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焦点:銃弾・爆弾・賄賂、命がけでガザに食料運ぶ商人たち

ロイター / 2024年7月9日 18時39分

7月4日、パレスチナ自治区ガザで輸入業を営むモハメドさんは、「運ぶたびに無理をしている」と、ロイターに語った。写真は5月、ヨルダン川西岸のヘブロンの検問所で、ガザへの入境を待つ民間トラックの車列。食料を運んでいる(2024年 ロイター/Mussa Qawasma)

John Davison Emma Farge Nidal al-Mughrabi

[4日 ロイター] - モハメドさんいわく、その仕事は「地獄の配送業」だ。

パレスチナ自治区ガザで輸入業を営むモハメドさんは、「運ぶたびに無理をしている」と、ロイターに語った。包囲されたガザ地区にトラック1台分の食料を運び込むたびに、急騰する輸送費や仲介業者への賄賂、略奪者に備えた警護費用として1万4000ドル(約225万円)以上も払わねばならない。昨年10月に戦争が始まるまでは、1500ドルから4000ドルで済んでいた。

「ほとんど稼ぎにならない。とはいえ、私も近所の人も食べ物が必要だ。ガザ地区全体が食べるものを必要としている」

モハメドさんは、気は進まないものの、乳製品や果物、鶏肉といった生鮮食品の一部については採算を取るために通常価格の10倍に値上げせざるを得ないという。だが、そうすれば飢えに苦しむ多くのガザ住民には手の届かない価格になってしまうことも分かっている。

ロイターは、モハメドさんの他、17人に話を聞いた。そのほとんどはガザ地区の輸入業者か支援関係者で、物資の供給状況について熟知している。飢餓のリスクが高まっているという支援機関の警告がある一方で、供給システムが混乱しているため、食料を輸入するには危険度もコストも高すぎる状況だという。

取材に応じた人の多くは、フルネームを伏せたいと話した。モハメドさんのような輸入業者は、本名で取材に応じれば、現地の犯罪組織からの報復やイスラエル軍のブラックリストに載る懸念があるという。

取材した人々によれば、食料の輸入に費やされる金額の大部分は、急騰する輸送費に使われる。

イスラエル国内の運転手は、委託費を最大で3倍に引き上げている。ガザに向かうトラックに対してイスラエル人の抗議者からの攻撃があるというのがその理由だ。また、イスラエル占領下にあるヨルダン川西岸地区やケレム・シャローム検問所などの越境地点では、イスラエル兵士による検査を受けて入域許可を得るために何日も待機せざるをえないことも多く、それがさらに輸送コストを押し上げているという。

そして、物資を何とかガザに運び込んだとしても、旅路の最も危険な部分はまさにそこから始まる。

やはり輸入業者であるハムダさんは、野菜のピクルスや鶏肉、乳製品を西岸地区から輸入している。地元の犯罪組織に金を払って見逃してもらうか、武装ガードマンを独自に雇って貨物に張りつかせ、略奪者を撃退しているという。

「これに200ドルから800ドルかかる。1回分の貨物が最高で2万5000ドルになるから、金を払う意味はある」といハムダさん。「雇うのは友人か親戚だ。トラック1台あたりだいたい3─5人は必要になる」

一方、支援組織によると飢餓の状況はガザ北部で一段と厳しいが、民間セクターの物資はまったく搬入できない。取材に応じた輸入業者8人全員が、イスラエル軍がこの地区を封鎖しており、商業用の物資輸送を締め出していると指摘した。

支援関係者2人も、ガザ地区北部で手に入る食料は人道支援によるものだけで、商業用の物資は販売されていないことを確認した。ガザ市及びその郊外を主体とするガザ地区北部で販売用の食料を入手できるかどうか、イスラエル軍はコメントしなかった。

ガザ地区での人道支援の調整を監督するイスラエル軍は、住民全体に行き渡るだけの食料をイスラエルとエジプトから入れさせているとしている。ケレム・シャロームなどの越境地点を経由してガザ地区に運び込まれた後、支援機関による食料の輸送に「困難」が生じていることを軍は認めたが、どのような障害があるか具体的には明らかにしなかった。

