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焦点:内部分断露呈の米ボーイング、スト終結も傷跡大きく

ロイター / 2024年11月7日 15時38分

  米航空機大手ボーイングは労働組合が11月4日に4年間で38%の賃上げを柱とする労働協約を僅差で承認し、7週間にわたるストライキがようやく終結した。写真は10月、ストライキ中のボーイング・シアトル工場に置かれた建造中の737MAX型機(2024年 ロイター/David Ryder)

Dan Catchpole Allison Lampert Tim Hepher Joe Brock

[シアトル 5日 ロイター] - 米航空機大手ボーイングは労働組合が4日に4年間で38%の賃上げを柱とする労働協約を僅差で承認し、7週間にわたるストライキがようやく終結した。しかしストの傷跡は大きく、就任3カ月のケリー・オルトバーグ最高経営責任者(CEO)は、内部に分断を抱えて士気が落ちた米国の代表的企業を建て直すという困難な課題と正面から向き合うことになる。

ボーイングの内情に詳しい現職幹部や元幹部、部品供給業者、労組幹部、工場の現場労働者など20人余りの取材から、今回のストを巡っては取締役会と技術者の間だけでなく、労組内部やホワイトカラーと現場労働者の間にも深い溝があることが明らかになった。

こうした亀裂は、航空機の生産回復、低迷する防衛・宇宙事業の再編、以前から続く安全問題や生産面の危機的状況、さらには新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で弱体化した供給網の立て直しなど差し迫った課題への対応を妨げかねないと関係者は指摘している。こうした懸案は、オルトバーグ氏にとって極めて重要な意味を持つ小型機「737MAX」の後継機開発を始める前からボーイングが抱えていたものだ。

オルトバーグ氏は4日夜に報道公開された社内メモで、課題は多いとの認識を示しつつ、「耳を傾け、協力して取り組むことでのみ前進できる」と強調した。

ボーイングの管理職、労組指導者、現場労働者によると、数週間にわたるスト交渉ではつまずきや見込み違いが続き、労働者や投資家、顧客の信頼を取り戻すのは容易ではないだろう。

経営陣は過去10年間にわたり賃金の上昇ペースが物価を下回ったことに対する従業員の怒りを過小に評価する一方、数百億ドル規模の自社株買いを進め、経営幹部に記録的な水準の賞与を支給していた。

労組は3回目の投票でようやく社提案の労働協約を承認したが、賛成票の比率は59%にとどまっており、新協約に不満を持つ何千人もの労働者が組立ラインに戻ることとなる。

「長年現場で働いてきた現場労働者は経営陣にいいように利用されていると感じていた。今、最も重要な問題は経営陣と現場労働者の分断だ」と、元メドトロニックCEOでハーバード・ビジネス・スクールのビル・ジョージ氏は指摘する。

事情に詳しい関係者2人は、ボーイングの経営陣はデビッド・カルフーン氏がCEOに在籍していた少なくとも1年前から国際機械工労働組合(IAM)によるストライキの可能性に備えていたが、それにもかかわらず従業員の不満の強さに意表を突かれたのは驚きだと振り返った。

<矛先はオルトバーグ氏に>

ストの初期段階では、地元IAM指導者のジョン・ホールデン氏と工場労働者は、トップに就いたばかりのオルトバーグ氏を責めることに消極的だった。オルトバーグ氏は現場労働者の支持を得ようとシアトルに住まいを移し、過去のトップより現場と密に協力する姿勢を示していた。

しかし数週間にわたる激しい交渉の間に、「交渉の場にほとんど姿を見せなかった」(ホールデン氏)などと批判を浴び、労働者たちの怒りの矛先が次第にオルトバーグ氏に向かうようになった。現場従業員からは「ボーイングの企業文化を変えると言っていたが、全く変えていない。これまでのCEOと何も違いはない」(塗装品質検査員)など、厳しい声が聞かれた。

IAMの地区幹部によると、オルトバーグ氏は先週には交渉の場に現れ、当初は賃上げについて従来と同じ内容を提示し、強硬な姿勢を示した。労組側がこれを拒否すると、オルトバーグ氏は賃上げ率を35%から4年間で38%に引き上げ、合意した場合の一時金を1万2000ドルに増額したが、その際にこの提案が拒否されれば「何か別のこと」を行うとほのめかした。

地区労組幹部は社の提案の賛否を問う投票の前に、3回目の提案を蹴れば条件が引き下げられる恐れがあると伝えた。だが、組合員の中にはこうした警告を発したことで労組指導部の信頼が損なわれたと感じる向きもあった。3回目の投票で反対票を投じた組合員は「最初からわれわれを押さえつけようとしていた」と不満を口にした。

現職社員や元社員は、ボーイング経営陣と現場労働者との険悪な関係が、社内の他の部署にも広がるリスクがあると指摘している。

一方、非組合員社員は組合員がストで見せた強硬な姿勢について、「はらわたがちぎれるようだ」と心情を吐露。「彼らはボーイングの未来を壊し、破綻に追いやろうとしているのだろうか」と述べた。

IAMによる労働協約合意は他の製造部門でも賃金改定要求の連鎖を引き起こし、労働組合の支持拡大への取り組みを再燃させる可能性があるとの指摘も聞かれる。

また、宇宙・防衛事業の赤字部門の一部売却を模索する中、社内の混乱によって重要な意思決定が遅れるリスクもあると、事情に詳しい2人の関係者が語った。

<さらなる資金調達が必要か>

ボーイングはIAMとの合意が成立する数日前に資金繰り改善のため240億ドルを調達した。しかし737シリーズの刷新といった長期的な対策にはさらなる取り組みが必要かもしれない。

「事実上、資金調達は事業継続目的で目いっぱいになっており、新たな航空機開発のための余裕がほとんど残っていない」と、エージェーンシー・パートナーズのアナリスト、ニック・カニンガム氏は指摘。中期的な課題は、新型ジェット機開発の資金を生み出すか、調達する余裕を確保することだが、「短期的には工場の効率と安全性を向上させることが課題だ」という。

一方で経営のためのキャッシュを早急に回復する必要があり、それには稼ぎ頭である737MAXの生産拡大が不可欠だ。

消息筋によると、ボーイングはこの1年間にわたり問題が続発していることから、投資家や規制当局などの信頼を揺るがしかねないミスを避けるために慎重に動くつもりだという。

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