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焦点:「黙っていられなかった」、バイデン氏勝たせた女性票

ロイター / 2020年11月10日 12時41分

アリゾナ州フェニックスに住むヤズミン・サガスチュームさん(右)。10月撮影(2020年 ロイター/Edgard Garrido)

[アークボールド(米ペンシルベニア州) 7日 ロイター] - 訪問介護を仕事にするメアリーグレース・バダラさん(48)の母親は82歳。トランプ米大統領がテレビのリアリティショー「アプレンティス」で司会をしていた頃からのファンで、2016年の大統領選では熱狂的な思いで彼に投票した。

だが新型コロナウイルス感染症の流行が世界的に拡大し始めた頃、ホワイトハウスの日々の記者発表を2人でテレビで見ていた時、母親――グレース・ウェバーさん――は、初めて疑問を口にした。「なぜ彼は医療専門家の話に耳を傾けないの」

母親がそう言ったのをバダラさんは覚えている。

その数週間後、母ウェバーさんは胃腸出血で病院に行くことになり、ほどなく新型コロナに感染し1カ月近く人工呼吸器につながれた。そして5月、バダラさんはビデオ通話を通じてウェバーさんに永遠の別れを告げた。敬虔なカトリック教徒のバダラさんの手にそのとき、母のロザリオ(十字架)がしっかりと握られていた。

ペンシルベニア州スクラントン郊外に住むバダラさんは、生まれてこの方ずっと共和党員だった。しかし、自らが大事にするよう教えられて育った「高潔さ、信頼性、責任感」がトランプ氏に欠けていると「悟り」、彼が大統領の座から退くことを望むようになった。大統領選では民主党候補バイデン前副大統領を熱心に応援し、オンラインの選挙広告に顔を出すことまで承諾した。

「この事ではとても黙っていられなかった。母の声を皆に届けたのです」

バイデン氏が大統領選で勝利をたぐり寄せる上では、女性が決定的な役割を果たしたようだ。今回の選挙では投票総数が少なくとも100年ぶりの多さとなったが、その最前線に立ったのが米国の女性だった。エジソン・リサーチの出口調査によると、女性有権者は56%がバイデン氏に投票。男性はこれに対し48%だった。

トランプ氏に対する男性の得票率も、2016年の前回大統領選よりは下がった。しかしバイデン氏勝利の鍵を握ったのは、激戦州でバダラさんのような大卒白人女性の支持票が増えたことだ。バイデン氏が獲得した大卒白人女性の票は、4年前のヒラリー・クリントン氏を上回った。

さらにアフリカ系米国人女性からの得票率は全米的にバイデン氏がトランプ氏より大幅に高かった。それより差は小さいが、中南米系女性でも同様の状況となった。こうした女性票でバイデン氏はアフリカ系および中南米系の男性からの票よりも、リードが大きかった。

セクハラやレイプ疑惑もあるトランプ氏は、コロナ禍前から女性支持者の獲得に苦戦してきた。ただし、16年も今年も、彼が善戦した女性の層はある。大学を出ていない白人女性層だ。

ロイターは多様な意見を把握するため、12州の女性計42人から取材した。対象はアリゾナ、フロリダ、ネバダ、ペンシルベニア、ノースカロライナ、ミシガン、ウィスコンシン、ミネソタ、アイオワ、オハイオ、ネブラスカ、インディアナ。いずれも前回と今回の大統領選で、有権者がトランプ氏支持、不支持の間で揺れた激戦州だ。

意見の違いに関わらず、その女性の多くが、今回の大統領選では初めて政治的な活動に身を投じたと話した。

コロナ禍の最中に失業したペンシルベニア州のプーラ・マカビーさん(44)は、自分にとってこれほど投票意欲が高まった選挙は初めてだと言う。「文字通り、国全体が砕けて燃え尽きるのか、それともついに前進するのかを決める選挙は初めて。私にとって、生まれてから最も重要な投票ではないかと思う」。マカビーさんはバイデン氏に投票した。