広報担当者の1人はロイターに対し、ガザにおける支援物資の配布は「戦闘が進行中の地域なだけに、困難な作業」になっているとした上で、「イスラエルは、一般住民の利益のために人道支援物資のガザ搬入を認めると約束している。現地での作戦上の都合に配慮しつつ、搬入を促進している」と述べた。

イスラエル軍は、ガザを支配するイスラム組織ハマスが「人道目的のインフラを軍事目的に流用」していると主張するが、詳細は明らかにしていない。

ハマスは人道支援の流用を否定し、食料の流通に介入していないとしている。ハマスは、商業関係者が貨物を守るために武装ガードマンを雇っていることを確認しているが、こうした護衛とハマスとのつながりはないと述べている。

「私たちの最大の目標は、人々の苦悩を緩和することだ」と、ハマス行政部門広報官は話した。

<「法と秩序の完全な崩壊」>

昨年10月7日、ハマスがイスラエル南部の街を襲撃したことに端を発した今回の戦争では、イスラエル側が報復として空爆と地上侵攻を行い、ガザ地区に壊滅的な損害を与えた。230万人ものガザ住民のほとんどが住居を失い、彼らへの食料供給は、官僚主義と暴力のために八方塞がりとなっている。

食料を運び込むには主として2つの手段がある。1つは国際支援だ。主体は国連またはその関連機関によるコメや小麦粉、缶詰など保存食の供給で、戦時下での食料輸入の大半を占める。もう1つは民間による供給で、栄養不良を回避するために重要な生鮮食品が含まれる。

イスラエル軍は5月、イスラエル及びヨルダン川西岸地区からの商業的な食料供給の再開を認めた。エジプトからの入域経路として重要なガザ最南端ラファに対するイスラエル軍の攻撃により、国連による支援が大幅に減少したためだ。

ロイターはこうした商業的な食料供給の再開について既に報道した。その後、ガザの商業関係者がコスト高騰や混乱に悩まされ、ガザ地区内の市場や店舗向けに生鮮食品を輸入しようという試みが阻害されている状況についても、今回報道機関として初めて詳細に報じることになった。

食料トラックに対する攻撃は、5月7日にイスラエルがラファ攻撃を開始したことをきっかけで急増した。輸入業者や支援関係者によれば、この攻撃で、ラファでテント暮らしを送っていた150万人の避難民が散り散りになり、ガザ地区の混乱がさらに深まったという。

国連が提供する食料は、ケレム・シャロームや北部の越境地点を経由して今もガザに運び込まれている。だが、食料供給の調整に関与している支援関係者6人によれば、国連機関は武装ガードマンによる護衛の費用を出せないため、武装組織に対する脆弱性ははるかに高いという。ある関係者によれば、食料輸送トラックの約70%が攻撃を受けている。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のフィリップ・ラザリーニ事務局長はロイターに対し、「トラック運転手は日常的に脅迫や襲撃を受けており、私たちは、法と秩序のほぼ完全な崩壊という事態に直面しているといえる」と語った。

「あまりにも多くのトラックが略奪された」

援助機関が困難に直面しているため、商業トラックがガザに運ぶ食料の割合は増え始めているものの、その流れは依然として不安定だと、関係者8人がロイターに語った。

彼らによると、ラファ攻撃が開始されて以来、民間ルートによる輸送は1日あたりトラック20台から100台で、1台あたり最大20トンの食料を運んでいるという。この間、イスラエル軍のデータによれば、1日平均150台の援助トラックと商業食料トラックが入国している。

