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アングル:大気中のCO2回収、気候変動防ぐ切り札になるか

ロイター / 2021年2月9日 7時54分

 2月4日、アイスランド南西部の荒涼とした丘陵地帯で、労働者たちが巨大なファンを設置している。写真はグリーンピースの船から飛ばされたドローンが撮影した、北極海の流氷。2020年9月撮影(2021年 ロイター/Natalie Thomas)

Alister Doyle

[オスロ 4日 トムソンロイター財団] - アイスランド南西部の荒涼とした丘陵地帯で、労働者たちが巨大なファンを設置している。空気中から二酸化炭素を取り込み、地中深くに固形化して埋蔵するという、画期的ではあるがコストのかかる地球温暖化対策の1つである。

マイクロソフトなどの企業や、中国、米国、欧州連合の指導者らが、「ネットゼロ」という排出量削減目標の達成に向けた長期計画に取り組むなかで、2021年には、工学的な気候変動対策が注目と投資を集めつつある。

テスラを率いる起業家で大富豪のイーロン・マスク氏は1月、「最も優れた炭素回収テクノロジー」に1億ドル(約105億4000万円)の賞金を出すと発言した。

レイキャビク・エナジー傘下のカーブフィックスと提携してアイスランドで二酸化炭素回収拠点を構築しているスイス企業のクライムワークスは、ジョー・バイデン米大統領の言う「気候危機」を抑制するには、あらゆるテクノロジーによる対策が必要だと話している。

だが、すでに大気中に存在する二酸化炭素の「直接空気回収」(DAC)はコストがかかりすぎるという批判もある。特に、シンプルな排出量削減や既存森林の保護、新たな植林と比較すれば、その差は顕著だ。

クライムワークスのディレクターを務める共同創業者のヤン・ブルツバッハー氏は、「できるだけ植林を進め、森林を保護するべきだ。しかし、温暖化防止の手段をあれこれと選んでいられる段階ではない」と語る。

<二酸化炭素を「埋める」>

クライムワークスは現在、貨物コンテナほどの大きさの二酸化炭素回収ユニットを8基設置しつつある。現在年間50トンの二酸化炭素を回収・貯留しているアイスランドの既存プラントを拡張し、処理能力を年間4000トンに高める計画だ。

ファンによって取り込まれた空気から特殊なフィルターを使って二酸化炭素を分離する。カーブフィックスが二酸化炭素と水を混合して弱酸性の液体を作り、それを地下800─2000メートルの玄武岩地層に注入する。

カーブフィックスのエッダ・シフ・アラドッティルCEOは、二酸化炭素の95%は2年以内に固形化し岩石になる、と語る。

だが空気中の二酸化炭素の比率は約0.04%にすぎず、これを回収・貯留するプロセスは複雑でエネルギー集約性が高い。アイスランドでこの手法が成立するのは、主として豊かな地熱エネルギーが低コストで供給されているおかげである。

オンライン決済サービスの米ストライプは昨年、クライムワークスが空気から回収した二酸化炭素322トンに対して、1トンあたり775ドル支払うと述べた。これが回収コストを示唆する手掛りになる。

同様に、マイクロソフトは1月末、二酸化炭素1400トンを地下貯留するためにクライムワークスに投資すると発表した。ただしクライムワークスでは、1トンあたりの価格を明らかにしていない。

マイクロソフトで炭素除去問題担当マネジャーを務めるエリザベス・ウィルモット氏は、ある声明のなかで「クライムワークスの直接空気回収テクノロジーは、我々の炭素除去への取組みにおける重要な柱となるだろう」と述べている。

マイクロソフトは昨年、2030年までに「カーボン・ネガティブ」、つまり排出する以上の二酸化炭素を除去する状態になり、2050年までに「1975年の創業以来、直接、あるいは電力消費を通じて排出した二酸化炭素をすべて環境から除去する」ことを表明した。

空気からの二酸化炭素回収に取り組んでいる企業としては、他にカナダのカーボン・エンジニアリングがある。同社によれば、提携企業とともに年間100万トンの二酸化炭素を回収可能なDAC施設の建設を進めているという。

二酸化炭素から燃料を製造しているカーボン・エンジニアリングによれば、年間100万トンは「4000万本の樹木による吸収量に匹敵する」という。

一方、米国で活動するグローバル・サーモスタットは、炭酸飲料の製造に二酸化炭素を利用しているコカコーラや、温室効果ガス排出量という点で世界有数の企業である石油大手エクソン・モービルといった企業との協力を進めている。