<ウイルスの影>

米国では、女性が多くの面でコロナ禍の矢面に立たされた。米労働統計局によると、職を失った割合は女性が男性よりも著しく高く、子供の自宅学習の面倒を見たり世話をしたりに追われている。シンクタンクによると、一方で、就業を続けられる女性の多くは、医療現場や社会福祉を筆頭に、現場の最前線で働く人々だ。

ロイターの調査によると、投票で重視する要因に新型コロナを挙げた割合は有権者全体でも高かったが、女性は特に際だった。エジソンの出口調査によると、女性有権者の52%が、バイデン氏の方が新型コロナにうまく対処するだろうと答え、トランプ氏の44%を上回った。

<歴史をつくる>

ウィスコンシン州ミルウォーキーに住むデニス・キャラウェイさん(64)は新型コロナで幾人もの友人を亡くした後、コロナを常に懸念してきた。しかし彼女が投票した一番の動機は、ハリス上院議員を米国初の女性で、そして黒人系の副大統領にすることだった。

バイデン氏がハリス氏を副大統領候補に選ぶと発表した時、キャラウェイさんは泣いてしまったという。リビングに飾った高祖母(祖父母の祖母)の鋭いまなざしの肖像を見詰めながら、彼女は奴隷だった可能性が高いと話すキャラウェイさん。祖先のために、自身と娘たちのためにも、この歴史的な選挙に手を貸さなければと感じたという。

元PR会社の幹部で今は引退しているキャラウェイさんは、黒人女子学生の社交クラブ時代の友人らを通じてウィスコンシン州のバイデン氏陣営とつながり、他のボランティアとともに電話掛けなどの選挙活動に加わるようになった。

黒人女性は圧倒的に民主党に投票する割合が高く、これまでもトランプ氏の強い支持層だったことはない。しかしロイターの調査によると、今年はますますトランプ氏に批判的になった。エジソンのデータによると、黒人女性の91%がバイデン氏を支持し、この割合は黒人男性より11%ポイント高かった。

<初めての投票>

アリゾナ州ではヤズミン・サガスチュームさん(19)のような若い中南米系有権者がバイデン氏を支持した。彼女は投票日の前日、友達2人と一緒に都市部フェニックスの100軒以上の家に、投票指南のビラを投函して回った。彼女らは今回、初めて大統領選で投票できるようになった年齢層だ。

バイデン氏は全米的に若年層の支持率が圧倒的に高く、18―29歳の層では62%の票を獲得したとみられる。

フェニックス育ちの大学生のサガスチュームさんは、メキシコ出身の母親とグアテマラ出身の父親の間に生まれた5人きょうだいの末っ子。政治には高校時代から積極的に関わってきた。バイデン氏の熱心な支持者というわけではなく、民主党予備選では進歩主義のサンダース上院議員を支持したし、70代の白人男性政治家よりは31歳のニューヨーク州選出のオカシオコルテス下院議員の方にずっと親近感を感じる。

それでもここ数カ月間、若い中南米系有権者に投票を呼び掛けてきた。「私たちはただトランプを落としたいの。それだけが目的」

<家族の分断>

深い分断が進んだ米国では、選挙戦が進むにつれて個人的な人間関係にもほころびが生じた。

ロイター/イプソスの調査によると、有権者の5分の1が、選挙が原因で家族のだれかと話さなくなったか、友人を失ったと答えた。

ノースカロライナ州の郊外に住むデニーズ・オートンさん(46)は元ソーシャルワーカーで今は引退しているが、このほど迎えた結婚記念日に、夫がトランプ氏に投票したことを明かしたという。「殴られたような衝撃だった」と涙ながらに話す。

オートンさんは綿花畑に囲まれた広大な農場で暮らす。自分と13歳の娘は、夫と15歳の息子と意見が対立している。「息子は15歳だから当然、父親の言うことを聞く。トランプの即興の言動を面白いと思っている。本当は弱い者いじめをしているだけなのに」 

