焦点:政策転換前倒しの思惑で揺れる円債市場、その先の利上げ織り込めず
ロイター / 2023年12月8日 13時40分
日銀が早期にマイナス金利政策を解除するとの思惑が広がり、円債市場では急激な金利低下の反動もあって調整圧力が強まっている。写真は円紙幣。2017年6月撮影(2023年 ロイター/Thomas White)
Mariko Sakaguchi
[東京 8日 ロイター] - 日銀が早期にマイナス金利政策を解除するとの思惑が広がり、円債市場では急激な金利低下の反動もあって調整圧力が強まっている。ただ、インフレ鈍化に伴う各国中銀による利下げ観測がくすぶる中、日銀が政策転換後にプラス圏での利上げを進めることができるかについて懐疑的な見方が多い。金利上昇は一服し、イールドカーブがフラット化する可能性がある。
<新発10年債利回りは1日で10.5bp上昇>
7日の円債市場では新発10年債利回りが0.750%と前営業日の終値(0.645%)から10.5ベーシスポイント(bp)急上昇した。1日の金利上昇幅としては、長期金利の許容変動幅を拡大した22年12月会合以来の大きさとなった。8日には一時0.8%までさらに上昇した。
日銀正副総裁の発言をきっかけに、市場がこれまで想定していたよりも早い時期にマイナス金利政策が解除されるとの思惑が広がった。「中央投資家から5年債に大口の売りが出た」(国内証券債券セールス)ことを皮切りに、国債先物が急落。今週に入り金利が急低下し事前の調整が進まなかった30年債入札が低調な結果となったことも嫌気され、円債売りに拍車がかった。
日銀の金融政策予想を反映するとされるオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)は、2カ月物が0.011%付近とプラス圏で推移。2カ月以内のマイナス金利解除を予想する市場参加者が増えたことを示唆している。
ニッセイ基礎研究所の金融調査室長、福本勇樹氏は「長期金利のフェアバリューは米債対比で割高感が生じており、足元は適正な水準に戻ってきている」と指摘する。
<下がり過ぎた金利水準の修正>
7日の金利の急上昇は、米金利の低下基調を背景に円金利が下がり過ぎていた反動もあったとみられる。10年債利回りは、日銀が10月の金融政策決定会合で長期金利の誘導目標の柔軟化を決定した直後は一時0.970%付近まで上昇したが、12月には一時は0.620%付近まで低下。年末に向けて流動性が薄い中での買い戻しにより、円債の米国債対比での感応度は通常時の0.2ベータ程度から、一時0.7─0.8ベータ程度まで上がっていた。
「米金利の低下で、海外投資家は(円債を)ショートカバーせざる得なかった」と、モルガン・スタンレーMUFG証券の杉崎弘一エクゼクティブディレクターは指摘する。大阪取引所が公表している投資部門別取引状況によると、海外投資家は長期国債先物を6月以降は売り越していたものの、10月以降は買い越しに転じた。
国内投資家が債券買いに舵を切ったことも、金利低下圧力を強めた。日銀の10月決定会合以降、イールドカーブ・コントロール(YCC)政策が一段と形骸化する中でいったん円金利の上昇にめどが付き、年金勢など長期投資家によるリバランス目的の買いが入りやすかった。
日銀の国債買い入れの多さも、10年債を中心に利回りが大きく低下した一因だ。11月以降、中長期・超長期債のオペをそれぞれ減額したものの、財務省による国債発行を除くと大きな売り手がいない中で需給が緩和するには時間がかかるとみられている。
<マイナス金利解除の利上げ織り込み進まず>
日銀の政策修正の思惑がくすぶる中、中期ゾーンには金利上昇圧力がかかりやすい。一方、超長期ゾーンは来年度の国債発行計画で20年債の減額を巡る思惑に加えて平準買いをする生保など買い手もいることから、他年限と比較しても相対的に崩れにくい。
アセットマネジメントOneの債券運用グループ、鳩野健太郎ファンドマネジャーは「イールドカーブの中腹辺りは、金利の水準的な妙味がかなり薄れてしまった。カーブの傾斜化よりも、長期金利上昇を狙うトレードのリスク・リターンの方が高くなっているとみており、結果的にカーブは膨らみやすい」との見方を示す。
市場ではマイナス金利解除の時期前倒しの見方は強まったものの、その後のプラス圏での利上げの織り込みは進んでいない。OISの1年物は足元0.12%付近と1月に付けた0.14%には届いておらず、1年後の政策金利は0.1%を付近にあると示唆している。
三井住友銀行のチーフストラテジスト、宇野大介氏は「日銀は春闘の結果を見極めておらず、政府はデフレ脱却宣言もしていない。デフレに戻るかもしれないリスクが残るなど状況は整っていないことから、市場はその先の利上げを描けない」とみる。
インフレ鈍化や景気減速により各国中銀の利下げ観測が一段と強まれば、世界的に金利低下圧力がかかる。「円金利も上がりにくくなる。ヘッジコストの観点から円債の利回りは魅力的に映るため海外勢の買いも入ってくる可能性があり、イールドカーブにフラット化圧力がかかりやすい」と、ニッセイ基礎研究所の福本氏は予想している。
(坂口茉莉子 編集:田中志保)
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