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焦点:コロナ対策で急膨張の政府債務、「債券自警団」はまだ静観

ロイター / 2020年12月10日 11時30分

 「債券自警団」はいまだ出動せず――。今年は新型コロナウイルスのパンデミックに伴って世界各国が経済支援のために財政支出を急拡大し、同時に膨大な国債を発行したが、債券市場に利回り高騰という警告を発する気配はない。写真は5月、ワシントンの米FRB本部(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)

[ロンドン 8日 ロイター] - 「債券自警団」はいまだ出動せず――。今年は新型コロナウイルスのパンデミックに伴って世界各国が経済支援のために財政支出を急拡大し、同時に膨大な国債を発行したが、債券市場に利回り高騰という警告を発する気配はない。

債券市場が自警団と称されるようになったのは、1990年代に、要求する利回りをはね上げることで政府の放漫財政にお灸を据える動きを見せたためだ。

実際、国際金融協会(IIF)の予想に沿うように、世界の公的債務、企業債務、家計債務の総額は年末までに277兆ドルに達し、今年は年間で15兆ドルも増えそうだ。増加分の6割は、パンデミック対応に追われた政府債が占める。

S&Pグローバルの試算でも、世界の債務総額は年末に200兆ドルになる見込みだ。

ところが債券市場は落ち着きを維持し、利回りも極めて低い水準にとどまっている。前週に「ロイター・グローバル・インベストメント・アウトルック・サミット」に集まった投資家からも、債務膨張への危機感は示されなかった。

その主な理由は単純で、中央銀行が債券買い入れを通じて長期債利回りを押し下げ、政府の借り入れコストが抑えられているからにほかならない。また物価上昇率が、過去10年のほとんどの期間そうだったように2%未満で推移する限り、中銀は買い入れを続ける。

多くの資産運用会社にとって見れば、大半の国債、とりわけパンデミック対策として発行された分は中銀が満期まで保有し続けることになるため、決して市場でお目にかかることはない。

M&Gインベストメント・マネジメントの公共債最高投資責任者ジム・リービス氏はロイターサミットで、この種の「財政赤字は問題ではない」という世界観はこれからどんどん当たり前になっていくと予想。「表面だけで考えれば、債券自警団は心配をすべきだ。そうでない理由の1つは、債務返済コストが信じられないほど小さいことにある。それでも私の職業人生が終わらないうちにイングランド銀行(英中央銀行、BOE)、米連邦準備理事会(FRB)などの中銀が、買い入れた債券をあえて市場に放出するような事態が起きるとしたら、それは大変な驚きだ」と語り、現実としては国債が中銀の資産へと吸収され、そこでじっと動かないまま償還を迎えていくとみている。

最終的には中銀は、満期償還で得た資金を国債に再投資しない道を選ぶ可能性もある。しかし、米国債利回りの最近の上昇が証明したように、もし物価高が持続することになれば、それは変わってくるだろう。

とはいえそうした事態が起きるにはまだ何年もかかりそうだ。一方で金融と財政の政策上の境界はどんどんぼやけてきている。

NNインベストメント・パートナーズの最高投資責任者バレンタイン・ファン・ニューウェンハウゼン氏は、多くの中銀当局者が、債務返済コスト抑制を金融安定化という役割の一環とみなす姿勢を明確にしていると指摘。現在の返済コストや各中銀の考え方に基づけば、政府債は延々と借り換えられ、償還はされないだろうとも述べた。

<中銀にかかる重圧>

ジャンク債や新興国債の場合、ここには何らかの中銀による強力なバックストップが働かない以上、ある程度デフォルト(債務不履行)や債務返済免除要求が出てくるのは避けられそうにない。

IIFのデータによると、新興国市場の債務総額は76兆ドルを超え、今年既に何件かデフォルトや債務減免が発生している。

一方、金融セクターを除く企業と家計の債務額はそれぞれ80兆ドルと50兆ドルだ。

西側諸国でさえ、例えば学生ローンの返済免除要求が高まりつつある。

イタリアでは連立政権を担う「五つ星運動」はブログで、欧州中央銀行(ECB)は保有しているイタリア国債について、パンデミック中の発行分を償却すべきだとの見解を披露した。イタリアの当局はあわててこの提案を否定して見せ、こうした政策担当者が引き続き、あからさまな債務の「マネタイゼーション(貨幣化)を提唱されることを警戒していることを示した。

ただ、そもそもそんなことは必要ないかもしれない。

M&Gのリービス氏は、もしBOEが買い入れた英国債について償却すると言えば、市場は「残せ」と詰め寄るだろうが、中銀が国債をバランスシートにずっと入れてしまえば、だれも気に留めなくなると説明した。

政府が借り入れと支出を拡張させれば、ひときわ重圧が高まるのが中銀だ。市場は以前にも、中銀に緩和縮小を示唆されればパニックを起こした。そんな市場は、中銀が保有する債券の売却に言及したり、単に償還資金の再投資中止を決めただけで、もっと激しく動揺するかもしれない。

アリアンツ・グローバル・インベスターズのマクロ・アンコンストレインド責任者マイク・リデル氏は、FRBが2017年にバランスシート縮小を開始したが、1年後に10年債利回りが7年ぶり高値まで上昇すると、その取り組みをやめたと指摘。

「これがわれわれの居る世界だ」と言う同氏が引き合いに出すのは、日銀の経験だ。日銀は長期にわたる買い入れで国債の45%を保有するようになったばかりか、上場投資信託(ETF)を通じた株式購入まで実施している。同氏は、そうした状況は、やがて他の全ての中銀に訪れる未来だとの見方を示した。

(Sujata Rao記者、Dhara Ranasinghe記者)

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