障害者と働いていたオートンさんは、夫の家族――やはりトランプ氏支持者――がバイデン氏のきつ音癖をからかっているのを耳にして耐えられなかった。

オートンさんは、トランプ氏は女性を「蔑視」していると語る。台所にはバイデン氏とハリス氏のステッカーシートの上に聖書を乗せ、自分の車の後ろには「STD―ドナルド(トランプ)を止めろ。感染を拡大させるな」と書かれたステッカーを貼っている。

だがフェイスブック上ではもっと慎重にふるまう。オートンさんが属するコミュニティーはトランプ氏支持者が大半を占めるからだ。

ノースカロライナ州では、オートンさんのような大卒白人女性の半数以上がバイデン氏に投票した。こうした層のトランプ氏支持率は16年に比べて8%ポイント下がった。

<農村でもトランプ氏支持率低下>

16年の大統領選でトランプ氏の最も強固な支持層だった農村部の女性の間でも、その支持率は下がった。

エジソンの出口調査によると、全米でトランプ氏の農村部の得票率は54%と、16年から7%ポイント下がった。農村部の女性のバイデン氏支持率は、わずかだが50%を上回った。

そんな1人がレベッカ・シーデルさん(37)だ。ペンシルベニア州で夫とともに小さな畜産農家を営んでいる。

彼女はずっと、共和党の父の考え方に近かったが、トランプ氏が大統領になってから共和党を離れ、民主党に登録した。人種差別が台頭していると感じたことや、トランプ氏の保護主義的な貿易政策がその理由だ。

今年は自身や母親を含めて家族全員が新型コロナに感染し、そうした懸念が最高潮に達した。

シーデルさんは先頃、近くの農業用品店で男性グループが一人もマスクをせずにしゃべっているのを見かけた。

「(マスク着用の有無は)政治姿勢の表明になった。マスクをしていればトランプ支持ではない、と考える人もいる」

<トランプは駄目>

トランプ氏は福音派キリスト教徒の白人有権者の間で強い支持を誇っており、エジソンによると今回もその76%が彼に投票した。しかし16年に比べると4%ポイント低下している。

失った票の1つはハイラ・ウィンターズさん(71)のものだ。

以前、大学で事務職をしていた彼女はネバダ州ラスベガスの大規模な教会に定期的に通っている。16年、トランプ氏に投票したが、その後、トランプ氏が敵と見なす人々を攻撃する姿に失望するようになった。移民の子供たちを親と無理やり引き離す政策にもぞっとした。民主党の政策全体を受け入れているわけではないが、バイデン氏は「良識ある人」だと思っている。

もっと政治に関わりたいと、動画投稿サイト「ユーチューブ」でブログの作成方法を知り、2月にブログを立ち上げて「nottrump.net(トランプは駄目)」と名付けた。

警察の暴力に対する抗議活動が活発化すると、黒人の友人に連絡を取って「白人の特権」についてもっと知ろうと努めた。

期日前投票ではボランティアとして7日間、投票所に通い、投票の仕方について有権者の質問に答えたり投票ブースの設営を指示したりした。最終日、投票開始前から駐車場を抜けて続く行列にウィンターズさんは驚いた。

「恥ずかしながら、私は本当に変わった。71歳になるが、ここまで大統領選に関与したのは初めて」

ただ残念なことに、翌4日になって新型コロナに感染していることが分かった。周囲にたくさん人がいた場所として思い当たるのは期日前投票の時だ。自身は屋外のテントでマスクをしていたが、一部の有権者はしていなかった。

トランプ氏支持者の夫も陽性と診断された。2人とも深刻な症状は出ていないが、一緒に隔離措置を取ることになった。2人で政治的立場の違いを埋める時間が持てるかもしれない、とウィンターズさんは語る。

期日前投票でボランティアをする際には、感染リスクをあまり気にしていなかった。だが、もし気にしていたとしても「ボランティアをやったでしょう。あまりにも重要すぎる事だから」

(Mica Rosenberg記者、Gabriella Borter記者、P.J. Huffstutter記者、Mimi Dwyer記者、Chris Kahn記者)

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