焦点:在宅勤務でCO2排出量は減るのか、算定方法も未確立
ロイター / 2022年5月9日 15時42分
気候変動対策として二酸化炭素(CO2)排出量削減に率先して取り組んでいるハイテク企業や金融機関が、新たな課題を突きつけられている。それは、リモートワークから排出されるCO2にどう対処するかだ。写真は、米カリフォルニア州マウンテンビューのグーグル本社屋上の太陽光発電パネル。2008年3月3日撮影(2022年 ロイター/Erin Siegal)
[5日 ロイター] - 気候変動対策として二酸化炭素(CO2)排出量削減に率先して取り組んでいるハイテク企業や金融機関が、新たな課題を突きつけられている。それは、リモートワークから排出されるCO2にどう対処するかだ。
<単に排出量が移動>
従業員が自宅でコンピューターの電源を入れ、ガスコンロに点火し、世界で最もエネルギー効率の高いオフィスには出勤しなくなった場合に何が起きるか。少数の企業は影響の算定に乗り出しつつある。その結果、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)をきっかけに普及した在宅勤務は、通勤をやめたことで生じる気候変動面のメリットをある程度帳消しにしてしまうことが分かった。
企業向けソフトウエア大手セールスフォース・ドット・コムで責任者としてCO2排出削減に取り組むアマンダ・フォンアルメン氏は「排出量が消えてなくなったわけではなく、単に別の場所に移動しただけだ」と語る。
セールスフォースをはじめ、ロイターが取材した大企業20社の半数は、自宅の職場から排出されるCO2を試算している。これらの企業のうち6社が詳細なデータを示しており、合計50万人の従業員がパンデミックの発生から約1年間に排出したCO2は13万4000トンに上った。これは1500万ガロンのガソリン消費、ないしは6万7000トンの石炭燃焼に相当する。
何百万人もの従業員が通勤せず自宅で働くようになることで環境にプラスの効果がもたらされるのは確かだが、この見積もり結果はリモートワークへの移行が企業のCO2排出問題にとって単純な解決策にならないという事実を如実に物語っている。
英サセックス大学のスティーブ・ソレル教授(エネルギー政策)は「リモートワークは、一部の人が期待したような環境上のメリットを提供していない。だが彼らは、過去数十年にわたって行われてきたリモートワークが環境に及ぼす影響が想定より小さかった可能性にもっと注意を払うべきだった」と述べた。
企業から報告されたリモートワークのメリットは非常に幅がある。セールスフォースでは、リモートワークを通じて従業員1人当たりのCO2排出量が29%減ったことが判明。資産運用大手フィデリティ・インベストメンツの場合、2020年のCO2排出量削減分のうち、大半の従業員をリモートワークに切り替えたことによる効果が87%を占めた。一方、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)は、リモートワークと出社のハイブリッド勤務態勢を敷いた20年の従業員1人当たりのCO2排出量が1トン強と、出社のみだった前年の2トンから減少している。
ただ、アップル、アマゾン・ドット・コム、ウェルズ・ファーゴなどロイターが取材した企業の残り半分は、自宅で働いた場合のCO2排出量を算定していない。アップルは「当社のカーボンフットプリントからみて自宅からの排出量は小さいと見込んでおり、引き続き算定方法を検討しているところだ」と説明した。
また自宅からのCO2排出量を算定している企業の間でも、対応は分かれている。メタは事業の100%を再生可能エネルギーで賄う方針を守るため、自宅職場用に使う再生可能エネルギーの排出権クレジットを購入しているが、自宅で使う天然ガスのオフセット(相殺)はしていない。
セールスフォースとアルファベット子会社グーグルは、消費エネルギーの100%を再生可能エネルギーから調達するという目標から、自宅職場で使用する電力を除外した。自宅の電力使用については別途さまざまな取り組みを検討しているためだ。それでもテレワークで排出されるCO2のオフセット用の排出権クレジットは購入している。
もっとも気候変動専門家によると、結局これらは表面的な措置にすぎない。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のエレフセリア・コントウ准教授は「排出量削減目標を真剣に達成しようとするなら、企業は自宅(職場)を改善対象として考え、真っ先に動く必要がある」と訴える。
<存在しない算定基準>
自宅で働く場合のCO2排出量を算定する上で1つ問題となるのは、その方法の基準が全く存在しないことだ。マイクロソフトは独自に解決策を模索し、従業員1人が1日8時間在宅で勤務し、ノートパソコン1台とモニター2台、電球3個を使うというモデルを導き出した。
セールスフォースなど幾つかの企業は従業員から光熱費などの具体的な聞き取り調査を進めているが、多くの企業は単に在宅勤務者が住む地域の一般的な住宅使用エネルギー量を参照するのにとどまっている。
だが働く部屋を暖めるために住宅全体を暖める必要があるとすれば、CO2排出量をどう測定すべきなのだろうか。あるいは利用可能なのに使われない本社のオフィスの排出量はどのように考慮されるのか。
国際エネルギー機関(IEA)策定分を含めた少なくとも5つのリモートワークを対象とした調査分析は、企業が従来のオフィスに電力を供給しながら、柔軟な働き方を認めてより少ない頻度ながらも通勤可能な従業員をさらに増やした場合、CO2排出量は増加しかねないと警鐘を鳴らしている。
英コンサルティング会社カーボン・トラストは昨年のリモートワークに関するリポートで「最悪のシナリオなら、将来のハイブリッド勤務は社屋と自宅のエネルギー使用が非効率化するとともに、交通システムは需要変動に対応できず、道路上をより多くの車が走る事態になり得る」と指摘した。
いずれにせよ、リモートワークのCO2排出量算定の基準が不透明な以上、身動きが取れない企業が多い。従業員の10%をリモートないしモバイル勤務としているアウトドアブランドの「REICo-op」もその1つで、持続可能性問題担当シニアマネジャーのアンドルー・デンプシー氏は、業界の統一基準が出てくるまで、排出量の算定作業は見送る姿勢を表明した。
(Paresh Dave記者)
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