クライムワークスは、地中への埋蔵によって二酸化炭素を自然界から恒久的に切り離したのは同社が初であると主張している。

アイスランド国内のプラントの他に、同社はスイスでも、年間1000トンの二酸化炭素を空気から回収する能力を持つ施設を運用している。回収した二酸化炭素は、地元の温室に販売され、作物の生育を促すために使われる。

<悩みはコストの高さ>

DACテクノロジーを扱う企業はどこもコストの高さに悩んでいる。

ブルツバッハー氏は、「(二酸化炭素1トンあたり)200ドルを切るかどうかが重要なステップだ」と語る。

この金額は、カリフォルニア州が空気から回収された炭素を使って製造される低炭素輸送燃料に対して与えている補助金にほぼ等しいと同氏は言う。

もっと広範囲に、乗用車・トラック向け燃料の製造に1トンあたり200ドルのインセンティブがあれば、地中貯留も含めて、あらゆる用途に向けたDACの開発を加速させるだろう。

ブルツバッハー氏は「ネットゼロ」の排出量目標を掲げる企業・国家を称賛するが、現段階では、2030年までに年間30─50万トンの二酸化炭素回収というクライムワークスの目標を実現するには、投資額が大幅に不足しているという。

クライムワークスは昨年増資を行って約1億1000万ドルを調達したが、目標達成に必要な額には遠く及ばない、と同氏は言う。

「炭素回収・貯留に関心を注いでくれるイーロン・マスク氏のような人物の存在が重要だ。(略)そうなれば、もっとメインストリームに近づくだろう」とカーブフィックスのアラドッティルCEOは言う。

アラドッティル氏によれば、炭素を岩石に転換させる方法は、温室効果ガスを数百万年にわたって封じ込める、植林よりもはるかに恒久的なソリューションだという。植林しても、伐採や開墾、気候変動由来の干ばつや猛暑の深刻化で頻度を増している森林火災によって失われてしまう可能性があるからだ。

アラドッティル氏は、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)による中断はあったものの、春には新たなプラントを完成し操業を始めたいと言う。冬の長いアイスランドでの「春」は、4月か5月という意味だ。

国際エネルギー機関(IEA)が昨年発表した報告書によれば、世界全体では欧州、米国、カナダの15カ所でDACプラントが稼働しており、合計で年間9000トン以上の二酸化炭素を回収したとされている。

だが、世界全体の排出量を考えれば、これは雀の涙にすぎない。米国民の気候変動原因物質の年間排出量は、1人あたり約15トン。9000トンは、米国民わずか600人分の年間排出量にしかならない。

IEAの報告書の見出しは「さらなる取組みが必要」となっている。

<扱いは「投機的」?>

英国グリーンピースの先月の報告書は、DACテクノロジーに関して、「ごく初期の段階にあり、非常に高コスト」であると懐疑的だ。

「『特効薬』への期待から報道では派手に扱われているものの、将来の利用可能性は依然として非常に投機的だ」と報告書は述べている。

かつて、国連による科学分野の報告書において、炭素の直接空気回収テクノロジーは地球工学の一形態、つまり気候変動の脅威に対応するために地球のシステムに手を加える手法として分類されていた。

たとえば成層圏に放出した化学物質のベールで太陽光を遮るといった、もっと奇抜なテクノロジーと同列に扱われていたわけだ。

だが2018年以降、DACの区分は「(気候変動の)緩和」、つまり排出量削減の一種に変更された。最近の科学報告書では、自然の仕組みによるものであれテクノロジーによるものであれ、大気中からの炭素の除去をある程度増やすことが不可欠であると示唆されている。

回収した二酸化炭素を地下で固形化する方法がどこでも使えるわけではない。アラドッティル氏によれば、かなりの広さで海底を利用できる可能性があるものの、このプロセスに適した岩盤があるのは大陸の約5%である。

カーブフィックスでは、2014年から現時点までで6万5000トン以上の二酸化炭素を地下に注入した。ほぼすべてが地熱発電所で生成された二酸化炭素で、空気から回収したものではない。

アラドッティル氏は、注入する液体をどんどん増やしても、地中の空間が満杯になる兆候は見られないと話す。

ブルツバッハー氏によれば、カーブフィックスが運用する今後のDACプラントには、恐らく動物にちなんだ名称が付けられるだろうという。アイスランドの新プラントはシャチを意味する「オルカ(Orca)」と呼ばれている。実はアイスランド語の「オルカ(Orka)」には、「エネルギー」という意味もある。

アイスランド国内の別のプラントについては、「マンモス」という名称が提案されている。そう、はるかに規模が大きいからである。

(翻訳:エァクレーレン)

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