震災10年:検証なきインフラ投資、人材不足招く 復興に重い課題
ロイター / 2021年3月9日 14時7分
東日本大震災の発生から10年で投入された復興予算はおよそ31兆円。阪神淡路大震災復興事業費の2倍程度に相当する。このうち防潮堤や宅地整備などのインフラ整備には十分な費用対効果の検証が行われないまま、巨費が投入された経緯が浮かびあがってきた。写真は、岩手県陸前高田市の防波堤で釣りをする人。2月28日撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)
中川泉 金子かおり Daniel Leussink
[東京 9日 ロイター] - 東日本大震災の発生から10年で投入された復興予算はおよそ31兆円。阪神淡路大震災復興事業費の2倍程度に相当する。このうち防潮堤や宅地整備などのインフラ整備には十分な費用対効果の検証が行われないまま、巨費が投入された経緯が浮かびあがってきた。ハード面に偏った復興のツケは、人口減や高齢化が急速に進む地方自治体に深刻な人材不足を招いており、街の再生に重い課題を突き付けている。
<防潮堤建設に不要論通らず>
大津波に襲われた宮城県気仙沼市では、104か所にも及ぶ防潮堤が築かれつつある。「そのうち数か所は陸側に住宅も店舗も企業も何もない場所で、心の安心のための防潮堤だ」。同市市議会の今川悟議員はそう漏らす。それでも、車が通る、あるいは誰かが通りかかって津波がきたらどうするんだと言われれば、誰も反対できないのが防潮堤だとも話す。
被災6県では、総延長約432キロの防潮堤のおよそ8割が完成。総事業費は約1.4兆円にのぼる。今川議員によると、そのうち気仙沼市の防潮堤費用は2200億円以上を占めるという。
2014年当時、参議院では国土交通省及び農林水産省に対して、気仙沼市の小泉地区防潮堤を例に、どのような費用便益分析を実施したか、という質問書が和田政宗議員から提出された。しかし回答は「費用便益分析は行っていない」というものだった。指摘があった小泉地区防潮堤はおよそ500億円弱、同市防潮堤の中でも最大の金額が投入される計画となっていた。
東京大学公共政策大学院からは、この防潮堤の費用対効果を分析した結果、建設によって守られる便益を建設費や維持費が上回り、207億円強の負担超になるとして「計画は見直すべき」との提言があった。
今川議員は、費用対効果を見ない使い方となったのは、復興資金が100%国の歳出であり、使いきることが優先されたためだと語る。国も、インフラ整備計画の内容は地元任せで、余らせて返済されることに難色を示す傾向が強かったという。「資金の費用対効果に誰も責任をとらないという仕組みだった」。
<復興住宅、ローンも時間切れ>
資金を投じたインフラは、時間の経過とともに移ろう需要に対応できる仕組みとなっていたのか。
陸前高田市では、かさ上げも含む土地区画整理事業費に1657億円を投じた。当初かさ上げは海抜2メートルを想定していたが数年後には10メートルに変更され、投入金額もここまで膨張した。しかし今、その約6割が利用されていない。
平沢勝栄・復興担当相は「これまでに復興には30数兆円使っているが、その多くは道路、橋、公園に投じて、防災まちづくりに使っている。決して無駄なお金ではなかったと思う」(2月フォーリンプレスセンターでの講演)と述べた一方で、「反省点として、被災者住宅の造成地が完成した段階で入居利用者が減り、空き地ができてしまった。被災者の気持ちが変化してしまった」と言及した。
高齢化の影響もうかがわれる。気仙沼の高齢化率は38%、10年前の30%から上昇した。陸前高田も39.6%だ。どちらも全国平均の28%を大きく上回っている。気仙沼市小泉地区で当初計画の半分程度しか入居しなかったのは、他の土地への移転に加え、当初の入居希望者が65歳を過ぎて住宅ローンの借入審査が通らなくなったことや、老人施設に入居したことも一因だ。
<インフラ投資に偏った復興予算、若手人材対策に回せず>
防潮堤や道路整備、土地かさ上げや宅地造成といったインフラへの投資額は13.4兆円にのぼり、31兆円の復興事業費の3分の1以上を占めた。
これに対し、産業再生への支出は4.4兆円と、インフラ投資の3分の1の規模にとどまる。それでも、三陸地域などで産業の中心だった食品加工業をはじめ、被災3県の製造業の付加価値は震災前より26%程度増加。再生の兆しは見えてきた。
一方で、働き手となる人口の減少には歯止めがかからず、「人への投資」は後手に回った。震災直前の2010年から19年までの3県の人口減少率は5.4%と全国の1.5%減を大きく上回る。特に三陸海岸地域のように都市部から遠く離れた街では、若手人材や大学・企業の誘致への施策が乏しく、新たな産業の呼び込みは困難だ。
気仙沼市の今川議員は「復興予算は使途が限定されていた。予算が自由に配られて市町村が独自に使えるのであれば、若い人や移住者を呼び込む施策に取り組めた」と語る。仙台から遠い地のりで大学の誘致もままならないため、先端企業の誘致も難しく、人口減少と高齢化に対応した新たな街づくりは難しい課題だという。
明治大学公共政策大学院の田中秀明専任教授は「防潮堤やかさ上げなどの街づくりは、人口減少を考慮しもっと時間をかけるべきだった。この10年間、何が問題だったか、将来どうすべきかレビューしないといけない」と指摘する。
(中川泉 金子かおり Daniel Leussink 編集:石田仁志)
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