これは、米国際開発庁が飢饉の脅威に対処するために必要とする1日600台のトラックにははるかに及ばない。

また、6人の援助関係者によれば、入ってくる市販の食料は高価で、援助国や援助団体により代金を支払い済みの国際援助の代わりにはならないという。

ノルウェー難民評議会のガザ担当のマジド・キシャウィ氏は、「いくつかの品目は、少なくとも15倍の値段になっている。基本的な品目は、援助や商用トラックの到着が激減したため、市場から姿を消した」と話した。

<イスラエルのデモ隊>

イスラエルやヨルダン川西岸で食料を積み、ガザの目的地まで届けるのは最大でも160キロの距離だが、その道のりは危険に満ちている。ガザに入る前から、トラブルに見舞われがちだという。

5月には、ガザに向かっていたトラックがイスラエルの抗議デモ隊に道を阻まれ、襲撃された。ドライバーにはイスラエル人のほか、イスラエルで働く許可を持つパレスチナ人だった。抗議者たちは、ハマスへの物資の供給を妨げる目的だと主張したが、一連の襲撃行動を受け、米政府はイスラエル人入植者らとつながりのあるグループに制裁を科した。

「特にイスラエルの運転手は、襲撃のせいで輸送料金を値上げした。1,000ドルの輸送費が3,000ドルになることもありる」と、サミールと名乗る輸送業者は話した。

ガザに入る前にトラックの大行列に引っ掛かり、長い待ち時間で輸入業者はトラック1台につき1日約200ドルから300ドルの負担を強いられている、と彼は付け加えた。

パレスチナや欧米の政府関係者を含む関係者18人によれば、この遅れは、ガザへの食料輸送が全体的に滞っていることが原因だという。

輸入業者や援助関係者によると、6月初旬の2週間、イスラエル軍は人道援助物資の滞留を解消するためとして、すべての商業物資のガザ入りを停止した。ある輸入業者は、6月9日にイスラエル軍のガザへの物資搬入調整官から、商業貨物は「追って通知があるまで保留」だとするテキストメッセージを受け取ったという。

6月15日に始まるイスラム教の祝祭日の連休の頃には、商業トラックの通行が再開したという。

<賄賂と護衛>

ようやくガザに搬入された食料は別のトラックに積み替えられ、地元のドライバーによって域内の小売商に届けられるという。

そこは、戦闘地域だ。

ラファ攻撃開始以前は比較的安全と思われていたラファや南部の街ハンユニスの道路は、今では攻撃されやすい場所として知られている。

援助関係者3人はトラックの略奪は日常茶飯事だと言い、輸入業者のハムダさんは、ラファ侵攻前に比べて、略奪されるトラックの数は約6倍になったと推定している。

ハムダさんによれば、肉や新鮮な果物といった希少な食品を積んだトラックが狙われることもある。他の多くの場合、食品に紛れこませてタバコの密輸を手配したギャングに襲われている。

あるガザの商人は、スイカをくりぬいた中にタバコを隠して密輸している写真を共有したが、ロイターはその真偽を確認できなかった。

イスラエルが継続中の軍事作戦も、食料輸送の妨げとなっている

ある貿易商は、トラックがガザ内にいる間、リアルタイムで連絡できる軍関係者がいないと話した。戦闘や砲撃によって道路が閉鎖されている場合、安全な代替手段を見つけることも、仲間のドライバーにその情報を伝えることもできないという。携帯電話は圏外になることが多いためだ。

3人の貿易商は、広いコネを持ちイスラエル軍とも定期的に連絡を取るガザの商人に先月からカネを払い、貨物の搬入と目的地までのトラックの保護を得るようになったという。

3人はこの商人の名前は明かさなかったが、商品を安全に目的地まで運ぶのに、このサービスだけで1万4000ドルもかかるという。

輸入業者の一人であるアブ・モハメッドさんは、積み荷をいくらで売ることができるか、再計算しなければならなかったと語った。

「輸送費を補うために値上げすれば、数百ドルの儲けかもしれない。もしかしたら、収支が合うかもしれない。でもすべてを失うリスクもある。もし荷物が襲われたら、私の払ったカネは無駄になってしまう」

(翻訳:エァクレーレン)

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