情報BOX:米大統領選候補者テレビ討論会の見どころ
ロイター / 2024年9月10日 13時29分
米大統領選の民主党候補、ハリス副大統領と共和党候補のトランプ前大統領は10日、初のテレビ討論会で対決する。写真左はハリス氏。ウィスコンシン州ミルウォーキーで8月撮影。写真右はトランプ氏。ニュージャージー州ベッドミンスターで8月撮影(2024年 ロイター/Marco Bello, Jeenah Moon)
James Oliphant
[ワシントン 9日 ロイター] - 米大統領選の民主党候補、ハリス副大統領と共和党候補のトランプ前大統領は10日、初のテレビ討論会で対決する。
ハリス氏にとっては、政策の優先順位を示すとともに、自身の知性を侮蔑し、人種差別的、性差別的な攻撃を浴びせるトランプ氏をはね返す強さを見せる機会だ。
トランプ氏にとっては、ハリス氏の勢いを鈍らせるチャンスとなる。
大半の世論調査では、全米および激戦州の半数超でハリス氏がやや優勢だが、トランプ氏も11月5日の選挙で勝てる距離に付けている。
討論会は一般に、選挙に非常に大きな影響を及ぼす可能性があり、両候補にとっては今回が唯一の討論会になる可能性もある。バイデン大統領は6月の討論会で失敗し、選挙戦から降りることになった。しかし2016年、ヒラリー・クリントン氏はトランプ氏との3回の討論会全てで相手を打ち負かしたと見られていたにもかかわらず、選挙ではトランプ氏が勝利した。
今回の討論会の見どころを紹介する。
<変化をアピール>
両候補とも、自分こそは現状を覆す「チェンジ」をもたらす候補だとアピールしている。現副大統領と前大統領の対決であることを考えれば、やや逆説的な話だ。
ハリス氏は、バイデン政権の失策に引っ張られず、その功績に貢献した実績を訴える一方で、自身が大統領になれば米国が新たなスタートを切るとも示唆している。
トランプ氏は2017年から21年まで4年間大統領を務めたにもかかわらず、首都ワシントンの体制に反旗を翻す反乱分子のように装っている。
しかし同時に、ハリス氏よりも国際舞台での経験が多いことを誇示し、例えば自分ならウクライナやガザでの紛争を終結させ、核武装した北朝鮮やイランから米国を守ることができると約束している。
<個人攻撃>
ハリス氏が候補者となって以来、トランプ氏は彼女の家系の信憑性に疑問を呈し、演説やソーシャルメディアへの投稿で個人攻撃を繰り返してきた。
討論会でこうした攻撃を繰り返せば、投票先を決めていない有権者、特にトランプ氏が大統領にふさわしい気質を備えているのかと疑問視している有権者を遠ざけることになりかねない。
2016年のクリントン氏との討論会では、トランプ氏は頻繁に激怒し、司会者の話をさえぎり、指を指して彼女をののしった。2020年にはバイデン現大統領に同じ戦術を試みて何度も話をさえぎり、バイデン氏に「黙ってくれないか」と言わせた。
ハリス氏はこれまで、トランプ氏の個人攻撃をおおむね無視してきた。トランプ氏が討論会に個人攻撃を持ち込んだ場合、ハリス氏がどう対処するかに注目する視聴者もいるだろう。
トランプ氏との対照を際立たせたいなら、ハリス氏は同じ土俵に引きずり込まれない姿勢を示す必要がある。
<チャンス>
この討論会は、テレビを見守る何百万人もの国民に対し、ハリス氏が自身の政治的アイデンティティーを確立するチャンスだ。
有権者の間では「バイデン氏とトランプ氏の再対決はうんざり」という声が繰り返し聞かれていただけに、ここ数回の大統領選の民主党候補に比べて知名度が低いことは、ハリス氏にとって大きな武器になるかもしれない。
元カリフォルニア州司法長官であるハリス氏にとっては、検察としての手腕を発揮する舞台にもなる。2021年の連邦議会議事堂襲撃事件に際し、トランプ氏が取った行動などの責任を追及することができるだろう。
法廷での経験豊富なハリス氏は、6月の討論会におけるバイデン氏よりも効果的に、トランプ氏の虚偽にリアルタイムで反論できるかもしれない。
トランプ氏にとって今回の討論会は、ハリス氏は国政を運営する準備ができておらず、自分の方がその仕事に適任だと主張する絶好のチャンスだ。
トランプ氏はおそらく、バイデン政権の国境警備政策をめぐってハリス氏を攻撃するだろう。国境警備政策は今年初めに強化されたが、それまで政権は記録的な数の移民流入を阻止できなかった。トランプ氏は、物価高によって中間層の暮らし向きが厳しくなったとも主張しそうだ。
トランプ氏はまた、混乱に満ちた2021年の米軍のアフガニスタン撤退に対するハリス氏の責任を追求する可能性もある。「喜び」や「バイブス(雰囲気)」に頼る選挙戦を展開してきたハリス氏に、国の最高司令官になる準備はあるのかと疑問を投げかけるだろう。
<弱み>
民主党は数カ月前から、トランプ氏には権威主義的傾向があり、民主主義にとって危険だと主張してきた。ハリス氏はこの路線を繰り返すだけでなく、政策面でトランプ氏の最大の弱点のひとつである人工妊娠中絶への反対姿勢についても強く追求する可能性がある。
ハリス氏はおそらく、人工中絶権を合憲とした判断を連邦最高裁が覆したことについて、判事を任命したトランプ氏の役割を強調し、同氏が大統領に返り咲けば女性の生殖の権利がさらに縮小されると警告するだろう。
ハリス氏の側近や参謀らによれば、同氏はまた、国境の壁、インフラ、新型コロナウイルスのパンデミックに関するトランプ氏の大統領在任中の失敗に焦点を当てる見通しだ。
ハリス氏は、トランプ氏が企業に減税というばらまきを行い、最低賃金の引き上げに反対したとして、在任中の経済政策についても非難する可能性がある。
ハリス氏はまた、保守派のヘリテージ財団が打ち出した政策案「プロジェクト2025」とトランプ氏を結びつけようとするかもしれない。このプロジェクトは大統領の権限を乱用するものだとの批判があり、トランプ氏は距離を置こうとしている。
不倫口止め料不正処理事件でトランプ氏が有罪の評決を下されたことや、同氏の性的暴行疑惑を持ち出す可能性もある。
一方トランプ氏は、民間医療保険の廃止や、大規模なクリーンエネルギー計画である「グリーン・ニューディール」など、ハリス氏が2020年の大統領選時には支持していたが現在は支持を撤回しているリベラルな政策を視聴者に思い出させる可能性がある。
ハリス氏が無党派層や投票先を決めていない有権者の支持を得るには、こうした疑問への強力な回答が必要だ。同氏はこれまで、大統領就任に向けた大まかなビジョンしか描いてこなかったが、トランプ氏と司会者らはもっと詳細な説明を迫るかもしれない。
一方、急伸左派の有権者は、ガザ紛争などの重要な問題でハリス氏の見解がバイデン氏と異なるかどうか、そして停戦合意に向けてイスラエル政府により強い圧力をかける意思があるかどうかにも注目するだろう。
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