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アングル:アサド政権崩壊のシリア、社会不安あおる偽情報が拡散

ロイター / 2025年2月6日 17時20分

昨年12月にアサド政権が崩壊したシリアでは、親アサド派や自称「反アサド派」が宗派間の対立をあおり、新生シリアの体制を不安定化させようとデジタル空間で偽情報をまき散らしており、政権移行にとって障害になるとの懸念が広がっている。写真は同国の都市ホムスで、イスラム教スンニ派の武装勢力「シリア解放機構(HTS)」によるアサド派残党狩りを見守る人々。1月2日撮影(2025年 ロイター/Khalil Ashawi)

Nazih Osseiran

[ベイルート 31日 トムソン・ロイター財団] - 昨年12月にアサド政権が崩壊したシリアでは、親アサド派や自称「反アサド派」が宗派間の対立をあおり、新生シリアの体制を不安定化させようとデジタル空間で偽情報をまき散らしており、政権移行にとって障害になるとの懸念が広がっている。

専門家によると、ロシア、中国、イラン、イスラエルなどを含めた国内外の勢力が偽情報の拡散や「ナラティブ(物語)の兵器化」に関与していると見られる。

NGO「真実と正義のためのシリア人(STJ)」のバッサム・アラハマド氏はトムソン・ロイター財団に「社会の結束に影響を与える重要な問題の1つが偽情報だ」と述べた。偽情報は「物事を不安定化させる手段」となり、シリア全土でコミュニティー間の緊張を引き起こしており、「兵器と同じくらい人々に害を及ぼしている」と危機感を示した。

イスラム教シーア派の少数派「アラウィ派」出身のアサド氏の政権は、イスラム教スンニ派の武装勢力「シリア解放機構(HTS)」が主導する反政府勢力に打倒された。HTSはかつて国際テロ組織のアルカイダと関係があり、米国や国連によってテロ組織に指定されている。

HTSは2016年にアルカイダとの関係を断ち、政権掌握後は宗教的少数派の保護を打ち出している。しかし宗派間の緊張は依然として強く、アサド氏を支持していたイランやロシアのほか、中国やイスラエルといった外国勢がオンラインで恐怖をあおっていると見られる。

独立系ファクトチェック機関「ベリファイ・シリア」の広報担当、ズヒール・アルシマレ氏は「親アサド派、イラン、中国などの勢力が巧妙に組織したキャンペーンを展開しており、デジタルプラットフォームを使いナラティブを操作してコミュニティを分断し、民主的な取り組みを弱体化させている」と話した。偽のプロフィール、チャットボット、人工知能(AI)生成の架空人物などを駆使したキャンペーンを通じて偽情報が流布しているという。

例えば広く拡散した動画の一つに北部アレッポのアラウィ派施設が炎上している様子を写したものがあり、動画公開された時期はアサド政権崩壊後で最も社会不安が高まっていた時期に一致していた。動画を視聴した多くの人々がアラウィ派は脅威にさらされていると受け止め、中部ホムス市ではアラウィ派やシーア派の少数派住民が主導したとされる抗議活動が発生し、アラウィ派の住民が多い沿岸地域でも同様の動きが起きた。

しかし内務省によると、この動画はHTSが首都ダマスカスを制圧する前に撮影されており、このタイミングで拡散されたのは宗派間の対立をたきつけるのが狙いだという。

ベリファイ・シリアのアルシマレ氏はこの動画を偽情報キャンペーンの成功例に挙げ、「偽情報のネットワークはなお活発で、拡大し続けている。今後も同様の手法を使い社会不安を引き起こそうとする可能性が高い」と警鐘を鳴らす。

<ワッツアップと中国の影響>

米シンクタンク、大西洋評議会・デジタルフォレンジック研究所のルスラン・トラッド氏は、親アサド派が国内で広く普及している対話アプリ「ワッツアップ」上で「情報戦」を展開していると指摘。「シリア発の未確認情報が依然として大規模なグループチャットやチャンネルで共有されており、それが無秩序な状況を作り出している」と見ている。

シリアを巡る偽情報はより広範な地政学的な戦いの一部でもある。ソーシャルメディア調査会社グラフィカのジャック・スタブズ最高情報責任者によると、中国と関連のあるオンラインアカウントはアサド政権崩壊を利用し、反米や反イスラエルの感情など中国にとって都合の良いナラティブを拡散しようとしている。「米国の民主主義」がシリアを破壊した、などという論法だ。

ただ、こうした工作はエコーチャンバー(自分と似たような考えや価値観などを持った人々が集まる閉鎖的なデジタル空間)を出て、幅広いユーザーから大きな関心を引くまでには至っていないという。

キングス・カレッジ・ロンドンのアンドレアス・クリーグ准教授は、アサド政権崩壊後のシリアでは特に少数宗派の間で怯えが広がっており、オンラインのキャンペーンはそれにつけ込んでいると指摘する。

偽情報自体は簡単に反証できるが、外部勢力が自らの主張を広めるため事実をゆがめる手法に危険がひそんでいると指摘。「重要なのは偽情報よりも『兵器化されたナラティブ』だ。外部勢力はシリアで新たな合意形成ができないよう恐怖をたきつけ、コミュニティを動かすことができる」 と述べた。イスラエル軍がゴラン高原(両国間の非武装地帯で、主にドゥルーズ派の少数派が居住)のシリア側に進軍した際にもこうした工作が行われたという。

シリアでは地元メディアが偏向していると受け止められていることも、ネットで偽情報が広まりやすい原因だ。STJのアラハマド氏は、政治的干渉や透明性の欠如が地元メディアの偽情報対策を妨げていると指摘。「地元メディアは真実を伝えず、プロパガンダを発信している」 と話し、真実を伝える独立系メディアが多数派になる必要があると訴えた。

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