アングル:「オッペンハイマー」公開待つ被爆者、過去を乗り越え未来へ
ロイター / 2024年3月11日 8時4分
Tom Bateman
[広島市 11日 ロイター] - 八幡照子さんが広島市の上空を包み込む青白い光を見たのは8歳のときだった。1945年の夏の朝、世界初の原爆投下で彼女は意識を失い、家があった広島の街は壊滅した。
86歳になった八幡さんは、3月29日にようやく日本で公開される映画「オッペンハイマー」を真っ先に観たいと考えている。原爆開発を主導した科学者の物語が、核兵器を巡る議論を再び活発化させることを期待している。
「オッペンハイマーさん自身への恨みとかそういうものではなく、もっと大きな問題」と八幡さんは話す。被爆体験を語り継ぐ活動をしている八幡さんは、「真実を知って乗り越えて、二度と核兵器を使わない、廃絶しなくてはいけない。過去の反省を未来に生かさないといけない」と語る。
「マンハッタン計画」を指揮した米国の物理学者ロバート・オッペンハイマー氏の生涯を描いたクリストファー・ノーラン監督の作品は、今年の米アカデミー賞で多数の受賞が期待されている。
昨年7月の封切り以降、興行収入は10億ドル(約1470億円)近くに達したが、日本は世界公開の計画から除外された。20万人以上が犠牲となった広島と長崎で毎年8月に開かれる原爆の追悼式典とタイミングが近かった。
評論家からは、作品が日本の原爆犠牲者を軽視しているとの声が上がった。同時期に封切られてヒットした映画「バービー」と一緒に扱われて話題になったことも、日本で批判の対象となった。核爆発を彷彿(ほうふつ)とさせるイメージを背景に、両作品の主演を組み合わせた画像がソーシャルメディアに投稿されたことなどに日本で反発が広がり、「バービー」の配給会社ワーナー・ブラザースが謝罪した。
日本は唯一の被爆国として核廃絶に向けた取り組みを主導してきた。2022年にロシアがウクライナに侵攻し、プーチン大統領が核の使用をちらつかせたことで、核兵器問題は再び注目が高まった。
八幡さんは、80歳を過ぎてから被爆体験を証言し始めた。英語を習い、広島平和記念資料館を訪れる外国人に1945年8月6日朝の出来事を伝えている。
「開発、製造し、実際に投下したことは、今でも背筋が凍るような思い」と八幡さんは語る。「太平洋戦争終結のためなどの大義名分で研究・開発したのだろうが、あまりにも大きな威力だったので良心は苦しかったのではないか。この世に核兵器が存在したら大変なことになると、オッペンハイマーさんがいちばんよく分かっていたと思う」。
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