アングル:ハマスの奇襲、前例ない情報戦でイスラエルの「虚を突く」
ロイター / 2023年10月10日 14時26分
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスは、今回のイスラエルに対する大規模な攻撃を仕掛けるにあたり、計画がイスラエルによって察知されるのを防ぐため、2年も前から入念な偽装工作を行っていた。写真は7日、ガザ地区からイスラエルに向けて発射されるロケット弾。ガザ地区で撮影(2023年 ロイター/Ibraheem Abu Mustafa)
Samia Nakhoul Jonathan Saul
[9日 ロイター] - パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスは、今回のイスラエルに対する大規模な攻撃を仕掛けるにあたり、計画がイスラエルによって察知されるのを防ぐため、2年も前から入念な偽装工作を行っていた。ハマスが戦闘を望んでいないと思い込んだイスラエルは、周到に仕組まれた奇襲作戦によって完全に虚を突かれた。
ハマスに近い消息筋は1973年の第4次中東戦争以来の規模となった今回の攻撃について「イスラエルに対して戦闘準備が整っていないという印象を与えた」と偽装工作の内幕を明かした。「大規模な作戦を準備する一方、イスラエルとの戦闘や対立を望まないという印象を広め、イスラエルを欺くため、数カ月間にわたり過去に例のない情報戦を展開した」という。
イスラエルはユダヤ教の安息日と宗教的祝日に合わせて行われた今回の攻撃が、事前に察知できなかったことを認めている。
イスラエル国防軍の報道官は「われわれにとっての9.11だ。してやられた。われわれは完全に意表を突かれ、敵は空からも地上からも海からも、多くの地点に素早く襲来した」と振り返った。
<経済重視を偽装>
ハマスに近い情報筋によると、事前準備のうち特筆すべきものの一つは、ガザ地区に模擬のイスラエル人入植地を建設して襲撃訓練を行ったことで、作戦のビデオまで作った。イスラエル側はそれを認識していたが、それでもハマスが対立を望んでいないと信じ込んでいたという。
ハマスは戦闘訓練を行う一方で、ガザ地区の労働者がイスラエル側で仕事に就くことできるようにする政策を重視し、新たな戦争を始めることには関心がないのだとイスラエルに思い込ませようとした。「イスラエルに対して、軍事的な賭けに出る準備ができていないというイメージを植え付けることができた」という。
イスラエルはハマスとの2021年の戦闘以降、ガザ地区のパレスチナ人がイスラエルやヨルダン川西岸地区で働けるように何千もの許可証を与えるなど経済的利益を提供することで、ガザ地区に基本的な経済的安定をもたらせようとしていた。イスラエル側では建設、農業、サービス業の給与が、ガザ地区の10倍になることも珍しくない。
別のイスラエル軍報道官は「(ガザ地区から)働きに来て金を持ち帰ることで、一定の落ち着きが生まれると信じていた。われわれは間違っていた」と悔やんだ。
イスラエルの治安当局筋も、ハマスの偽装工作の術中にはまったことを認めた。「彼らはわれわれに金が欲しいのだと思い込ませた。そして、演習や訓練を続け、戦闘に打って出た」
<手掛かりを与えない>
ハマスがイスラエルへの敵意を抑えたことで、一部の支持者からは公然と批判を浴びた。しかし、こうした動きもまた、ハマスの関心は戦闘ではなく経済に向いているという印象を植え付けるのに役立ったと消息筋は語った。
ヨルダン川西岸地区では、ハマスの沈黙に嘲笑を浴びせる人々もいた。昨年6月にパレスチナ自治政府のアッバス議長が率いる主流派組織ファタハが発表した声明では、ハマスの指導者らが国外に逃れ、「豪華なホテルや別荘」に住んでいると非難した。
さらに別のイスラエル安全保障筋によると、イスラエルはガザ地区におけるハマス指導者のシンワル氏が、ユダヤ人殺害よりもガザ地区の運営に注力していると信じていた時期があった。
また、イスラエル自体もサウジアラビアとの関係正常化に取り組み、ハマスから関心が逸れていたという。
ハマス指導者の多くは計画を知らされておらず、攻撃に投入された1000人の戦闘員も訓練中には正確な目的を全く知らされなかったという。
ハマスの情報筋によると、作戦は4つの部分に分けられていた。初動はガザ地区から3000発のロケット弾が発射され、同時に電動パラグライダーなどにより戦闘員が上空から侵入。グライダーに乗った戦闘員は地上に降り立つと陣地を確保し、イスラエルが築いた防壁に対する攻撃準備を整えた。
戦闘員は爆薬で防壁を破壊し、オートバイで侵入。ブルドーザーが隙間を広げ、さらに多くの戦闘員が四輪駆動車でイスラエル側に侵入した。
<イスラエルに大きな被害>
消息筋によると、ハマスの特殊部隊はイスラエル軍のガザ南部司令部を攻撃し、通信を妨害した。ハマスに近い消息筋によると、作戦の最終部分は人質のガザ地区への移動で、その大半が攻撃の初期に達成された。ガザ地区の近くでは、音楽フェスの参加者が人質となった。
イスラエル治安筋によると、イスラエル軍はガザ地区に近い南部ではフル稼働していなかった。イスラエル人入植者とパレスチナ人武装勢力の間で暴力の応酬が急増し、一部の部隊がイスラエル人入植者を守るためにヨルダン川西岸地区に再配置されたという。「彼ら(ハマス)はその機に乗じた」という。
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