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アングル:中絶巡る国民の分断、伊メローニ政権下で深刻化

ロイター / 2024年8月11日 7時57分

イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、恐らく西欧諸国でも最も鮮明に中絶反対の姿勢をとる首脳だが、同国では妊娠中絶はこれまでも決して容易ではなかった。写真はミュージシャンのリンダ・フェキさん。ナポリで7月撮影(2024年 ロイター/Claudia Greco)

Alvise Armellini Claudia Cristoferi Yesim Dikmen

[ローマ/ナポリ 6日 ロイター] - イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、恐らく西欧諸国でも最も鮮明に中絶反対の姿勢をとる首脳だ。もっとも、カトリック信者が多数を占め、国土内にカトリックの総本山であるバチカンを抱えるイタリアでは、妊娠中絶はこれまでも決して容易ではなかった。

ナポリ出身のミュージシャン、リンダ・フェキさん(33)が、中絶処置を受ける際に味わった屈辱感や虐待について自身のSNSアカウントに投稿したところ、自分も同じような経験をしたという多くのイタリア人女性から、心のこもった励ましのメッセージが送られてきた。

だがその一方で、批判や中傷も浴びた。背景には、メローニ政権下で深刻化する生殖権を巡る国民の分断がある。

フェキさんはロイターに対し、「自分の体験談を公開しようと決めたのは、自分は名前を知られているから、私が声を挙げれば共鳴する人も増えるかもしれないと思ったから。1人の市民としてもある種の責任を感じるが、表現者として、中絶は権利だというメッセージを伝えたい」と語った。

イタリアで中絶が合法とされるのは妊娠から3カ月以内で、それ以降は母体の精神的もしくは肉体的な健康が深刻に脅かされる場合に限られる。ただし、手続きの煩雑さや文化的、現実的な障害が待ち受けている。

保健省のデータによると、イタリア国内の婦人科医の約63%は、公式には「良心的拒否者」と呼ばれる医療従事者であり、倫理的な理由により中絶処置への関与を拒否している。この比率はイタリア南部の一部地域ではさらに高く、80%を上回る。

フェキさんが最初に訪れたのはナポリのサン・パオロ病院。だが、同院の婦人科医は本当に中絶を望むのか質問しただけでなく、フェキさんが遠方で暮らすパートナーと最後に会った時期を考慮すると、中絶が合法とされる時期を越えているはずだと主張した。

フェキさんが抗議すると、その医師は彼女が他の男性と関係を持った可能性をほのめかしたという。その後、開業婦人科医による検査で、まだ妊娠3カ月以内であることが確認された。

サン・パオロ病院産婦人科のルイジ・テラチアーノ科長は、フェキさんが受けたひどい扱いについて遺憾に思うと述べ、「ご本人の希望があれば、お会いして状況を確認させていただきたい」とロイターに語った。

<次はもっと慎重に>

その後フェキさんはカルダレリ病院に向かった。そこで手術前に投与された薬により激しい痛みが生じたが、誰も鎮痛剤を与えてくれなかった。手術後も、「良心的拒否者」の看護師は、初めのうちはナースコールへの対応を拒否したという。

彼女が中絶処置を受けた3月4日は、隣国フランスが中絶を憲法上の権利と定めた日である。

フェキさんはインスタグラム上で、「手術直後に」執刀医と看護師から妊娠してしまったことについて叱責されたのは「胸が張り裂けるほど」つらかったと書いている。

「(中絶の)選択は私たちの権利なのだから、それについて良し悪しを言うべきではない」とフェキさんはロイターに語った。

カルダレリ病院の広報担当者は、フェキさんからのフィードバックを歓迎するとして、患者ケアサービスには改善の余地があると付け加えた。同病院は、フェキさんとこの件について話し合うために連絡をとっていると述べ、フェキさんもそれを認めている。

<文化的な対立>

メローニ首相(47)は、イタリア初の女性首相であり、2022年から右派政権を率いている。ベストセラーとなった自伝「私はジョルジャ」では、シングルマザーだった母親が迷った末に中絶を選ばなかったことで自分は生まれたと書いている。

個人的には中絶に反対しているものの、メローニ首相は中絶を合法化した1978年制定の法律については改廃しないと宣言している。同法が中絶の防止についても規定していることに触れ、むしろ「この法律をもっと完全に執行」すると主張している。

メローニ首相が率いる連立政権は、「母性支援」団体が中絶相談クリニックに関与することを認める法律を可決し、先日は、そうしたクリニックを訪れる低所得の妊婦を対象として、月額1000ユーロ(約16万円)の「母性手当」を5年間支給することを提案した。

6月に行われた主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)の開催国として、メローニ首相は共同声明の最終稿から「安全で合法的な中絶」の重要性に触れた部分を削除するよう主張した。メローニ内閣の閣僚の1人によれば、首相がサミットに招かれたローマ教皇フランシスコに不快感を与えることを避けようとしたという。教皇フランシスコはこれまで中絶を「殺人」と表現してきた。

イタリアでは中絶反対団体が声高にロビー活動を行っており、連立政権の複数の政治家と強いつながりがある。

反中絶団体の1つで、ローマで毎年開催される「私たちは生命を選ぶ」集会を主催する「プロビタ・ファミリア」の広報担当者ジャコポ・コーへ氏は、中絶を巡る社会の分断は深まってきたと語る。

「中絶を巡る状況は変化しており、私たちの活動の参加者、特に若い世代は、さらに決意を強めている。他方で、私たちに対する不寛容な行為は増えており、ここ4、5年の間に、私たちの施設を狙った破壊行為が10件発生している」

コーへ氏は、メローニ首相が中絶法を改廃するとは期待していないが、目標は世論を中絶反対の方向に変えていき、いずれは同法の廃止に向けた地ならしをすることだと語った。

その一方で、子育ての余裕がないことを心配する女性への支援を中心に、政府が中絶を防ぐ取り組みを強化することを希望していると述べた。

中絶の権利を支持する人々は、特に貧困層を中心に妊婦に金銭的支援を行うことに何ら問題はないとしつつ、中絶を選択する妊婦が社会的な不名誉を味わったり心理的重圧にさらされたりするべきではないと主張する。

ミラノ大都市圏で複数の中絶相談クリニックを指導している心理学者のフランチェスカ・ピエラツゥオーリ氏は、クリニックの仕事は中絶を断念させる説得とは全く関係なく、同氏が担当するクリニックには反中絶団体の介入はまだないと言う。

長年にわたり中絶の権利を擁護する活動に携わってきた婦人科医のエリサベッタ・カンティアーノ氏は、女性に対して望んでいない子どもを生むよう説得を試みる人々は、「相手をどれほどつらい目に遭わせようとしているのか、まったく分かっていない」と語った。

(翻訳:エァクレーレン)

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