、テレコフ市長によれば130万人がハリコフ市内にとどまっている。ロシアによる今回の軍事侵攻以前と比べてほぼ同じ水準だ。

比較的パニックが見られないのは、ウクライナ国民が攻撃下での生活にますます慣れてきているという事情の反映でもある。

ロイターは5月後半にハリコフ市民20人ほどに話を聞いた。毎日複数の爆弾やミサイルが市内に着弾していた時期だ。

取材に応じた住民の大半は、街を離れたいとは思わないと述べ、危険については「もう慣れた」と語った。ニュースに注目するのもやめたという人もいる。

ハリコフを拠点とする心理学者イリナ・マルケビッチ氏は、「人間には、危険に慣れてしまうという心理的なメカニズムがある」と指摘する。

5月末、ロイター記者は、滑空爆弾が空気を切り裂くヒューンという音を耳にして、地面に身を伏せた。だがベビーカーを押す母親たちは平然として公園内の散歩を続け、噴水で水浴びをしている人もいた。

ハリコフ中心部の公園で乳母車を押していたベビーシッターのユリア・オレシュコさん(55)は、戦争という悪夢をやり過ごす最善の方法は、日々の生活の維持にひたすら集中することだ、と語る。

「昨日思ったことだけれど、ハリコフを散歩するのは地雷原を歩き回るのと同じだ。でも、そういう怖い考えにとらわれないようにしている。そうしないとうつ状態になりかねない」とオレシュコさんは言う。

「あまり考えないようにしている。そうしないと生き残れない」

(翻訳:エァクレーレン)

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