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焦点:酷暑の「エアコン節約」で死者増も、再生エネ導入が鍵

ロイター / 2023年2月11日 8時16分

 2月6日、東日本大震災が発生した2011年、日本は福島第一原子力発電所での事故を受け、国内の原発稼働を停止した。節電を呼び掛ける動きはこの冬、ロシアのウクライナ侵攻に伴うガス不足に見舞われている欧州各地でも広がっている。写真はクールビズ開始に伴い、環境省内に置かれた気温計と携帯用扇風機。2012年5月、都内で撮影(2023年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

By Laurie Goering

[ロンドン 6日 トムソン・ロイター財団] - 東日本大震災が発生した2011年、日本は福島第一原子力発電所での事故を受け、国内の原発稼働を停止した。猛暑の夏には、国民にはエアコンの代わりに扇風機を使うといった節電が要請された。

節電を呼び掛ける動きはこの冬、ロシアのウクライナ侵攻に伴うガス不足に見舞われている欧州各地でも広がっている。

だが、人々の公共性に頼るこうした節電要請が日本で行われた2011年から15年の間に、暑さの中で節電したことが原因で発生した可能性がある死亡数が、日本で年間7710件程度あったとの推計が、新たな研究で示された。その大半は高齢者だった。

この研究結果は、2つのことを示唆している。気候変動をはじめとする脅威に立ち向かうべく人々に節電を呼び掛ける政策には、健康面の副作用が伴う可能性があること。そして、そのような健康被害を避けるためには再生可能エネルギーへの迅速な投資が最善策だ、ということだ。

「普通、節電は良いことだと考えられている。気候変動の進行を和らげ、経済面での節約にもつながることだ」と、この研究の共同執筆者の香港大学のへ・ゴジュン准教授は話す。

だが、日本についての研究結果を踏まえ、こう指摘した。

「個人単位でエネルギー消費を制限するのは得策とはいえないだろう。個人のエネルギー消費量が問題とならないよう、環境に負荷がかかり再生利用もできない従来の燃料から再生可能エネルギーへと移行することに政策の照準を定めるべきだ」

<未来への布石か、現代のコストか>

学術誌「アメリカン・エコノミック・ジャーナル:応用経済学」に掲載される予定のこの研究によると、福島での原発事故を受けて日本政府がエアコンの使用量削減を要請した後、一般の電力使用量は15%抑えられた。日本では例年、エアコンは夏季の家庭での電力消費量の半分近くを占める。

ただ、シカゴ大学エネルギー政策研究所の中国研究責任者でもあるへ准教授によれば、節電要請が出されていた間、1年間の死亡件数は(要請がなかった場合を)およそ7710件上回っていたと推計されることがデータの分析によって判明したという。その多くが特に気温の高い夏場に死亡していた。

亡くなった人の多くは、暑さによるストレスに比較的弱い65歳以上だった。若年層でも、熱中症にかかる人が急増したという。

現代人の安全を確保すると共に、次世代を守るため化石燃料削減と気候変動対策を両輪で進めていく上で、政策担当者が節電への取り組みにはリスクが伴うと理解することが極めて重要だと、へ准教授はインタビューで述べた。

「政策担当者は、気候変動に関する政策を立案し施行する際、こうした犠牲があることを認識すべきだ。(最も必要な時期に)エネルギー消費の削減を人々に要請するのは非常に悪い考えだ」

ただ、個人の取り組みとして、エネルギー効率の高い省エネ家電製品の購入を推奨することは賢明だと、へ氏は言う。

気候変動に起因する熱波の増加により、世界でリスクにさらされる人は増加している。影響は富裕国か貧困国かに関わらず、これまで危険性を指摘されてこなかったコミュニティーや場所にも及ぶ。

通常比較的涼しいとされるシアトルなどの都市が位置する米ワシントン州では2021年、前例のない熱波で気温が42度まで上昇。100人以上が亡くなった。  専門家は、より安定した電力供給システムが整い、個人が冷房を購入する経済的余裕もある富裕国のほうが、熱波への対処能力が比較的高いと話す。

しかし、そうした場所であっても、熱波で冷房の需要が高まれば電力供給がひっ迫する可能性がある。また、豪雨や洪水などの気候変動による自然災害で停電が起きれば、人々は危険にさらされる。

米医学会の学会誌「ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション」によると、フロリダ州では2017年のハリケーン「イルマ」直撃後の1週間で、停電した老人ホームで暮らす2万8000人の間で死者数が25%増加した。

研究者らは、将来的に低コストかつ少ない二酸化炭素の排出量でエアコンを使用できるよう、いまのうちに再生可能エネルギーに投資しておく必要性を認識することが重大だと口を揃える。インドのように既に気温の高い国では特に、悪化する酷暑から人々を守ることに繋がるという。

「貧困国は、問題に直面する前に先回りして考えておくべきだ」

へ氏の研究によると、インドで人々が熱波によって命を落とす確率は既に、米国の20─30倍にも上る。「基本的な電力インフラにアクセスできない」ことが一因だ。

再生可能エネルギーによる発電量を大幅に増やせば、酷暑を悪化させることなく、効果的な防御策が可能になるかもしれないという。

「将来的にクリーンエネルギーによる電力価格が十分低くなった時には、人々の電気使用量への制限はなくなる。気候変動に適応しながら、気候変動を緩和していくことができる」とへ氏は分析する。

インドでは現在、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの整備が進められている。米エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)によれば、2021ー22年の会計年度における再生可能エネルギー分野への投資額は145億ドル(約1兆9000億円)だった。

<政策の変化>

電力不足に直面しても熱波による犠牲を減らす措置は他にもある、と、ヘ氏は言う。

中国では干ばつの影響で水力発電ダムからの供給電力が不足した際、家庭用ではなく工業用の電気使用量を制限。企業は打撃を受けたものの、人命は守られたという。

明確なのは、気候変動対策として化石燃料の使用を削減することが次世代を守るために必要不可欠ということだ。ただし、異常気象に脅かされる現代の人々には「無視できない犠牲」を伴う、と警鐘を鳴らす。

へ准教授は「気候変動は既に私たちの身に降りかかっている。エアコンの使用量削減を推奨するなどしながら猛暑に打ち勝とうとしても、現代に生きる人々が命を落とすことになる」と懸念を示す。

「より良いアプローチとして挙げられるのは、クリーンエネルギーに素早く移行し、人々が自身の身を守るためにそうしたエネルギーを使用できるよう推し進めていくことだ」

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