アングル:イスラエル、戦費拡大で財政にひびも
ロイター / 2024年10月7日 14時39分
10月6日、イスラエルの経済は中東全域に拡大しかねないほどの戦争による混乱を、ほぼ1年間にわたり耐え抜いてきた。写真はエルサレムのイスラエル銀行前で2020年6月撮影(2024年 ロイター/Ronen Zvulun)
Libby George Karin Strohecker Steven Scheer
[ロンドン/エルサレム 6日 ロイター] - イスラエルの経済は中東全域に拡大しかねないほどの戦争による混乱を、ほぼ1年間にわたり耐え抜いてきた。しかし戦費調達の負担増大により、財政基盤にひびが生じ始めている。
イスラエルの財務省によると、ガザ戦争に伴う直接的な資金調達は8月までに1000億シェケル(約3兆8900億円)に達した。中銀は2025年末までに総額2500億シェケルに増えると見積もっているが、これはイスラエルが親イラン民兵組織ヒズボラと戦うためレバノンに侵攻する前の推計で、実際の費用はもっと大きくなる見通しだ。
財政負担の増大で信用格付けは引き下げられ、国債が債務不履行(デフォルト)した際の損失を保証する金融商品クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率は12年ぶりの水準に上昇した。財政赤字も膨らんでいる。
ユニオン・インベストメントのポートフォリオマネージャー、セルゲイ・デルガチェフ氏は「戦争が続く限り国債の指標は悪化し続けるだろう」と予測。「イスラエルの財政基盤は比較的良好だが、それでも財政面では痛みを伴う状態が続きそうだ。時が経つにつれて格付けへの圧力も増すだろう」と述べた。
イスラエルは昨年の債務の対国内総生産(GDP)比が62%だったが、借入需要は急増している。
イスラエル財務相は、経済は強固で、戦争が終結すれば信用格付けは回復するはずだと述べている。
イスラエルの高額の戦争関連コストは対空防衛システム「アイアンドーム」や大規模な兵力動員、集中的な爆撃作戦が要因だ。今年は債務の対GDP比が67%に上昇し、財政赤字の対GDPも当初予想の6.6%を大幅に上回る8.3%に達している。
イスラエル国債の主要な買い手である年金基金や大手資産運用会社は、比較的高い格付けに魅力を感じており、すぐに手放すことはないとみられているが、投資家層は狭まりつつある。投資家は水面下では、戦争に伴うESG(環境・社会・ガバナンス)面の懸念からイスラエル国債を売却もしくは購入しない方向に気持ちが傾きつつあると話している。
ノルウェーの政府系ファンドの広報担当によると、ノルウェー中銀は「市場の不確実性が増した」ため、イスラエル国債を一部売却した。
「こうした懸念がバリュエーションに反映しているのは明らかだ」と、BNPパリバの新興市場クレジット戦略グローバルヘッド、トラン・グエン氏は話す。イスラエル国債は同程度の格付けの他の国債よりもかなり広いスプレッドで取引されているという。
イスラエル財務省は借り入れコスト上昇や投資家のESGに関する懸念についての質問に対して、戦争開始以来、政府財政は「有効に管理されている」と指摘。「国内市場の需要は堅調で、海外投資家の間でもイスラエル国債離れは起きていない」と回答した。
イスラエル国内の債券市場は流動性が高く、急速に拡大しているが、外国人投資家の割合は低下している。中銀のデータによると、非居住者による保有割合は昨年9月の14.4%(約800億シェケル相当)から、今年7月には8.4%(555億シェケル)に低下。その間に国債の発行総額は20%余り増えた。
財務省の関係者は「実際のところ、イスラエルの機関投資家はこの数カ月に国債購入を増やしており、地政学的リスクや不確実性から一部の海外投資家がイスラエル国債を売却したのではないか」と危惧を示した。
株式投資家も投資を縮小している。調査会社コプリー・ファンド・リサーチのデータによると、2023年5月に開始された司法制度改革を巡る論争を背景に、海外投資家はイスラエルへの投資を縮小し始め、昨年10月7日のハマスによる奇襲後にこうした動きが加速した。現在、海外ファンドによるイスラエル株の保有率は過去10年で最低だ。
国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、イスラエルへの外国直接投資は2023年に前年比29%減少して16年以来で最低を記録した。
このため国内投資と政府支援の重要性は一層強まっている。政府は4月、国内経済の約20%を占めるハイテク部門へのベンチャーキャピタル投資をてこ入れするために1億6000万ドル(約238億円)の公的資金を投入すると約束した。
この他、ホテルに避難している数千人の市民の住居費用といったコストも生じている。兵力動員に伴い労働者が不足し、パレスチナ人労働者の入国拒否で農業や建設業も停滞している。
イスラエルはこれまでのところ資金調達に大きな支障が生じておらず、今年も海外資本市場で約80億ドルの国債を発行した。しかし借入コストの上昇や歳出の増加、経済的圧力などが迫りつつある。
ナインティワンのアナリスト、ロジャー・マーク氏は「イスラエルは国内の投資家層が厚く、赤字がもっと大きくなっても財政をなんとかやり繰りし続けることができそうだ。しかし国内投資家は政府から財政再建について少なくとも何らかのサインが示されることを望んでいる」と述べた。
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