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アングル:中国の矛盾示す戸籍制度、改革阻む社会不安の恐怖

ロイター / 2023年12月10日 8時17分

中国では、1950年代を起源とする戸籍制度がいよいよなくなるのではないか――。最近数カ月の当局の言動を受け、一部エコノミストの間にはこうした期待が広がっている。写真は2021年1月、北京の鉄道駅で荷物を運ぶ旅行者(2023年 ロイター/Thomas Peter)

Yew Lun Tian Kevin Yao Farah Master

[北京/香港 7日 ロイター] - 中国中部の河南省で、ヤン・グアンさん(45)が一介の農民から外車を乗り回して2件の不動産を所有するビジネスマンへと飛躍できたのは、同国で誰もが欲しがる「都市戸籍」を入手したからだ。

河南省の省都、鄭州市に住むヤンさんは、医療や教育、ローンその他行政サービス給付が出生地と結びつき、農村から都市に移住するには許可申請手続きが必要な中国の戸籍制度(戸口)を、国家が全ての人民に牛の耳にあるような「識別票」を付けている、と表現する。

ヤンさんは「この識別票によって各人が享受できる権利にはさまざまな差が生まれ、果たすべき義務も違ってくる」と述べた。一般的に都市戸籍は、農村戸籍よりも経済発展に伴う多くの恩恵に浴することができる。

2000年代初め、鄭州市が住居を購入した人に対して、一時的に都市戸籍を付与する措置を打ち出すと、ヤンさんはその機会をとらえ、事業者登録をした上で同市全域に店を開いて、自らの運命を好転させたのだ。

1950年代を起源とするこの戸籍制度がいよいよなくなるのではないか――。最近数カ月の当局の言動を受け、一部エコノミストの間にはこうした期待が広がっている。

背景には、不動産市場の不況が続き、消費が低迷する中で、より多くの人々を都市に呼び込んで経済のてこ入れを図ることが焦眉の急になっているという事情がある。

中国公安省は8月、人口300万人までの都市の戸籍制度廃止と、人口300万─500万人の都市部での戸籍制度の大幅な制限緩和をすると宣言。浙江省と江蘇省は、新たな居住者に対してほぼ完全に門戸を開く計画を発表した。

ただ、中央政府の戸籍制度に関する議論に参加している2人の関係者はロイターに、改革は停滞しており、特に大都市では大きく局面が打開される公算は乏しいと明かした。

その裏側には、戸籍制度改革を巡る当局のジレンマが透けて見える。経済的な面からは改革に強い妥当性が認められる半面、社会の安定を損ねるのではないかとの懸念や、重い借金を背負う各都市にさらなる費用負担が加わる可能性が、改革を断固進めることに「二の足」を踏ませているからだ。

華夏新供給経済学研究院の創始者で、戸籍問題を含めて政府に政策助言を行っているジャー・カン氏は「戸籍改革はなかなか受け入れるのが難しい。単純に望ましいというだけで可能になる話ではない」と述べた。

ジャー氏によると、中央政府も地方政府も戸籍制度の制限緩和に反対ではないが、実行できるかどうかは各都市の予算と行政サービス能力に左右されるという。

複数の政策アドバイザーは、最大級の都市の場合は供給できる住宅が限られるし、環境汚染や渋滞に直面しており、それらがより多くの人口を吸収する上で制約になると説明した。

また、中小都市ならば新規住宅は有り余っているが、借金が膨れ上がっているので医療や介護、教育といったサービスを拡充する余裕はない。

2人目の政策アドバイザーは「中国の都市化は質的にはみすぼらしい」と自嘲した。

中国では過去40年間で起業のチャンスが広がり、交通インフラや住宅への投資が実施されたのに伴って、大半の都市の規模が劇的に拡大したものの、いわゆる都市化率は先進諸国の80─90%という水準

をかなり下回っている。

現在、人口14億人のうち都市部に居住するのは約65%と2013年の55%から高まった。だが、都市戸籍取得者は48%で、実際の居住者とのかい離はずっと埋まらない。

中国の農村戸籍は土地使用権と結びついていて、農村から都市への出稼ぎ労働者が、特に経済が振るわない時期に都市戸籍を申請しようとしない原因とみられる。農村戸籍のままなら、都市で仕事が見つからなくても地元に戻って農業で暮らしていけるという、ある種の保険の役割を果たしているのがその理由だ。

共産主義の中国は、土地の私有は認められず、使用権を自由に売買することもできない。

2人目の政策アドバイザーは「土地制度の改革を前に進めなければならない。多くの土地が有効活用されていない」と提言したが、指導部は積極的に動いていないと付け加えた。

<消費抑える出稼ぎ労働者>

戸籍制度は、毛沢東政権時代の飢饉において、食糧配給と人民の出生地をひも付けし、飢えた農民が大挙して都市に流入するのを防ぐ目的で導入された。

この都市戸籍と農村戸籍を厳密に分ける仕組みにより、約3億人に上る出稼ぎ労働者の多くは、行政サービスを受けられる範囲が限られてしまう。

都市住民に比べれば医療費の還付額は少ないし、退職までの積立金でも雇い主からの拠出金は得られない。

結果として彼らは所得をより多く貯蓄に回し、マクロ的には当局が経済成長のより明確なけん引役になって欲しいと考えている家計消費が上向かない。

人民銀行(中央銀行)のアドバイザーの1人は、出稼ぎ労働者の消費額は都市戸籍取得者を23%ほど下回っており、中国の国内消費に換算すると国内総生産(GDP)の1.7%、2兆元(2810億ドル)を逸失している可能性があると推計する。

中国では、供給過剰に陥っている集合住宅の需要喚起も必要不可欠の課題だ。GDPの約25%を占める不動産市場は、民間デベロッパーの相次ぐデフォルト(債務不履行)で混乱が続いている。

ハーバード大学のマーティン・ワイト教授は、出稼ぎ労働者と都市住民の間での扱いがより公平になり、前者の雇用や福祉サービスの環境が上向き、住宅を買えるようになれば、不動産市場は相当程度改善すると予想した。

<天国と地獄>

ただ、中国指導部にとって、制御不能なほどの人数が都市に流入すれば、リスクをもたらしかねない。

2017年には、北京で出稼ぎ労働者の居住地域に火事が発生した後、市当局は都市戸籍を持たない人々を「追放」する取り組みに乗り出し、中国では珍しい政府への批判が高まった。

北京や上海、深セン、広州といった巨大都市は、社会の安定や調和の観点からこの先何年も、新たな人口流入に窓を開く「チャンスはない」とジャー氏は言い切る。

こうした中でビジネスマンへの転身に成功した鄭州市のヤンさんは、都市戸籍取得の前と後では生活が一変したと改めて振り返った。

当初は地方からの出稼ぎ労働者が暮らす地域で無許可の小さなコンビニを営み、警察の目を逃れて公園にわらを敷いて眠った夜も少なくなかったヤンさんだが、都市戸籍を得ると先行きが急に明るくなったという。

今や事業を拡大するとともに、都市戸籍取得者だけが許される二つ目の住居を購入。自家用車も手に入れて、活動的な社会生活を楽しんでいる。

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