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アングル:五輪延期で購入者の視界不良、眺望が売りの晴海フラッグ

ロイター / 2021年3月10日 13時52分

 3月10日、東京五輪・パラリンピックの選手村を改築して販売する集合住宅「晴海フラッグ」は、大会の1年延期で予定通りの引き渡しができず、一部の購入者が民事調停を申し立てる事態に発展した。写真は東京五輪の選手村のための建物。都内で1日撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

新田裕貴 梅川崇

[東京 10日 ロイター] - 東京五輪・パラリンピックの選手村を改築して販売する集合住宅「晴海フラッグ」は、大会の1年延期で予定通りの引き渡しができず、一部の購入者が民事調停を申し立てる事態に発展した。買い手側と売り手側の溝はなお埋まらず、訴訟になる可能性も出てきた。約4カ月後に開会式が迫る五輪と同様、先の見通せない状況が続いている。

<1枚紙の通知書>

都内に住む女性(45)は昨年6月、1通の封書を受け取った。中には紙1枚。「引き渡し予定日が1年程度変更することになります」と書かれていた。

女性は2019年11月、窓からの景観と広いリビングに魅了され、晴海フラッグの一室を約8500万円で購入した。そこへ届いた延期通知。「契約書を締結する際は結構足を運んだのに、こんな封書が1枚送られてきただけだった」と、女性はロイターの取材に語った。「こういうものなのかと衝撃を受けた」。

東京の豊洲市場にほど近い晴海フラッグは、都が進める再開発事業にもとづく都市開発プロジェクトで、23棟5632戸に約1万2000人が入居予定の大規模マンション群だ。選手村という特別感や東京湾を望む眺めの良さで注目を集めた。

三井不動産レジデンシャルや三菱地所レジデンス、野村不動産などの売り主によると、分譲される総戸数は4145戸。第1期1次と2次では940戸を売り出し、893戸に2220組の申し込みがあった。レインボーブリッジを一望できる部屋の倍率は71倍にまで跳ね上がった。

もともとは20年夏の東京五輪後に内装を改修し、23年3月をめどに購入者に引き渡される予定だった。それが昨年3月に大会の1年延期が決まったことに伴い、物件の引き渡しも1年程度先送りされた。売り主は昨年6月、契約解除を希望する場合は手付金の返金に応じると購入者に通知した。

23年に引っ越すことを前提に準備をしていた購入者は、契約を解除するか、1年余計に待つかの選択を迫られることとなった。都内に住む男性(37歳)は、「非常に一方的に向こう側が解釈、判断して、こちらには選択肢を残させないところに不信感を持った」と話す。

男性は19年7月、3LDKの部屋を購入した。100平米を超える部屋の広さやバリアフリー対応が万全だった点などに引かれたといい、「解約することはできるが、住みたいから解約したくないということを理解してほしい」と語る。

<対立の争点>

2月1日、取材に応じたこの2人を含む24人の購入者は東京地裁に民事調停を申し立てた。売り主に対して、説明会の実施や入居時期が後ずれしたことで生じる費用の補償の支払いを求めている。

売り手側と買い手側の主張は折り合わないままだ。選手村として使う予定の東京都は、もともと売り主に41億8000万円を払って2020年末まで1年間建物を借りる契約を結んでいた。五輪の延期に伴い、都は同額を払って賃貸契約を1年延長。購入者の入居時期も後ずれすることとなった。

買い手側代理人の轟木博信弁護士は、売却済みの物件にもかかわらず、都に貸し出す契約を新たに結んだことについて、売り主の責任を問えるかどうかが争点の一つだと指摘する。売り主が都への貸し出しを延長する義務はないとの主張だ。

売り主10社の幹事役である三井不動産レジデンシャルは、ロイターの取材に対し、売却済みの物件を都に貸し出すことは「契約上、問題ない」と回答。都から受け取る新たな約41億円を補償に充てるつもりはあるかとの質問には、「事業の詳細に関しては回答を差し控える」とした。売り手側の代理人は、轟木弁護士が送った質問状への回答として、新型コロナウイルスによる五輪延期に伴う引き渡しの延期は法律上、補償が必要な場合には該当しないと説明している。

都の関係者によると、都は建物を五輪選手村として使用するという当初の目的に沿って賃貸契約を新たに結んだだけで、売り主と購入者間の売買契約には関与していないという。

<イメージ悪化を懸念する声>

轟木弁護士は、五輪の開催が21年に延期されても、もともとの入居予定時期である23年3月ごろまでに物件を引き渡すことは可能ではないかというのがもう一つの争点になると話す。引き渡し期日を順守することは不動産契約上の大前提で、売り主側には最大限の努力が求められると、轟木弁護士は言う。

三井不動産レジデンシャルはロイターの取材に対し、住宅として必要な品質を担保するために設定した当初の工期を変更する予定はないと回答した。

轟木弁護士は、適切な補償による解決を期待するものの、売り主が調停に応じない場合、訴訟も視野に入れていると話す。

晴海フラッグの第2期販売は、コロナの感染拡大の影響もあり、昨年3月に延期されたまま今に至っている。敷地内に計画されている小学校の建設も後ずれしている。

調停に参加していない購入者の間からは、対立の長期化によるマンションや購入者全体のイメージ悪化を懸念する声も聞かれる。都内に住む男性(40歳)は、販売前にこのような対立関係が生まれることは望ましくないと考えている。

「契約者も入居後の生活が円滑になるようにしていく必要がある。売り主は、そうした将来を見据えたコミュニケーションの中心に立って、より積極的に対応して欲しい」と、男性は話す。

(新田裕貴、梅川崇 編集:久保信博)

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