焦点:欧州で崩れる右派への「防疫線」、EUの重要政策に影響力
ロイター / 2024年6月10日 18時11分
欧州議会選挙は、右派・ナショナリスト勢力が物価高騰や移民問題、環境対策負担増大などを巡る有権者の不満を巧みに取り込んで議席を大きく伸ばす見通しで、EUの重要政策への影響力を強めようとしている。写真はハンガリーのオルバン首相。ブダペストで10日撮影(2024年 ロイター/Marton Monus)
Philip Blenkinsop
[ブリュッセル 10日 ロイター] - 欧州議会選挙は、右派・ナショナリスト勢力が物価高騰や移民問題、環境対策負担増大などを巡る有権者の不満を巧みに取り込んで議席を大きく伸ばす見通しで、欧州連合(EU)の重要政策への影響力を強めようとしている。
右派・ナショナリストやポピュリスト、EUに懐疑的な勢力などの合計獲得議席は、欧州議会事務局の推計に基づくと定数(720)の4分の1弱に達する勢い。
米国でも過激な主張を掲げるトランプ前大統領の人気が根強く、現状維持を唱える既存の主要政党から極端な党派に有権者の支持が流れる傾向が、西側で広がりつつあることが確認できる。
実際、ハンガリーやイタリア、スロバキアではすでにナショナリストの首相が生まれ、フィンランドとスウェーデンは右派政党が政権を担うか支えている。オランダでも反移民の自由党が連立与党入りしそうな様相だ。
過去の欧州議会選で、これら各国の右派は「英国に続け」とばかりにEUや通貨ユーロからの離脱を主張していたが、今回はEUの中で影響力を行使しようと考えている。
英王立国際問題研究所のアルミダ・ファンリーイ上席研究員は、極右を政治の表舞台から排除するためのいわゆる「防疫線」が崩れてきていると指摘。右派側がソーシャルメディアを幅広く駆使して若い有権者を取り込んでいる点などをその理由として挙げた。
<結束図れるか>
ベルギー北部オランダ語圏の極右「フラームス・ベラング(VB)」に属する議員の1人は新たな欧州議会の課題として、1)最近合意されたEUの移民協定の廃止、2)環境規制の緩和、3)フォンデアライエン氏に比べて右派寄りの次期欧州委員長選出――を示した。
現時点で次期欧州委員長レースは、第1党の座を維持するとみられる中道右派「欧州人民党(EPP)」に支えられて続投を目指すフォンデアライエン氏が先頭を走っている。
ただ、同氏も欧州議会での確実な承認を得るためにはイタリアのメローニ首相が率いる「イタリアの同胞」など一部右派勢力を味方につける必要があるかもしれず、メローニ氏らの政治的立場を強めることになる。
欧州改革センター(CER)のルイジ・スカッツィエリ上席研究員は、こうした中でEPPは既に、環境と成長の両立を図るための「欧州グリーンディール」により広範な環境政策を盛り込む熱意を後退させていると述べた。
スカッツィエリ氏は、右派が今後移民審査の厳格化や、EU拡大に向けて必要な改革措置の承認をより難しくするような取り組みを進める事態も想定。「これは直ちにというより時間をかけて顕現化してくる効果だろう。右派は、もっと全般的な政治的議論の形成という面でもかなり強力な影響力を持っている」と説明した。
欧州政策センター(EPC)のアソシエートディレクター、コリーナ・シュトラトゥラト氏は、この先鍵を握る要素は、過激な右派がどこまで結束できるかになるとの見方を示した。
これまでの右派勢力は、一体化という意味では実績が乏しい。フランスの極右の顔となっているマリーヌ・ルペン氏は、メローニ氏に対して右派の大合同を呼びかけているが、ルペン氏が属する国民連合(RN)が主導する会派は先月、ドイツのための選択肢(AfD)を除名したばかりだ。
またメローニ氏と会派を組む一部政党と、ハンガリーのオルバン首相が率いる「フィデス・ハンガリー市民連盟」の距離も一層遠くなろうとしている。
EPCの調査によると、右派勢力はこうした足並みの乱れが響き、投票結果を完全にコントロールするには欧州議会の7割余りの議席が必要だが、ここまでの議席を得られないのはほぼ間違いない。
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