FRB当局者、新型コロナへ「強力な対応」必要=FOMC議事要旨
ロイター / 2020年4月9日 9時6分
米連邦準備理事会(FRB)が8日公表した3月の2回の緊急連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨によると、新型コロナウイルスの発生が米経済に悪影響を及ぼし、金融市場を混乱させた迅速さに懸念を強め、「強力な措置」の決定につながったことが分かった。ワシントンのFRB本部で昨年3月撮影(2020年 ロイター/Leah Millis)
[8日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は8日、3月に開催した2回の緊急連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨を公表した。新型コロナウイルスの急速な感染拡大による米経済への深刻な打撃を和らげるため「強力な措置」を講じる必要があるとの見解で当局者が一致したことが分かった。
新型ウイルスのパンデミック(世界的大流行)が深刻化する中、FRBはこれまでで最も迅速に過去にない規模の支援策を導入した。議事要旨では、こうした対応の経緯の詳細が初めて明らかになった。
緊急会合は3月2日と15日に行われた。政策当局者は金利をゼロ付近に引き下げ、海外の中央銀行へのドル供給を拡大したほか、危機時の金融政策の代表格となった大規模な資産買い入れプログラムを再開した。最初の利下げは2日夜に始まったビデオ会議を経て、翌3日に発表した。
議事要旨によると、失業率上昇や消費者信頼感の落ち込み、企業への打撃といった短期的な影響、それらに対応する政策手段について異論はほとんど出なかった。
ただ、金融政策当局者の間では、今後の見通しを巡る不透明感への懸念とともに、経済の先行きがむしろ保健当局者や政権指導者の対応に大きく影響されていることについて、ある種の無力感も見受けられた。
当局者らは米経済について「複数の異なるシナリオ」を提示したという。これは、米経済が「V字」回復に向かうのか、それとも長期的、慢性的な打撃を受けるのか、FRBが判断に苦慮していたことを示唆する。
議事要旨では「参加者は、ウイルスの感染が予想以上に拡大し、財・サービス生産や総需要に悪影響を及ぼす可能性に特に言及した」としている。また「医療・財政政策分野で講じられる措置が、米経済の正常化の時期と速度を方向付ける上で重要になると強調した」という。
新型コロナ感染拡大に対してFRBが講じた矢継ぎ早の対応は、金融市場の動揺を受けてパウエル議長が2月28日に出した緊急声明に始まった。議長は声明で、経済を支えるためFRBは「適切に行動する」と表明した。
翌週の3月2日、パウエル議長はFOMCのビデオ会議を招集。FRBスタッフは会議で、金融市場がパウエル議長の声明を3月17─18日のFOMCまたはそれより早期の利下げを示唆するものと受け止めたと報告した。
FRBスタッフはさらに、新型ウイルスの感染が拡大し、人との接触を避けるソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)の措置が厳格化された場合、「よりいっそうの生産停止やサプライチェーンの混乱、消費者・企業信頼感への悪影響の拡大、より大幅な失業増加、金融状況の悪化」が想定されると説明した。
これを受け、FOMCはフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を50ベーシスポイント(bp)引き下げ、1.00─1.25%とすることを全会一致で決定した。
その2週間足らず後の3月15日に開かれたFOMCのビデオ会議では、当局者は「ソーシャル・ディスタンシングなどの措置は感染封じ込めに必要だが、米経済活動に短期的に打撃を及ぼす」と指摘した。
経済の混乱がどの程度続くかを巡り長時間議論が行われたが、明確たコンセンサスは得られなかった。
最終的に、FF金利の誘導目標を100bp引き下げてほぼゼロとするとともに、大規模な債券買い入れを再開することを決定した。
ただ、借り入れコストの大幅引き下げには反対意見もあった。数人の参加者は、財政・公衆衛生面の対応の効果が表れるまで状況を見守り、いずれ追加措置が必要になった場合に備えて政策手段を温存すべきとの考えを示した。経済見通しについて「ネガティブなシグナル」を発する可能性にも懸念を示したという。
最終的には、FOMCの投票者10人のうちクリーブランド地区連銀のメスター総裁のみが反対票を投じた。
ウィスダムツリー・アセット・マネジメントのフィクストインカム戦略責任者ケビン・フラナガン氏は「全体的な決定ではFOMCはおおむね一致していたようだ」と述べた。
議事要旨からは、新型ウイルスの感染拡大や、感染拡大を抑えるための対策が米経済に与える打撃に対応するため、FRBが過去最大の規模の支援策をいかに速やかに導入することを求められていたかがうかがえる。
3日の利下げ発表のわずか5週間前となる1月下旬にFRBは今年初の会合を開催。当時は慎重ながらも前向きな見方を示していた。20年は安定的に成長し、労働市場の底堅さが続くとの見解だった。米中貿易摩擦の打撃を和らげるために3回金利を引き下げた19年を終え、明るい兆しが見えていた。
2月19日に公表されたこの会合の議事要旨では、「新型コロナウイルス」への言及は8回にとどまり、うち7回はFRBスタッフのブリーフィングでの言及だった。当局者は新型ウイルスについて、感染拡大のリスクは「注視すべき」としただけだった。議事要旨が公表された翌日から米株式相場は1カ月間急落が続き、時価総額の3分の1が吹き飛んだ。
2月中旬時点でもFRBは、新型ウイルスの感染拡大が中国以外の地域へ波及する規模は限定的との見方だった。中国の工場から部品や最終製品を調達する上で混乱が生じる可能性はあるが、より広範なリスクはあまりないとしていた。
その後、新型ウイルスは米国へ広がり、中国やその他の国でも危機が深刻化した。FRBは10年前に利用した危機の対応戦略を引っ張り出し、過去最高値から暴落した株式相場の安定を図った。
3月の2回の緊急会合の議事要旨では、新型ウイルスへの言及は35回に上った。
大半のFRB当局者が、米経済は既に景気後退入りしているとみている。第2・四半期の国内総生産(GDP)は2桁のマイナスになるほか、新型ウイルスの感染拡大を抑えるための外出自粛規制で、少なくとも一時的に2000万人超が失業する恐れもある。
パウエル議長は9日にウェブ配信で経済状況について説明する予定で、足元の危機に関するFRBの認識について手掛かりを示す可能性がある。シンクタンクのブルッキングス研究所が主催するウェブ配信で午前10時(日本時間午後11時)から事前に準備した文章を読み上げ、その後質疑応答が行われる。
*内容を追加しました。
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